院長インタビュー

てんかん・神経のセーフティーネットとして機能する静岡てんかん・神経医療センター

てんかん・神経のセーフティーネットとして機能する静岡てんかん・神経医療センター
髙橋 幸利 先生

独立行政法人国立病院機構 静岡てんかん・神経医療センター 院長

髙橋 幸利 先生

目次
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静岡市の新東名新静岡インターチェンジ近くにある独立行政法人国立病院機構 静岡てんかん・神経医療センター(以下、静岡てんかん・神経医療センター)は、“安心と信頼、良質なてんかん・神経の包括医療”という理念のもと、てんかんや神経難病・認知症、重症心身障がいのある患者さんに対する医療を専門として提供しています。

今回は同院の特徴や診療体制、独自の取り組みについて、院長である髙橋 幸利(たかはしゆきとし)先生にお話を伺いました。

静岡てんかん・神経医療センター 外観
静岡てんかん・神経医療センター 外観

当院は、てんかんと重症心身障がいに強みを持つ国立療養所静岡東病院と、神経難病に強みを持つ国立静岡病院が組織統合し、2001年に国立療養所静岡神経医療センターとして開院。その後、2004年には独立行政法人化に伴い、“独立行政法人国立病院機構 静岡てんかん・神経医療センター”と改称しました。

このような経緯から、静岡医療圏におけるてんかん、神経難病・認知症、重症心身障がいを専門とする病院として、“小児科”、“精神科”、“脳神経外科”、“脳神経内科”といった14の診療科・部門を有し、2020年1月現在で病床数は406床(一般246床、重症心身障がい160床)となっています。

中央脳波室
中央脳波室

当院の特徴は、てんかん、神経難病・認知症、重症心身障がいの診療に特化した病院であるという点です。

てんかんにおいては、前身である国立療養所静岡東病院が1975年に難病(てんかん)診療基幹施設に指定されるなど、歴史的な背景があります。現在は、広範な年齢層の患者さんの診断と薬物治療、外科治療、リハビリテーションを提供。静岡県はもちろん、日本のてんかん医療を支えるべく、医療機関との連携、相談、研修、啓発といった活動も行っています。

神経難病に関しては、難病医療協力病院の指定を受けています。また、認知症における地域医療にも積極的に取り組んでおり、地域のかかりつけ医や訪問看護ステーションと連携を図ることで在宅医療を支援しています。

重度心身障がいの分野では、家庭での療養が困難な患者さんに対して、全てのライフステージに応じた生活に寄り添う医療を提供しています。また、重症心身障がい児者の通所支援事業として“ひまわり通園”を開設。生活介護や療育支援を実施しています。

パープルデーの静岡市役所旧庁舎ライトアップの様子
パープルデーの静岡市役所旧庁舎ライトアップの様子

当院はてんかん診療拠点機関に認定(2020年1月現在)されていますので、てんかんの治療で当院に来院される患者さんは、静岡県内だけでなく、関東から東海地方を中心に県外からも多数いらっしゃいます。2017年度のデータでは、初診の患者さんの約54%が県外から、入院の患者さんは約76%が県外から来院されました。また、海外からの患者さんも初診で2人、入院で26人いらしています。これは、当院が国際抗てんかん連盟、国際てんかん協会と協力し、国際協力の一環として行っているアジア各国での研修セミナー、当院への研修留学生の受け入れの実施による効果と考えています。

てんかんの診療については、てんかん専門医(公共社団法人 日本てんかん協会認定)24人、小児神経専門医(一般社団法人 日本小児神経学会認定)7人、臨床遺伝専門医(臨床遺伝専門医制度委員会認定)1人といった専門医が治療にあたっています(2020年1月時点)。

また、3月26日はてんかん啓発の日として、パープルデーと制定されています(一般社団法人Purple Day Japan認定)。パープルデーとは、てんかんの患者さんを応援する意味を込めて、パープルのものを身につけたり、飾ったりする日です。当院は2019年、2020年において3月26日に合わせ、静岡市役所旧庁舎をパープル色にライトアップするイベントを主催しています。

2011年に起こった東日本大震災の際に、当院は岩手県山田町や大槌町で医療支援を行いました。その際、被災地におけるてんかん患者さんの不安を耳にすることが多くありました。その経験を踏まえ、てんかんに関する相談事業を開始。“てんかんホットライン”を設け、電話相談は9時〜22時まで受け付けています。メールでの相談にも対応しています(2020年1月現在)。これらの相談をきっかけに、当院を受診される患者さんもいらっしゃいます。

当院では“医療福祉相談室”というセクションを設置しています。こちらでは、当院を受診されている患者さんやそのご家族の、療養に伴う経済的、心理的、社会的な不安や心配事についてソーシャルワーカーが相談を受けます。必要に応じて院内の医師や看護師、理学療法士、作業療法士、保育士、児童指導員などのスタッフや外部の専門家と連携しながら、問題解決をお手伝いしています。

国立病院機構は、セーフティーネット医療を使命のひとつに掲げています。セーフティーネット医療とは、重症心身障害、筋ジストロフィーを含む神経・筋難病などの民間では対応が困難な分野について、患者さんとそのご家族が安心して治療や療養ができるように各地域の国立病院機構が支えることです。この観点からも、患者さんを支えることを当院の使命として考えています。

医師、看護師向けの研修会の様子
医師、看護師向けの研修会の様子

私たちは、当院の医師による、院外の医師やコメディカル向けの研修を積極的に行っています。たとえば、てんかんにおいては、発作が起こった際の映像をお見せしながら解説を実施。てんかんは、百聞は一見に如かずの病気であるともいえます。映像を解説付きで見ることによって、研修を受けた医師のてんかん発作型診断が早く正確になり、てんかんの診療レベルを引き上げることにつながればという意図があります。

また、講師となる当院の医師にとっても、それぞれが問題意識を持って資料作成に挑むことで、自己研鑽のよい機会となっていると思います。

当院の看護部では、国立病院機構の教育プログラムをもとに作成された教育体制を敷いているほか、採用後の新卒・既卒を問わない研修によって、ブランクのある方でも働けるような環境づくりを行っています。

また、院内認定看護師を設けることにより、看護の熟練度を向上させる試みを行っていることも独自の取り組みのひとつです。現在は、てんかん、重度心身障がいの院内認定看護師を設けており、今後は、神経難病の院内認定看護師の仕組みを作ろうとしています(2020年1月現在)。院内認定看護師は、学科試験と実技試験を経て認定。この制度を作ることにより、看護師の勉強意欲やプロフェッショナル意識の高まりにつながっていると感じています。

病院のメンバーとともに
病院のメンバーとともに

データとガイドラインをもとに診断するというのも大切ですが、自分の目で見て、自分の診察の経験のなかで患者さんを診断するということも非常に大事であると思っています。

「この病気はこの薬だから、これで治療します」という医療では、個別医療にはなりません。教科書通りにやってもうまくいかないことは、臨床の場ではたくさんあります。患者さんにどういう変化があったのか、どういう状況なのかを自分の目で見て、考えながら進んでいってほしいですね。

当院はてんかん、神経難病・認知症、重症心身障がいに特化した病院ですから、そのほかのさまざまな病気を全て診療するということはできません。しかし、特化している領域については、お困りの患者さんをしっかりと支える覚悟でやっていきたいと考えています。

私が理想とする病院は、職員が皆生き生きとしていて、患者さんに明るく対応ができることです。これが患者さんの治療につながると考えています。かつて事務職の方に「院内の廊下を明るくしないと、患者さんがよくならない」と言われました。これはもちろん照明の話ではあるのですが、非常に的を射た指摘だなと感じました。照明だけではなく、職員も明るく。そのうえで、お困りの患者さんに頼っていただける、相談していただける病院でありたいと思っています。

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  • 独立行政法人国立病院機構 静岡てんかん・神経医療センター 院長

    髙橋 幸利 先生

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