院長インタビュー

大学附属病院の質の高い医療が受けられる、川崎市立多摩病院の取り組み

大学附属病院の質の高い医療が受けられる、川崎市立多摩病院の取り組み
長島 悟郎 先生

川崎市立多摩病院(指定管理者 学校法人聖マリアンナ医科大学) 院長

長島 悟郎 先生

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川崎市多摩区にある川崎市立多摩病院は、この地域の1次2次救急(軽症から中等症に対応する救急体制)を担っています。駅から至近という立地に加え、市立病院でありながら患者さんの治療を担当するのは大学で医学生を指導する教授、准教授という医療の質の高さから、川崎市北部に住んでいる方から愛され、信頼される存在です。

そのような同院の診療の特長や地域医療への取り組みについて、病院長の長島(ながしま) 悟郎(ごろう)先生にお話を伺いました。

当院がある多摩区を中心に宮前区や麻生区を含む川崎北部地域は、いまだに人口が増加し続けています。同時に高齢化も進んでおり、特に麻生区では2023年に公開された2020年のデータでは日本でもっとも高齢化が進む自治体となりました。高齢化の波は医療ニーズの変化をもたらし、近い将来、血管系の病気による救急搬送の患者数が1.5倍に増加すると予測されています。当院はそんな川崎市の北部地域の1次2次救急を担う病院であり、高齢化に応じた体制が求められています。

一方で、この地域は再開発が進んだことにより新しいマンションや住宅が増え、赤ちゃんや子どもの数も増加しています。さまざまな世代が暮らすこの地の中核を担う病院として、多くの診療科で質の高い医療サービスを提供する必要があります。

当院は市立病院でありながら聖マリアンナ医科大学の附属病院でもあるという特長を生かし、地域の皆さんの期待に応える医療を提供しています。

川崎市の委託を受け聖マリアンナ医科大学が運営する当院では、高齢化に伴う脳や心臓の血管系疾患の増加に対応し、大学病院ならではの新しい医療機器や施設、新しい治療法を積極的に取り入れています。
たとえば、当院は従来に比べより安全、精密で患者さんの負担が少ないロボット“ダヴィンチ”を2021年から導入し、現在は大腸がん前立腺がんの手術を行っています。また、造血幹細胞移植のような進んだ治療を行っており、2022年には無菌治療室と末梢血幹細胞採取機器(まっしょうけっかんさいぼうさいしゅきき)を新たに導入して自家末梢血幹細胞移植という県内でも数少ない治療を可能にしています。

我々は大学附属病院でもあるので、新しい医療の研究も行い、実際の治療に生かしています。
そのような我々の強みが端的に現れているのが、29ある診療科のほぼ全てで、治療にあたる医師が大学で教壇に立ったり学会で発表を行ったりするような立場にあることです。このような高い医療知識を持つ専門家が治療を担当するのは、いわゆる市立病院では珍しいことであり、当院の際立った個性ではないかと思います。当院の医師が白衣に付けている名札には大学の職位も記載しているで、ぜひご覧ください。

大学附属の病院であることは提供する医療のレベルの高さにつながりますが、一方で敷居の高さにつながる面があると考えています。

しかし当院は、2路線が交わる登戸駅からわずか3分の距離にあり、屋根付きの通路で雨天でも傘が不要という、患者さんが通いやすいアクセスを持っています。体力的な問題でほかの病院へ通うのが難しい患者さんを受け入れることもできる病院であり、敷居の高さが感じられてよい訳ではありません。

立地を生かし、多くの患者さんにより必要とされる病院になるためには、患者さん一人ひとりに心地よい医療体験を提供する必要があります。そこで当院は患者さんへの対応の質を高めるための教育にも力を注ぎ、病院全体の雰囲気を温かくする取り組みを進めています。さらに、川崎のタウンFM局での番組提供や地元タウン誌への記事掲載を通じて、私たちの活動を積極的に市民に紹介し、地域社会の頼れるパートナーとしての存在感を高めています。

我々は今後も病院を取り巻く多様な声に耳を傾け、そのフィードバックを医療サービスの向上に反映させることで、より患者さんと地域に根差した病院を目指したいと考えています。

また地域連携病院としての役割を積極的に担い、川崎北部地域の医療体制強化に努めています。そのためには地元の医療機関と密接に協力し、患者さんが必要とする医療を、各医療機関と手分けをしながら地域全体で支える体制を構築する必要があります。当院は定期的な交流会や勉強会を通じて医療提供者間での情報共有と連携を深め、適材適所で患者ケアができる地域づくりを進めています。

それだけでなく、当院はもっと根本的な課題にも目を向けています。

実は、川崎市の北部は地域のクリニックの数が人口に対して少ないという課題があります。この問題に対処するため、プライマリ・ケア(総合診療)の専門家であり学会理事の経験もある医師を当院に迎えました。その結果、若い医師たちが全国から集まり、総合診療を中心に脳外科や循環器内科、外科との連携のもとで医療を学ぶ体制の構築を進められるようになりました。彼らが経験を積んで川崎市内のほかの病院へ進出したり新たに開院したりすることで、地域医療のさらなる充実を目指し、この地域に質の高いケアを提供できるようになることを期待しています。


当院は「市民がいつでも安心し、満足できる愛ある医療を提供する」という理念のもと、質の高い医療サービスの提供を心がけています。大学病院としてのメリットを最大限に生かし、専門性の高い医療を提供する一方で、地域社会にとって身近で信頼できる存在であり続けることが目標です。

また、地域の災害拠点病院としての役割も担い、大地震や水害、パンデミックといった緊急事態に際しても、常に質の高い医療を提供できるよう体制を整え、日々準備を行っています。ですが、私たちの努力だけでは足りません。地域の他医療機関とも協力しながら、全ての人々が信頼できる医療を地域全体で提供し続けられるよう、今後も努力を続けていきます。

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