神奈川県海老名市に位置する海老名総合病院は、海老名市・座間市・綾瀬市を中心に広域の急性期医療を担う地域の中核的な病院です。
“断らない救急”を理念に掲げ、年間1万台を超える救急車を受け入れる体制を整え、心血管・脳血管疾患やがん診療にも力を注いでいます。
地域の安心を支える医療提供を目指し、医療の質と持続可能性の両立を見据えた病院運営を進める同院の病院長 小林 智範先生にお話を伺いました。
当院の特徴は、やはり救急医療です。当院の救命救急センターは、2017年に神奈川県央医療圏で唯一の救命救急センターとして始動しました。設立時から救命救急センターの充実を図っており、さらなる強化のため新棟(2023年5月完成)である西館の1階を救命病棟として、高度検査センターと救命救急センターを集約しました。
年間1万台*を超える救急車を受け入れており、海老名・座間・綾瀬の3市を中心に広い範囲をカバーしています。2024年4月には、集中治療科を新設し、“救急科”の名称を“救急集中治療科”と改め、「救命救急センター・救急集中治療科」となっています。現在17名の医師が在籍し(2025年10月時点)、24時間体制で患者さんを受け入れています。初期対応を救急集中治療科で行い、その後必要に応じて専門の診療科へつなぐ体制により、効率化を図っています。
救急集中治療科には、ICU(集中治療室)専従の医師を配置しており、夜間も当直体制で対応できるよう努めています。
*救急車による搬送の受け入れ件数:2023年/10,061件、2024年/10,655件
心疾患や脳疾患など、いわゆる血管系の病気への対応力も当院の強みです。循環器内科と心臓血管外科による“心臓血管センター”や、脳神経外科と神経内科による“脳神経センター”を開設しており、緊密な連携のもと重症例にも対応しています。
がん診療にも力を入れており、手術支援ロボット ダヴィンチを用いた消化器・泌尿器領域の手術を実施しています。胃・大腸・前立腺などの悪性疾患に対応しており、年々手術件数も増えています。
さらに現在、クラウドファンディングを活用し、ハイブリッド手術室の導入を進めています。これにより、より低侵襲(体への負担が少ない)な治療を地域で受けられる環境を整えたいと考えています。
*クラウドファンディングの詳細はこちら(2025年11月21日まで)
相模川を挟んだ厚木側には大きな病院が複数ありますが、海老名・座間・綾瀬エリアには急性期医療を担う大規模施設が少ないのが現状です。
そのため、私たちはこの地域の中核を担う病院として、急性期医療を完結できる体制を整えることが大切だと考えています。
また、一次・二次・三次救急の連携や、在宅・回復期医療とのスムーズな連携も課題です。加えて、災害時医療の強化も進めています。医師会や地域の先生方と軽症・重症の振り分けを行うなど、地域全体で支え合う仕組みを整えることが重要です。
この地域での当院の役割を明確にしながら、過不足のない医療提供体制を築いていけるよう尽力してまいります。
全国的に医師や看護師の確保は課題ですが、当院のような急性期病院では特に宿直体制の維持が大きな負担になります。たとえば、脳卒中ケアユニット(SCU)を持っているため、常に脳外科医か脳卒中を診られる医師が宿直を行う必要があります。
また、ICU専従医、救命救急センター、循環器内科にもそれぞれ宿直医を配置する必要があり、単純に数だけでも多くの医師が求められます。そのうえで一定のクオリティを担保することは非常に難しく、医師だけでなく看護師確保の面でも大きな課題だと感じています。
こうした人材の課題をカバーしていくため、当院では医療DXを推進しています。2025年1月には電子カルテの更新を予定しており、今後はスマートフォンとの連動で情報共有を円滑にしていく計画です。まだ全職員に配布できる段階ではありませんが、段階的に導入し、業務効率化を進めていきたいと思っています。
当院は民間病院ですが、社会医療法人として地域の中核的な医療を担っています。採算だけでは判断できない領域もあり、特に産科や小児科は地域に欠かせない存在です。
“赤字を出し続けるわけにはいかない”という現実のなかで、地域の医療を守る使命を果たしていく――。その両立は決して簡単ではありませんが、そこにこそ病院としての意義があると考えています。
病院は“病気になったら行く場所”というだけではなく、地域に開かれた存在でありたいと思っています。その一環として、“わくわく隊”というチームが活動しています。
このチームでは、子どもたちが医療職を体験する“お仕事チャレンジ”を開催したり、地元農家さんが育てた野菜を院内で販売したりと、地域との交流を育むようなさまざまなイベントを企画しています。
また、InstagramなどSNSでも情報を発信し、“病院に親しみを持ってもらう”ことを意識した活動を展開しています。
私が医師を志したのは、幼い頃に家族の病気を経験したことがきっかけでした。“苦しむ人の力になりたい”という思いは、医師を志した頃から変わりません。
医療機能を整えることはもちろん大切ですが、患者さんが“安心して過ごせる雰囲気”や“利用しやすさ”も同じくらい重要だと考えています。
救急医療や高度な技術を提供できる体制を維持しながら、患者さんが「この病院に来てよかった」と思える場所にしていく――。そうした環境整備を含めた病院づくりが、これからのテーマだと思っています。
この先も地域の皆さまに寄り添い、信頼される病院であり続けられるよう一歩ずつ着実に歩んでいきたいと思います。
様々な学会と連携し、日々の診療・研究に役立つ医師向けウェビナーを定期配信しています。
情報アップデートの場としてぜひご視聴ください。