インタビュー

痔瘻の症状と検査ー痔瘻がんとの関係とは?

痔瘻の症状と検査ー痔瘻がんとの関係とは?
佐原 力三郎 先生

牧田総合病院 肛門病センター長

佐原 力三郎 先生

この記事の最終更新は2016年04月22日です。

核・痔瘻裂肛の3つの中で、痔瘻は他の肛門疾患とはかなり異なる面を持ち合わせています。感染症である肛門周囲膿瘍から引き起こされる痔瘻は、ごくまれに痔瘻がんと呼ばれる病態に移行することが知られています。痔瘻のさまざまな病態や痔瘻がんについて、牧田総合病院 肛門病センター長の佐原 力三郎(さはら りきさぶろう)先生にお話をうかがいました。

肛門小窩(しょうか)や肛門陰窩(いんか)と呼ばれる小さなくぼみは、もともと誰にでも存在しているものですが、汚物や細菌が侵入すれば必ず痔瘻になったり(のうよう)をつくったりするというわけではありません。感染が成立するには私たち宿主側の条件、例えば過労で抵抗力が落ちて下痢をしているといったことが関わってきます。

体調を崩してトイレに行ったら下痢をしていて、翌日どうもお尻が痛いということがあります。肛門周囲膿瘍の場合には腫れ・痛み・発熱という、前日までなかった症状が一気に押し寄せて来ますので、異常な状態であるということが自分でもはっきりわかります。最寄りのクリニックや病院に行ったときに肛門周囲膿瘍の診断が下れば、おそらくその場で「切開排が必要」ということになるでしょう。

膿を出せば楽になりますから、切開は待たずにすぐ行なったほうが肛門や患者さん自身のために良いといえます。そうすればいったん症状は落ち着きますし、肛門周囲膿瘍がその後すべて痔瘻になるわけではなく、そこに至るにはそれなりの段階がありますので、応急処置が済んだ後に専門医を訪れても遅くはありません。

肛門周囲膿瘍は皮膚直下の浅いところほど本人が自覚しやすいのですが、瘍の発生部位が直腸周囲や直腸壁内などの深いところである場合には、痛覚や感覚があまりない部分であるため、本来なら痛いはずの病態でも痛みを感じず、自覚症状が発熱だけになります。

そうすると「何か熱があるな、風邪でもひいたかな」と考えてしまい、風邪の治療や抗生物質による治療などが先行することがあります。膿瘍がさらに大きくなると肛門の奥に違和感が生じ、肛門を診察した結果、直腸周囲膿瘍や深部膿瘍が発見されるということもあります。

核と痔瘻が併存することはあっても痔核で盛り上がったクリプト(肛門小窩)から痔瘻を形成する例はありません。

痔核というのは盛り上がって肛門を出たり入ったりするものなので、本来クリプトがあっても、そこから肛門腺までの組織が肥大化することによってクリプトから肛門腺につながるルートが断裂するため、そこに下痢便が来ても感染する経路がないのです。

痔瘻がもっともできやすい部位は真後ろ、つまり背中側です。それは肛門内の圧が後ろにかかりやすいのか、それともクリプトから肛門腺までの構造があまり破壊されずにあるためなのか、理由はわかっていません。しかし部位によって頻度にはかなり違いがあり、そうしてできた痔瘻が痔核と同一部位で合併することはないのです。

核・痔瘻裂肛の3つの肛門疾患はいずれも良性疾患ですが、その中で唯一、がんとの関わりを持つのが痔瘻です。慢性炎症の繰り返しの中から、突然変異的に組織の悪性化が始まると考えられています。

しかし、どんな痔瘻も放っておくとがんになるかというと、そうではありません。私たちのところに来られる痔瘻がんの患者さんに多くみられるのは、長年放置していた痔瘻なのに何か最近痛みが違う、あるいは今まで出てきたものとの質が違うといったことに気づくケースです。そのことを今までかかっていた病院で訴えたときに、専門医の受診を勧められるということもあります。

痔瘻がんを疑うためには、いくつかの条件があります。まず痔瘻が10年以上続いていること、それに加えて症候的な意味で痔瘻がんの特徴のようなものがあります。長年活動性の痔瘻があり、その性状が少し変わってきたときにはがん化への変化を注意すべきであると言えます。特に深部痔瘻の場合は注意が必要です。

患者さんご本人が感じるのは、肛門周囲に1カ所、膿の出る瘻孔(ろうこう)があるということだけだと思いますが、中でどういうルートをとっているか、どこから発生しているかによって痔瘻の種類・分類が変わってきます。肛門の周囲にひとつ瘻孔があるというだけで、あらゆるパターンの痔瘻があり得るのです。したがって、繰り返し排膿する瘻孔がある場合には専門的に診断を受けたほうがよいでしょう。中には専門医でさえ迷うタイプもあります。

痔瘻の診断では、最近はMRIなどの画像診断による補助診断が非常に有効だと認められてきています。

解析能力の向上によって細かな変化も見ることができるので、痔瘻の正確な位置やパターンが触診でもわからない場合、画像診断は有効です。

しかし、熟練していれば触診のほうが画像診断よりも細かくわかります。若い医師にいつも伝えているのは、病変を持った肛門ばかりを診ているとわからないということです。正常な肛門もよく触診して、何が違うのかを比較することが大切です。正常な肛門とそうでない肛門の変化の中で、病的か正常範囲内かということは数を診ていくことでわかってきます。

もうひとつ大切なのは愛護的に、つまり優しく診るということです。肛門は非常に敏感なところですから、普段排便するときに痛くなくても指を突っ込めば痛いものです。それを察して愛護的に診察すれば、逆に緊張が取れてちょっとした異常がわかりやすくなります。「力を入れないで」と言っても入ってしまうのですから、ただでさえ恥ずかしいと思って来ている患者さんに痛みを与えると、診察の協力すら得られなくなって病気の発見が遅れてしまうことがあります。

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