痔核・痔瘻・裂肛の3つの中で、痔瘻は他の肛門疾患とはかなり異なる面を持ち合わせています。感染症である肛門周囲膿瘍から引き起こされる痔瘻は、ごくまれに痔瘻がんと呼ばれる病態に移行することが知られています。痔瘻のさまざまな病態や痔瘻がんについて、牧田総合病院 肛門病センター長の佐原 力三郎先生にお話をうかがいました。
肛門小窩や肛門陰窩と呼ばれる小さなくぼみは、もともと誰にでも存在しているものですが、汚物や細菌が侵入すれば必ず痔瘻になったり膿瘍をつくったりするというわけではありません。感染が成立するには私たち宿主側の条件、例えば過労で抵抗力が落ちて下痢をしているといったことが関わってきます。
体調を崩してトイレに行ったら下痢をしていて、翌日どうもお尻が痛いということがあります。肛門周囲膿瘍の場合には腫れ・痛み・発熱という、前日までなかった症状が一気に押し寄せて来ますので、異常な状態であるということが自分でもはっきりわかります。最寄りのクリニックや病院に行ったときに肛門周囲膿瘍の診断が下れば、おそらくその場で「切開排膿が必要」ということになるでしょう。
膿を出せば楽になりますから、切開は待たずにすぐ行なったほうが肛門や患者さん自身のために良いといえます。そうすればいったん症状は落ち着きますし、肛門周囲膿瘍がその後すべて痔瘻になるわけではなく、そこに至るにはそれなりの段階がありますので、応急処置が済んだ後に専門医を訪れても遅くはありません。
肛門周囲膿瘍は皮膚直下の浅いところほど本人が自覚しやすいのですが、膿瘍の発生部位が直腸周囲や直腸壁内などの深いところである場合には、痛覚や感覚があまりない部分であるため、本来なら痛いはずの病態でも痛みを感じず、自覚症状が発熱だけになります。
そうすると「何か熱があるな、風邪でもひいたかな」と考えてしまい、風邪の治療や抗生物質による治療などが先行することがあります。膿瘍がさらに大きくなると肛門の奥に違和感が生じ、肛門を診察した結果、直腸周囲膿瘍や深部膿瘍が発見されるということもあります。
痔核と痔瘻が併存することはあっても痔核で盛り上がったクリプト(肛門小窩)から痔瘻を形成する例はありません。
痔核というのは盛り上がって肛門を出たり入ったりするものなので、本来クリプトがあっても、そこから肛門腺までの組織が肥大化することによってクリプトから肛門腺につながるルートが断裂するため、そこに下痢便が来ても感染する経路がないのです。
痔瘻がもっともできやすい部位は真後ろ、つまり背中側です。それは肛門内の圧が後ろにかかりやすいのか、それともクリプトから肛門腺までの構造があまり破壊されずにあるためなのか、理由はわかっていません。しかし部位によって頻度にはかなり違いがあり、そうしてできた痔瘻が痔核と同一部位で合併することはないのです。
痔核・痔瘻・裂肛の3つの肛門疾患はいずれも良性疾患ですが、その中で唯一、がんとの関わりを持つのが痔瘻です。慢性炎症の繰り返しの中から、突然変異的に組織の悪性化が始まると考えられています。
しかし、どんな痔瘻も放っておくとがんになるかというと、そうではありません。私たちのところに来られる痔瘻がんの患者さんに多くみられるのは、長年放置していた痔瘻なのに何か最近痛みが違う、あるいは今まで出てきたものと膿の質が違うといったことに気づくケースです。そのことを今までかかっていた病院で訴えたときに、専門医の受診を勧められるということもあります。
痔瘻がんを疑うためには、いくつかの条件があります。まず痔瘻が10年以上続いていること、それに加えて症候的な意味で痔瘻がんの特徴のようなものがあります。長年活動性の痔瘻があり、その性状が少し変わってきたときにはがん化への変化を注意すべきであると言えます。特に深部痔瘻の場合は注意が必要です。
患者さんご本人が感じるのは、肛門周囲に1カ所、膿の出る瘻孔があるということだけだと思いますが、中でどういうルートをとっているか、どこから発生しているかによって痔瘻の種類・分類が変わってきます。肛門の周囲にひとつ瘻孔があるというだけで、あらゆるパターンの痔瘻があり得るのです。したがって、繰り返し排膿する瘻孔がある場合には専門的に診断を受けたほうがよいでしょう。中には専門医でさえ迷うタイプもあります。
痔瘻の診断では、最近はMRIなどの画像診断による補助診断が非常に有効だと認められてきています。
解析能力の向上によって細かな変化も見ることができるので、痔瘻の正確な位置やパターンが触診でもわからない場合、画像診断は有効です。
しかし、熟練していれば触診のほうが画像診断よりも細かくわかります。若い医師にいつも伝えているのは、病変を持った肛門ばかりを診ているとわからないということです。正常な肛門もよく触診して、何が違うのかを比較することが大切です。正常な肛門とそうでない肛門の変化の中で、病的か正常範囲内かということは数を診ていくことでわかってきます。
もうひとつ大切なのは愛護的に、つまり優しく診るということです。肛門は非常に敏感なところですから、普段排便するときに痛くなくても指を突っ込めば痛いものです。それを察して愛護的に診察すれば、逆に緊張が取れてちょっとした異常がわかりやすくなります。「力を入れないで」と言っても入ってしまうのですから、ただでさえ恥ずかしいと思って来ている患者さんに痛みを与えると、診察の協力すら得られなくなって病気の発見が遅れてしまうことがあります。
牧田総合病院 肛門病センター長
「痔瘻」に関連する病院の紹介記事
特定の医療機関について紹介する情報が掲載されています。
関連の医療相談が13件あります
痔瘻について
お世話になっております。 昨日慢性裂肛に伴う内括約筋の切開の手術を受けました。 その際、元々患っていた裂肛の下に皮下痔瘻を形成しており、追加で痔瘻根治術をされました。 質問ですが、皮下痔瘻は通常の痔瘻と異なり、裂肛が元でなるのでしょうか? それの手術がもとで、肛門の縁に豆みたいな腫れ物ができました。 この腫れ物は痔瘻になるのでしょうか? それとも手術後の腫れ物で様子見でいいですか? 担当医からそのうち腫れは小さくなると言われました。 宜しくお願い致します
肛門のかゆみ
いつから:2年ほど前 どこが:肛門 状態:1日に1,2回、肛門が異常にかゆくなる、かくことで症状は緩和される。その際、汁のようなものもでている。 これは何か病気なのでしょうか?病院に行くべきなのか、市販薬で治るのかを教えてほしい。病名等もあれば。
痔瘻術後について(手術痕)
先日、痔瘻根治手術を受けました。10年前に発症してから3回目の手術になります。 術後10日経ったのですが傷口少々膨れ上がった状態です。3日前ほどからマルビを帯びて膨らんできたので不安です。 術後に傷口が膨れることはあるのでしょうか?? また、傷口から便が漏れているような気がします。 そのようなことはありますか?
睡眠薬の耐性について
マイスリーを頓服で3年半飲んでいます。最近は1錠+1/4錠飲んでいます。 数日前に飲んでも眠れず1/4ずつ増やしながら最終的に倍まで増やしても眠れない日がありました。 その日を境に飲んでも眠れなくなりました。正確には寝つくまでに今までの倍くらいの時間がかかり寝ても1、2時間で目が覚めそのあと寝れず起きる時間まで寝たか寝てないかわからない状態が続くという感じです。 今までマイスリーを飲んで寝れなかった日はなく、多少時間がかかったり量を増やせば必ず寝れていました。 今回のことがあってから睡眠薬を飲んでも眠れないということを不安に思うようになりました。 マイスリーは飲んでいるうちに耐性が出来ることは知っています。 実際半錠から飲み始め今の量まで増えています。 耐性というのは量が増えることだと思っていたのですが、マイスリーそのものに耐性ができるということもあるのでしょうか? マイスリーに耐性ができたから倍飲んでも効かなくなってるんでしょうか?
※医療相談は、月額432円(消費税込)で提供しております。有料会員登録で月に何度でも相談可能です。
「痔瘻」を登録すると、新着の情報をお知らせします
「受診について相談する」とは?
まずはメディカルノートよりお客様にご連絡します。
現時点での診断・治療状況についてヒアリングし、ご希望の医師/病院の受診が可能かご回答いたします。