概要
ヘニパウイルス感染症とは、ヘニパウイルス属に属するウイルスによって引き起こされる感染症です。主な種類には、ニパウイルスとヘンドラウイルスがあり、これらのウイルスの自然宿主はオオコウモリであることが確認されています。主な感染経路は、感染した動物との接触、感染した動物の体液や排泄物との直接接触とされています。
日本国内での感染報告例はありませんが、ニパウイルス感染症はマレーシア、バングラデシュ、シンガポール、インド、フィリピンなどで、ヘンドラウイルス感染症はオーストラリアで感染例が確認されており、これらの流行地への渡航時には特別な注意が必要です。
感染症の症状はさまざまで、発熱、頭痛、筋肉痛、咳、喉の痛みなどの症状が現れ、重症化すると肺炎、けいれん、脳炎(感染によって脳に炎症が起こる状態)などを引き起こします。
現在のところ、特異的な治療法や有効なワクチンは確立されておらず、治療は症状を和らげることを目的とした対症療法が中心に行われています。
原因
ヘニパウイルス感染症は、ヘニパウイルス属に属するニパウイルス、ヘンドラウイルスに加え、そのほかの類縁ウイルスへの感染によって発症します。代表的なニパウイルスとヘンドラウイルスによる感染経路は以下のとおりです。
ニパウイルス感染症
ニパウイルス感染症は、ニパウイルスを持つ動物と直接接触したり、唾液や糞尿などに触れたりすることで感染します。主な自然宿主はオオコウモリです。マレーシアでは、オオコウモリから家畜の豚に感染し、その後豚から人に感染が広がったケースが報告されています。バングラデシュなどでは、オオコウモリの唾液や糞尿で汚染された果実や樹液を摂取することで、人に感染するケースも確認されています。また、人から人への感染はまれですが、家族内や病院内で感染者と濃厚接触した際に感染が報告されています。
ヘンドラウイルス感染症
自然宿主であるオオコウモリから馬への感染が主要な経路です。コウモリの唾液や糞尿に含まれるウイルスが、馬の餌や水を汚染することで感染が起こると考えられています。馬から人への感染は、感染した馬の体液や排泄物との直接接触によって感染します。人から人への感染は確認されていません。
症状
ニパウイルス感染症
ニパウイルス感染症は症状が現れる場合と、現れない場合(不顕性感染)があります。感染してから症状が現れるまでの期間(潜伏期間)は4~45日とさまざまです。症状が現れた場合、初期にはインフルエンザに似た発熱や頭痛、筋肉痛、関節痛、吐き気、嘔吐などが出現します。
症状が進行すると、見当識障害や、けいれん、意識障害などの脳炎の症状を引き起こし、1~2日ほどで昏睡状態に陥ることがあります。脳炎を発症した場合は命に関わる危険性が高くなります。また、肺炎や呼吸困難などの重篤な呼吸器症状を引き起こすこともあります。
後遺症として神経障害が残ることがあり、中には一度回復した患者でも脳炎の症状が再発するケースも報告されています。
ヘンドラウイルス感染症
人がヘンドラウイルスに感染した場合、初期症状としては発熱、咳、喉の痛み、頭痛、筋肉痛などのインフルエンザ様症状が現れます。重症化すると重篤な肺炎や脳炎を引き起こし、意識障害やけいれんを伴うこともあります。
検査・診断
流行地への渡航歴や職業歴、発熱や脳炎による中枢神経症状の有無を確認します。ヘニパウイルス感染症は症状だけで診断が難しいため、感染が疑われる場合は、脳脊髄液、鼻咽頭ぬぐい液、血液などの検体を採取します。これらの検体を用いてヘニパウイルスを検出する検査を行い、診断を確定します。
治療
ニパウイルス感染症やヘンドラウイルス感染症を含むヘニパウイルス感染症には、現在のところ治療薬が存在していません(2025年2月時点)。そのため、治療としては患者の症状を和らげることを目的とした対症療法が行われます。具体的には、熱が出た場合は解熱薬、けいれんが起きた場合は抗けいれん薬を使用して症状の緩和を図ります。また、脳にむくみ(脳浮腫)が生じた場合には、脳内の圧力を下げるための薬を投与し、呼吸困難になった場合には酸素吸入や人工呼吸器による治療を行います。抗ウイルス薬の一種であるリバビリンが処方されることもありますが、その治療効果については十分な確認がされていない状況です。
予防
ヘニパウイルス感染症に有効なワクチンは、まだ開発されていません。そのため、流行地に渡航する際は、感染を避ける行動が大切です。ニパウイルス感染症の予防策として、オオコウモリの唾液や糞尿で汚染された可能性のある果実や樹液の摂取を避けることが挙げられます。また、果実は食べる前によく洗って皮をむくことが推奨されています。
一方、ヘンドラウイルス感染症については、ヘンドラウイルスに感染した馬から人への感染が知られています。そのため、体調不良の馬との接触を避け、馬の体液や排泄物に直接触れないよう注意することが大切です。
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