温泉地として有名な岐阜県下呂市に位置する、地方独立行政法人 岐阜県立下呂温泉病院(以下、岐阜県立下呂温泉病院)は、地域に即した医療を提供し続けるために、日々の診療を行っています。
今回は、同院の診療体制や職員教育などについて、理事長である山森 積雄先生にお話を伺いました。
1953年7月に県立病院として開院した当院の理念は、”生活の場で必要とされる医療“を県立病院の立場から創設し、地域住民および県民から信頼され、必要とされる病院を目指すことです。この理念を実現するためには、地域の方が住み慣れた土地で生活し続けられるように、必要な医療を提供し続けることが欠かせないと考えています。
そこで、当院では2014年5月に新病院を開院し、各診療科で診療内容の充実を図っています。加えて、医師や看護師などの医療従事者が働きやすい環境づくりにも積極的に取り組んでいます。
私は「この地域で生活している方々が生活していくうえで、欠かすことのできない医療がある」と考えています。これを“生活の場の医療”と呼んでいます。
以下では、当院が提供する生活の場の医療について、お話しいたします。
当院は、救急告示病院として下呂市と近隣市町村を含む地域の二次救急医療を担い、手術や入院が必要な救急患者さんの治療に対応しています。
また、心筋梗塞や脳卒中などの救急患者さんに関しては、初期治療後、適切な医療機関に引き継ぐ体制を整えています。胸に強い痛みや締めつけを感じて来院された心筋梗塞の救急患者さんを例にお話しします。心筋梗塞の患者さんが救急搬送されたら、まずは当院で必要な初期治療を行います。その後、患者さんの病状に適した治療を受けられる医療機関に引き継ぎます。
救急医療では、迅速な初期治療が患者さんの予後、ひいては生命に大きく関わってくることから、救急体制の構築は必要不可欠であると考えています。当院では、突然の症状やけがをしたときに迅速に対応し、二次救急医療を担う病院としての役割を果たしてまいります。
生活の場の医療のひとつとして、血液透析が挙げられます。血液透析とは、腎機能が低下してしまった方の血液を浄化することで、体内にたまっていた老廃物などを体外に排出する治療です。血液透析では、週3日病院に足を運び、透析治療を受ける必要があります。そのため、夜間の血液透析に対応したり、治療体制を整えたりすることで、少しでも透析患者さんの通院による負担を軽減できるように努めています。
また、妊婦さんが住み慣れた地域でお子さんを産みたいと思うのは自然なことでしょう。その望みを叶えるためにも、産婦人科の診療を継続できるように、人材確保や体制づくりに努めています。そして、生まれてきたお子さんを小児科で診療継続することも、当院が果たすべき役割であると考えています。そのほか、内科や整形外科など、お子さんから高齢の方までが必要とする診療科の体制整備も重視しています。
当院は、必要とする診療や治療を地域の方に提供する病院であり続けるために、これからも精進いたします。
地域の方が求める医療を提供し続けるためには、職員の人材確保が必要不可欠です。そのためには、職員が働きやすい環境整備をしなければならないと考えています。
その取り組みのひとつとして、負担が偏ることがないように、勤務時間や人員配置などを工夫しています。また、職員が今どのような状況にあるか、どのような働き方を希望しているかを一人ひとりにヒアリングしています。加えて、子育て中の職員が働きやすいように院内保育所を設置し、土曜保育も実施しています。
職員がいきいきと働くことができる環境づくりが、業務の効率化だけでなく、職員の定着につながることを期待しています。ひいては、それが地域の方への医療貢献に結びつくよう、励んでまいります。
当院の看護部では、スキルアップを通じて、よりよい看護の提供を目指しています。その一環として、経験や能力に応じて基礎から実践までを段階的に学べる教育体制を整えています。また、院外研修や学会への参加も支援し、実践能力の向上をはじめ、後輩の指導やリーダーとしてのスキルを高めることも可能です。
看護部で力を入れている取り組みが、安全性や手厚い看護の提供を目指す各委員会の活動です。医療安全の活動として、組織横断的に院内の安全管理に取り組むことをはじめ、感染防止委員会では組織横断的に院内感染の防止に、看護事故防止委員会では医療事故の防止などに取り組んでいます。看護の質を高めるための活動としては、看護記録委員会において看護記録の明確化や、看護継続委員会において在宅療養の支援に取り組んでいます。これからも、看護師たちがスキルアップすることによって、地域の方に信頼していただける細やかな看護の実践に結びつけていきます。
当院の臨床研修プログラムでは、“医療は地域とともにあり”をモットーに、地域医療やへき地医療を担う医師の育成に尽力しています。当院のような地域医療を行う病院では、都心部の病院に比べて、患者さんとの距離が近く、それゆえに患者さんの望んでいることが理解できるようになるでしょう。だからこそ、自身のスキルアップにとどまらず、患者さんに寄り添うという医療の本質を学ぶことができる機会を得られると思っています。
“医療の本質”は、治らない病気にどう向き合っていくかであると私は考えています。医学が進歩するにつれて、治すことができる病気も増えています。けれども、経済面や家族と過ごしたいという思いから、病院での入院や治療を望まない患者さんもいらっしゃいます。また、患者さんの病状は日々変化していて、今日元気であっても明日も元気である保証はありません。患者さんの望みはさまざまですし、その思いに医療でどのように応えていくか、病気を抱える患者さんと向き合う姿にこそ、医師としての本質が現れます。若手医師の皆さんには、多様な患者さんと向かい合うなかで、医療の本質を知り、医師として成長していってください。
2014年5月に新病院を開院し、病院として新たなスタートを切りました。そこで、よりいっそう地域の方に信頼される病院となることが当院の目標です。そのためには、地域の方が安心できる病院である必要があると考えています。そのひとつとして、新病院では全病室を個室にしました。これは、入院している患者さんのプライバシーを守ると同時に、院内の感染防止対策にも役立っています。
一方、公開講座の開催や、地域のお祭りに救護班として参加するなどの活動もしています。これらの活動は、地域の方に医療面で貢献するという意味だけでなく、当院がどのような病院か知っていただく機会になればと考えています。
これからも、県立病院としての役割を果たすべく、地域で生活する方々が必要とする医療を提供し続けられるように、尽力いたします。
山森 積雄 先生の所属医療機関