概要
ニパウイルス感染症とは、ニパウイルスにより引き起こされる感染症で、急性脳炎などを主要症状とします。
ニパウイルスは、コウモリに感染するウイルスですが、ブタにも感染することがあります。コウモリの分泌物にウイルスが含まれ、汚染された生のナツメヤシの樹液を摂取して感染した事例もあります。感染経路は、主にコウモリから人、コウモリからブタを介して人、感染した人から人への経路が報告されています。
発症すると致死的な経過をたどることもあるため、アジアでの流行状況を踏まえた動向調査を目的として、日本では2003年に4類感染症*に指定されました。
*4類感染症:動物(死体も含む)や飲食物などを介しヒトに感染し、国民の健康に影響を与える可能性がある感染症
原因
ニパウイルス感染症は、主にマレーシア、フィリピンなどの東南アジアやインドやバングラデッシュなどの南アジアで報告されています。ニパウイルスに感染したコウモリとの直接の接触、その分泌物への接触により人に感染します。感染したブタの気道分泌物や尿からも感染するため、養豚業者などでのアウトブレイクも知られています。感染した患者をケアした看護師への感染も報告されており、人の間でも感染することがあります。
感染を防ぐためには、流行地域でのコウモリやブタとの接触を避ける、特に病気の動物を扱うときは手袋など防護具を使用する、生の樹液の摂取を避けることなどが挙げられます。感染者の看病で感染することもあるため、適切な感染対策を施行することも重要です。
症状
ニパウイルスが体内に侵入すると、潜伏期間(4日~45日までとさまざま)を経た後に頭痛や発熱、筋肉痛、倦怠感、悪心、嘔吐などの症状が現れます。呼吸器の症状がでることもあります。5-7日以内に、中枢神経症状として意識障害、痙攀などを生じます。致死率は、報告により2-7割で、神経学的後遺症を残すことも多いです。
なかには、神経症状の寛解と増悪を繰り返すことや、初回の症状は軽くて晩期に神経症状をきたすこともあります。
検査・診断
ニパウイルスの診断は、主に抗体価、ウイルス遺伝子の検出(PCR)で行われます。抗体価はウイルスに対する抗体が産生されたのを血液検査で測定します。髄液などの検体からウイルス遺伝子をPCRによって検出します。
その他、血液検査で肝逸脱酵素の上昇、髄液での白血球の増加がみられることがあります。脳炎の診断では、MRIなどの画像検査、脳波検査などを行います。
治療
ニパウイルス感染症に対する治療方法はまだ確立していません。発症した場合は、呼吸循環サポートのための補液、痙攀のコントロール、人工呼吸管理といった対症療法(症状に合わせた治療)が中心となります。
感染症予防に有効なワクチンもまだつくられていないため(2018年6月時点)、ウイルスに接触をしない行動を心がけることが大切です。特にアジア地域へ渡航する際には、訪れる先での流行がないかの情報を厚生労働省検疫所のホームページなどで確認することができます。
医師の方へ
「ニパウイルス感染症」を登録すると、新着の情報をお知らせします