概要
トキソプラズマ網膜脈絡膜炎とは感染性ぶどう膜炎(眼内に炎症を起こす病気をぶどう膜炎といいます)のひとつで、トキソプラズマ原虫が眼に感染することで発症します。胎児のときに感染する先天性トキソプラズマ症と出生後に感染する後天性トキソプラズマ症があります。いずれの場合も眼の奥にある網膜と脈絡膜に炎症を起こします。
原因
トキソプラズマ原虫が眼に感染することで起こります。トキソプラズマ症には感染した母親の胎盤から胎児に感染する先天性トキソプラズマ症と明らかな感染ルートが特定できない(加熱不十分な食肉やネコの糞便で汚染された水や土壌から感染するといわれています)後天感染性トキソプラズマ症があります。
いずれの場合もトキソプラズマ原虫が血流に乗って眼内に入り網膜等に感染して組織を破壊することで起こります。先天性トキソプラズマ症は両眼の網脈絡膜炎を起こします。その他に先天性では脳脊髄炎(脳水腫、脳内の石灰化、精神・運動発達遅延)を伴なうことがあります。後天性では片眼性のことが多いといわれています。
症状
先天性トキソプラズマ網脈絡膜症では網膜のなかでも視力に最も関わる黄斑部に近い部位に病変があることが多く、感染した網膜はやがて萎縮してその機能を失います。そのため眼科初診時には感染による炎症はすでに治まっているのに、著しい視力低下を起こしていることもあります。また、眼球が常に揺れている眼振といった症状や、眼球の大きさが小さい小眼球症、斜視などを伴うこともあります。一方、後天性の場合では視力低下の他に、霞視(かすみ目)、小さなゴミのようなものがみえる飛蚊症などが起こります。
先天性トキソプラズマ網脈絡膜症では、もともとの病変のそばに新しい病変ができることがあります。これは活動を休止していたトキソプラズマ原虫が、再活性化して周りの網膜に感染することで生じます。このような場合では後天性と同じような視力低下や飛蚊症が生じます。
検査・診断
トキソプラズマ網脈絡膜炎では眼底検査をすると特徴的な網脈絡膜の病変を呈するため、眼底所見のみで診断が可能です。しかし炎症が強く(硝子体混濁のため)眼底の観察が難しい場合は診断が難しくなります。
そのような場合は血液検査でトキソプラズマに対する抗体を測定することもあります。しかし日本人成人の数十%は無症状ながら過去にトキソプラズマに感染したことがあるため高い抗体価を示します。従ってこの検査はあくまで診断の補助検査になります。
また、前房水や硝子体等の眼内の液体成分からトキソプラズマの遺伝子を検出する方法(ポリメラーゼ連鎖反応)を用いることもあります。この方法で陽性が出ると、眼内にトキソプラズマが存在することを証明できます。
治療
治療は先天性トキソプラズマ網脈絡膜炎が再発した場合と、後天性の場合に行われます。先天性網脈絡膜炎は眼科で診断されるときには、多くの場合はすでに活動性はなく病変は瘢痕化(はんこんか:あとになっている)しているため、再発しない限り治療は必要ありません。
治療は抗トキソプラズマ薬を用います。眼内の炎症が強い場合はステロイドの内服も併用しますが、ステロイドのみでの治療は感染が悪化するため禁忌です。抗トキソプラズマ薬はアセチルスピラマイシンという薬を内服することが一般的です。内服期間は4−6週間と長期間必要です。その他有効だといわれている薬剤はクリンダマイシン、ピリメタミンなどがあります。
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