肛門周囲膿瘍は、下痢便などが肛門腺に入ることにより細菌感染を生じ、肛門周辺に限局して膿がたまった状態です。主に発熱や肛門周辺の強い痛みなどの症状が見られますが、放置すると痔瘻に発展して治療が複雑になる可能性があるので、そうなる前に適切な治療を受けることが重要です。
では、肛門周囲膿瘍と痔瘻にはどのような違いがあるのでしょうか。
下痢便などが肛門腺に入り込むことで肛門の周辺に細菌感染が生じ、限局性に膿がたまった状態です(上図左参照)。放置すると、膿瘍が自然に破れて中から膿が排出されます。
膿瘍から皮膚までの膿の排出路が管として残ると、肛門腺に入り込んだ部位から膿瘍までにも管があるので、肛門内と皮膚とが交通します。この状態になると痔瘻といいます(上図右参照)。すなわち、肛門周囲膿瘍は痔瘻の前段階で、肛門周囲膿瘍が慢性化した場合に痔瘻に発展します。
肛門周囲膿瘍では、肛門周辺の痛み・違和感、しこり、発熱などの症状が見られます。椅子に座れないほど強い痛みから、違和感がある程度まで症状の強さはさまざまです。
皮膚に近い部分のしこりは手で触れますが、深部にある場合は触れ難いので、放置されてしまうこともあります。また、発熱の程度は、微熱から39~40℃程度まで上がることもあります。
痔瘻では、膿の出口から分泌物を排出して、下着汚染や肛門周辺の皮膚にかゆみを生じます。また、肛門周辺にしこりを触れることもあります。
肛門周囲膿瘍の治療では、手術により膿瘍を切開し、中にたまった膿を排出します。
また、膿瘍が広範囲である場合、あるいは膿瘍が深い場合、さらに細菌感染による全身合併症が生じている場合などは、必要に応じて手術後に抗菌薬が3~7日間処方されることがあります。手術後も肛門周囲膿瘍の再発や手術で切開した創から痔瘻に発展することがあるので、外来で定期的に経過観察を受けることが大切です。
痔瘻の治療でも手術が行われますが、肛門周囲膿瘍とは異なり、痔瘻の位置や肛門の機能温存などを考慮していくつかの手術法から適切なものが選択されます。
手術法には、痔管*を切り開く“痔管開放術”や痔管のある部分をくり抜く“痔管切除術”、痔管の中にアラビアゴムや薬剤を浸した糸を通して結び、少しずつ痔管を切り離していく“シートン法(瘻管結紮療法)”、括約筋の機能を温存する“括約筋温存手術”などがあります。
*瘻管……細菌感染の原因となる肛門腺から膿の排出される出口までがトンネル状につながっている部分(上図右参照)
肛門周囲膿瘍では強い痛みや皮膚の腫れなどの気付きやすい症状を認めることが多く、このような症状が現れたら病院を受診するとよいでしょう。
一方、痔瘻では肛門周囲膿瘍に認められる痛みや発熱の症状が通常なく、症状だけを見ると肛門周囲膿瘍の段階よりも楽になったと感じ、病院の受診を控えてしまう方もいます。しかし、痔瘻の場合は放置すると膿の出口が塞がり肛門周囲膿瘍が再発する、あるいは膿の出口が複雑化してより治療が難しくなることもあるほか、さらに長期にわたって放置するとがんを合併する例もあるので、気になる症状がある場合にはなるべく早く病院や診療所を受診することが大切です。
受診する診療科は、肛門科や肛門外科が望ましいでしょう。
肛門周囲膿瘍が生じた場合には、痔瘻に発展する前に治療を受けることが望ましいです。また、すでに痔瘻に発展している場合でも、放置するとより治療が困難になり、さらにがんを合併する可能性もあるので、なるべく早めに病院を受診することを検討しましょう。
医療法人伯鳳会 大阪中央病院 外科 特別顧問
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