大阪府東大阪市にある石切生喜病院は、1982年7月に開院した総合病院です。東大阪地域を代表する急性期総合医療センターで、中河内医療圏における救急医療も担っています。精神科や産科、小児科を除くほぼ全ての診療科を有し、地域住民や行政からも大きな期待を寄せられている同院の役割や今後ついて、病院長の平田 一人先生にお話を伺いました。
当院は1982年7月に当地で開院しました。病院名の由来となっているのは、“石切の地(=石切)”で誕生したことと、“療養される方々と、生きる喜び(=生喜)を共有したい”という当院の理念です。当初の病床数は159床、透析は30床、診療科目は8科でしたが、現在は病床数が331床、透析が100床、診療科目が29科に増えました。また、2023年3月には手術支援ロボット“ダビンチ(da Vinch)Xi”を導入するなど、最新の設備を積極的に導入して、万全の体制で患者さんを診療できるように整備を進めています。
東大阪市は医療圏で言うところの中河内医療圏にあり、当院を受診される患者さんの8割が同医療圏の方です。地域の特徴は、東大阪市の人口約50万人のうち、65歳以上の方が約28%を占めるなど高齢化が進んでいることです。その中でも、当院がある枚岡地域(東大阪市東部)は生駒山の麓に広がる住宅密集地で、高齢者の割合が急速に増えています。高齢化は当エリアに限った問題ではありませんが、それに加えて、中河内医療圏は大阪府内でもっとも人口あたりの病床数が少ないといった課題も抱えています。そのため、救急患者の地域外搬送が問題となっており、当院も病床数を増やすなどして、多くの救急患者さんを受け入れる努力をしています。中河内医療圏で二次救急(入院や手術を要する重症患者への救急医療)を担う当院の役割は非常に大きいものと感じています。
当院は中河内医療圏の二次救急を担っており、東大阪市を中心に近隣市からの救急の患者さんを、365日24時間体制で受け入れています。一方、救急車で搬送されてくる救急患者さんについては、先述したように、病床の不足から地域外へ搬送されるケースが散見されます。そこで、救急を担当する非常勤の先生を増やすなどして、多くの救急患者さんを受け入れる努力をしています。その結果、1か月当たり300台の救急車を受け入れ、50%台だった救急応需率も60%に達しています。また、10床あるICU*と、28床あるHCU**の稼働率は100%を超えており、月によっては128%に達することもあります(2024年5月時点)。
*ICU……集中治療室・集中治療が必要な患者の治療・看護を24時間体制で行う
** HCU……高度集中治療室・ICUよりやや重篤度が低い患者の集中治療を行う
消化器内科では、内視鏡を用いたがんの治療に積極的に取り組んでいます。重要なのは早期発見で、たとえばリンパ節転移の可能性がほとんどない、粘膜周辺にとどまっている早期の胃がんであれば、内視鏡治療が可能です。また、内視鏡を用いた治療には、内視鏡を使ってがんを切除する内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)や、総胆管結石や胆管がん、膵がんなどによって引き起こされた胆管炎・閉塞性黄疸に対して行う内視鏡的胆道ドレナージ術(ERBD・ENBD)、胆管・膵管の入口を広げる際に行う内視鏡的乳頭切開術(EST)・バルーン拡張術(EPBD)などさまざまな種類がありますが、当院ではいずれの手術も実施しています。
内視鏡治療は全身麻酔の必要がなく、外科手術と比べると患者さんの体への負担が少なくて済むといったメリットがあります。2023年7月に消化器内視鏡センターを開設し、外科や放射線科との連携を深め、患者さんに合わせた治療を行える体制も整備しました。
心臓や脳血管に関する病気には、一刻の猶予も許されない場面があることから、循環器内科や脳神経外科では24時間365日、専門の医師が常駐しています。近隣のかかりつけの先生や救急隊との専用電話“循環器ホットライン”も整備し、直接依頼を受けています。それに伴って増える患者さんに対応するため、循環器内科と脳神経外科、心臓血管外科が中心になった“心・脳血管カテーテルセンター”を設置しました。複数の専門の医療スタッフでチームを構成し、迅速なカテーテル治療や緊急手術につなげています。
心臓病の患者さんは、心臓の機能低下や安静生活の影響で、運動能力や身体調整機能が低下しているため、早期の社会復帰を実現するには心臓リハビリテーションが欠かせません。心臓リハビリテーションとは、再発や再入院を防止するため、運動トレーニングや生活指導などさまざまな観点から行われるリハビリテーションプログラムのことです。中でも運動トレーニングの際には患者さんの症状や体力に合わせて内容を調整することが大切で、心電図に異常が現れないか監視する必要があるなど細心の注意が求められます。そこで当院では、心臓リハビリテーション室を設置し、医師や看護師などの監視下で運動トレーニングを行っています。また、心不全看護認定看護師(日本循環器看護学会認定)が在席する、心不全看護外来指導室を併設し、患者さんの治療から社会復帰まで、トータルケアとして患者さんをサポートしています。
当院では教育研修センターを中心に、研修医の教育にも力を注いでいます。症例も多いことから当院で研修を希望される医師が多く、過去には定員4名のところ20名の応募がありました。その実績もあり、機構から定員枠の増加が許可されたほどです。今後、当院で経験を積んでいただいた医師の皆さんが、それぞれのフィールドで活躍していただけることを望んでいます。
また、働き方改革では、看護師の残業時間を減らす取り組みを行っています。看護師の場合、勤務が終了した看護師に医師や同僚が指示や声かけをしてしまい、その結果、残業時間数が増えてしまうという問題があります。そこで当院では、夜勤者のマスクを従来の水色からオレンジ色に変更する“マスクの二色制”を導入しました。これにより、日勤者と夜勤者の判別が容易になり、残業時間の削減につながりました。勤務明けのスタッフに対して「お疲れさま」といったあいさつがしやすくなり、職場の雰囲気が改善して働きやすい職場環境になったという声も聞かれるようになりました。
当院があるエリアでは高齢化が進んでいます。そのような中で多くの急性期の患者さんを受け入れるため、内視鏡治療や血管カテーテル治療、リハビリテーション、透析など医療設備の充実を進めてきました。また、2023年3月には、米国で開発された手術支援ロボット“ダビンチXi”を導入しています。
ダビンチは患者さんの体に小さな穴を開けて内視鏡カメラとアームを挿入し、術者が3Dモニターを見ながら遠隔操作で動かす手術支援ロボットで、傷口が小さいことから低侵襲の手術(患者さんの体への負担が少ない手術)が可能です。地域の皆さんは、こうした超高齢化社会に対応した質の高い医療サービスを、快適に受けていただけることと思います。ちなみに、5年以内に新病院を増築して、その際にダビンチを2台体制にするのが私の夢です。
最後になりましたが、“困ったときの石切さん(石切生喜病院)”をキャッチフレーズに、安全で質の高い最新の地域医療を提供していきたいと考えています。スタッフ一同尽力して参りますので、どうぞよろしくお願いいたします。
医療法人藤井会 石切生喜病院 病院長
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