院長インタビュー

診療だけでなく、地域の“安全”を守る――南相馬市立総合病院

診療だけでなく、地域の“安全”を守る――南相馬市立総合病院
及川 友好 先生

南相馬市立総合病院 院長、広島大学大学院 医歯薬保健学研究科 客員教授、福島県立医科大学医学部...

及川 友好 先生

目次
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福島県南相馬市にある南相馬市立総合病院は、300床の総合病院です。福島第一原子力発電所から約23kmに位置する同院は、震災前後のさまざまな困難に立ち向かいながら地域の医療をリードしてきました。

そんな同院が現在提供している医療や強みについて、院長の及川 友好(おいかわ ともよし)先生にお話を伺いました。

先方提供
病院外観(提供:南相馬市立総合病院)

当院は、南相馬市が運営する公立病院です。地域災害拠点病院、原子力災害拠点病院、日本DMAT指定医療機関などさまざまな指定を受けており、全ての2次救急患者を受け入れられる病院を目指しています。

当院の歴史は、1931年に“原町実費診療所”として開設されたことから始まります。戦後の1947年には病院に昇格し、内科、外科、産婦人科の診療を開始しました。1952年には50床に、1973年には100床に拡張され、1992年には現在の原町区高見町に新築移転し、230床を有する病院として新たなスタートを切りました。2019年には300床に増床され、現在の体制に至ります。

当院では、2017年に脳卒中センターを設立しました。現在は、日本脳卒中学会から一次脳卒中センター(PSC)の認定を受け、相双地区におけるほぼ全ての脳卒中患者を受け入れています。この地域では脳卒中の死亡率が全国平均の1.6倍と非常に高く、以前から脳卒中センターの設立が必要とされていました。脳卒中の発生率が高い要因としては、塩分の多い食事を好む方が多いことが挙げられます。高塩分の食生活が高血圧を引き起こし、結果的に脳卒中のリスクを高めていると考えられています。

脳卒中の患者さんは救急でも非常に多く、2023年の1,800件ほどの救急車の受け入れのうち、半数以上が脳卒中の方でした。当院では今後も積極的に救急を受け入れ、地域の医療ニーズに応えて取り組んでまいります。

当院のことを語るうえで、東日本大震災の話は切り離せません。当院は福島第一原子力発電所から約23kmの位置にあり、原発事故の影響は、この病院の歴史の中でも特に大きな転機となりました。公立病院の使命は、医療を通じて地域社会に貢献することです。当院以外の病院やクリニックが次々に休院する中で、私たちは地域の中核を担う病院として医療を提供し続ける必要がありました。残った職員たちは一丸となって避難所への医療支援を行い、医療の復興を通じて地域の復興を目指しました。

その後、さらに大きな課題として浮かび上がったのは、被曝問題への対処です。果たして人々が再びここに住むことが安全なのかという問題があり、住民の不安を払拭するためには、自分たちで測定したデータに基づく正確な情報提供が必要でした。

私たちは放射線被曝に関するデータを収集し、空間線量と内部被ばくのデータを統合して分析しました。空間線量が高く、また被曝した食事を食べることで、被ばく量が増加するのではないかという不安がありましたが、データから追加被ばくがないことが確認され、この結果をもとに市民に「戻ってきても大丈夫」と伝えることができました。

また、地域の人々に安全な街だと継続的に認識してもらうためにも、特に子どもたちが追加の被曝をしていないことが重要でした。小中学生を対象に定期的な被ばく状況の検診を行い、年2回から年1回に変更しながら現在でも継続しています。被曝により感受性の高い子どもたちが健康であるという事実が、家族や地域社会全体に安心感をもたらす大きなポイントになったと考えています。

当院では、7年前から病院間での遠隔透析治療を導入しています。遠隔透析のシステムは、透析基幹病院の医師がネット回線を通して透析患者のデータを管理し、透析方法を現地の医師に伝え、現地の医師が透析を行う方法で、病院間の遠隔地透析は日本では初めての試みとなりました。透析医が赴任するまでの4年間システムを運営しましたが、大きなトラブルはありませんでした。

また、内部被曝状況を測定するための“ホールボディカウンタ”は従来身長120cm以上の身長でないと測定ができません。そのため、子どもの内部被ばくを測定する“ベビースキャン”という装置を東京大学の早野 龍五教授(※開発時の役職)と共同で開発しました。これにより、大人だけでなく子どもたちの被ばく状況の測定も可能となりました。

また、病院には付属の地域医療研究センターがあり、福島県立医科大学、放射線健康管理学講座 主任教授坪倉 正治先生が所長を務めています。多くの震災関連の研究がなされ、研究成果が論文化されています。これまでに当院の名前で発表された論文は100本以上に上り、全国の大学から多くの研究者が集まり、地域医療の発展に貢献しています。

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当院では、震災以降、地域復興に向けたさまざまな取り組みを継続的に実施しています。その一環として、仮設住宅や復興住宅において、住民の皆さまへ健康に関する講話を定期的に行ってまいりました。これは震災から13年が経過した現在も続けている活動です。震災後に生活習慣病が悪化している現状を踏まえて、主に生活習慣病の予防と管理についてお話ししたり、個別に相談を受けたりしています。これらの内容は当院のホームページから見ることができます。

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仮設住宅の住民に対する健康講話

また、地域の小中学生に対して医療に対する関心を持ってもらうことを目的とした、“オープンホスピタル”というイベントを新たに企画しました。今回(2024年9月)が初の開催となりますが、活動を通して地域医療への理解を深めるとともに、次世代に医療の重要性を伝える機会としたいと考えております。

今後も、こうした活動で地域復興に貢献することを当院の基本的な姿勢としていきます。医療を通じて地域社会の一員としての役割を果たし、復興の一助となることを目指してまいります。

病床数や診療科、医師、提供する医療の内容等についての情報は全て、2024年8月時点のものです。

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