肛門内とお尻の外がトンネルのような管でつながってしまい、そこから膿が出るのが痔瘻です。繰り返し膿が出る場合には、手術によって膿の通り道である瘻管を開放する必要があります。しかし、その方法にはさまざまなヴァリエーションがあり、古くからインドに伝わる治療法が取り入れられているものもあります。
牧田総合病院 肛門病センター長の佐原 力三郎先生は、従来の術式を踏まえた上でさらに一歩踏み込んだ、より低侵襲な手術を目指しています。それぞれの術式と、より低侵襲な手術の考え方についてお話をうかがいました。
シートン法は痔瘻の治療法のひとつです。
膿の通り道である瘻管の中にゴムまたは糸などを通します。ゴムを輪にして縛ると、ゴムが縮もうとする力によってゆっくりと時間をかけて筋肉やその他の組織を切っていき、切れたところはまた徐々に修復されます。
一方、この部分を一気に切り開いて開放するのが切開開放術です。その際に肛門が1カ所欠け、内外括約筋の一部も欠けますので、肛門を締める力は少し落ちます。しかし後でその部分が盛り上がってきて肉芽や繊維組織(瘢痕)に置き換わり、肛門管が再形成されます。
この切開開放術ではダメージが大きいということで、シートン法では瘻管にシートン(ゴムひも)を入れて縛ることによって、ゆっくりとカットします。これをdelayed lay openともいいます。
一気に切り開く場合と比べると、組織の再生とカッティングが同時進行で行なわれるという違いがあります。よく例えられるのはice cutting methodといって、氷の塊に糸をかけておもりを吊るし、糸の圧力で氷を切るというものです。糸が通ったところはいったん氷が切れますが、そのあとでまた氷同士がくっつくのと同じ現象です。
縛り方が強すぎると数日で切れてしまいますが、それでは切開開放術と変わりありません。逆に時間をかけ過ぎると患者さんの治療期間が長くなってしまうというデメリットがあります。
ただ縛るだけでなく、糸に薬液をつけてその薬液の働きで組織の切断と再生を同時に行うクシャラ・スートラというインド伝承の治療法もあります。薬液の持つ腐食、肉芽促進、抗炎症、抗菌作用によってより効果的に治療ができる方法として、国内いくつの施設で行なわれています。
私はカッティング・シートン法も切開開放術も、まだこれではいけない、もっと低侵襲な(患者さんの身体をより傷つけない)治療を目指すべきだと考えています。
どこをどう切れば治るかということは、これまでの歴史が証明しているのですが、私たちは本当にそれだけの範囲を切らなければ治らないのかということを追求して、切る範囲を限定しています。切らなくても済む部分を少しでも多くできれば、より低侵襲になっていきます。それが私の取り組んでいることなのです。
もともと生まれながらに存在していた陥凹部(クリプト)が、いったん痔瘻になってしまえば「原発口」という病気としての名前で呼ばれます。しかしそれは本質的なことでしょうか。もともと正常として存在していたものが、たまたま感染巣としての肛門腺につながっている入り口であるというだけなのです。
痔瘻になったのは周りの環境がそうさせたのですから、クリプトも残し、肛門上皮も残しながら治療をしても治すことはできます。肛門上皮を温存すれば、便の通り道に傷がありません。そうすると患者さんも楽ですし、早く退院して復帰することができます。
その一方で、膿のトンネル部分(瘻管)だけをきれいにくり抜く、瘻管くり抜き法という術式もあります。しかしこのくり抜き術は、ベテランで高い技術をもつ医師ほど再発率が高くなったという傾向があります。周囲の筋肉などをできるだけ傷つけずに残し、瘻管だけをくり抜くと治りが良いように思えますが、結果的にそのくり抜いた部分がまた再開通してしまったようです。
クリプトから細菌が中に入っていくにはそれなりの理由があって、決してその瘻管が悪いわけではありません。環境が変わらなければ同じことがまた起こるのです。ですから、痔瘻の治療においては括約筋の一部は必ず処理する必要があり、まったくの無傷では治らないのです。
切開開放術やカッティング・シートン法のようにすべて切る必要はないでしょうが、ここはダメージを加えないと再開通してしまうというポイントを限局・限定化していくことが大切です。
牧田総合病院 肛門病センター長
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