インタビュー

バッド・キアリ症候群とはどんな病気?

バッド・キアリ症候群とはどんな病気?
古市 好宏 先生

東京女子医科大学附属足立医療センター 検査科光学診療部(内視鏡内科) 准教授

古市 好宏 先生

目次
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この記事の最終更新は2018年07月13日です。

バッド・キアリ症候群とは、肝臓の出口の血管が狭くなったり詰まったりしてさまざまな症状が現れる病気で、指定難病のひとつです。日本では、病気がゆっくりと進行する患者さんが多くみられます。お腹に水が溜まる、血管が(こぶ)のように膨らむといった状態が徐々に現れてくるため、心配な症状が出ていないときでも定期的に通院することが大切です。

今回は、バッド・キアリ症候群の概要について、東京医科大学病院 消化器内科 古市好宏先生にお伺いしました。

渋滞

バッド・キアリ症候群は、肝臓から流れ出る血液の出口にあたる血管が狭窄(きょうさく)(狭くなる)もしくは閉塞(へいそく)(詰まる)する病気です。そのため、肝臓のはたらきが低下したり、門脈圧亢進症などが起こったりします。

2004年の年間受療患者数の推定値は190人~360人とされています。また、診断名が確定する年齢は20~30歳代がピークであり、平均発症年齢は男性が36歳前後、女性が47歳前後といわれています(2005年全国疫学調査より)。

門脈圧亢進症…肝臓の血管のひとつである門脈の圧が持続的に上昇している状態。

肝臓とは?体にとって重要な臓器

肝臓は、体にとって大切な「代謝」や「解毒」などのはたらきを担う臓器です。代謝とは、食事から得た栄養をエネルギーに作り替えるはたらきのことです。肝臓の入口の血管から入った栄養はエネルギーに作り替えられ、出口の血管を通って心臓や全身の器官へと送り出されます。解毒とは、有毒物質や老廃物を分解するはたらきのことです。肝臓の入口の血管から入った有害物質や老廃物は解毒され、出口の血管を通って腎臓へと送り出されます。

バッド・キアリ症候群を発症すると、肝臓の出口の血管である「肝静脈」や「下大静脈」が狭窄もしくは閉塞します。このことにより、肝臓のなかには血液が溜まっていき、渋滞のような状態が引き起こされます。

その結果、代謝や解毒などの重要なはたらきが適切に行われなくなります(肝機能の低下)。また、入口の血管である門脈(もんみゃく)の圧が上昇する門脈圧亢進症(もんみゃくあつこうしんしょう)や、血液が逆流して(こぶ)のように膨らみ出血の恐れがある静脈瘤(じょうみゃくりゅう)が生じるなど、さまざまな状態が引き起こされます。

<肝臓の入口の血管>

・肝動脈…肝臓の動脈。肝臓に流入する血液のうち約30%を占める。

・門脈…肝臓へ流入する血管。肝臓に流入する血液のうち約70%を占める。

<肝臓の出口の血管>

・肝静脈…肝臓の静脈。右肝静脈・中肝静脈・左肝静脈に分岐する。

・大静脈…心臓に連なる(ポンプに至るまでの道のりである)静脈。下大静脈・上大静脈の総称。

高速道路の渋滞に似ている?

バッド・キアリ症候群の症状が起こるしくみについては、血管を高速道路にたとえて、渋滞している様子をイメージするとわかりやすいかもしれません。高速道路の出口が狭くなったり詰まったりすると渋滞が起こり、渋滞が入口にまで及ぶと料金所(肝臓)が閉鎖されます(肝機能の低下)。すると、後続の車は料金所に入ることができず、入口も渋滞します(門脈圧の上昇)。最終的に車は道路からあふれて別の道を形成してしまいます(静脈瘤の形成)。

古市好宏, 他.日本臨牀 増刊号4. 2017;533-538.より作成

 

バッド・キアリ症候群には複数の分類法があり、病型、症状の現れ方、原因によって分け方が異なります。この項目では、病型による分類を紹介します。

日本では、バッド・キアリ症候群の病型を「杉浦分類」と呼ばれる分類法に基づいて分類することが一般的です。血管が閉塞もしくは狭窄した場所によって、以下の病型に分類されます。

Ⅰ型は、下大静脈に膜様閉塞(膜で塞がれている部分)がみられる病型です。Ⅰ型には2種類あり、それぞれⅠa型・Ⅰb型と呼ばれています。Ⅰa型は、下大静脈にのみ膜様閉塞がみられる病型で、日本の患者さんの約40%を占めています。Ⅰb型は、下大静脈に加えて肝静脈にも膜様閉塞がみられる病型です。

Ⅱ型は、下大静脈が血栓(血の塊)や腫瘍などによって塞がれている病型です。日本の患者さんの約30%を占めています。多くの場合、塞がれる部分の長さは数センチにわたります。

Ⅲ型は、下大静脈に膜様閉塞がみられ、大部分の狭窄を伴う病型です。

Ⅳ型は、下大静脈には問題がみられず、肝静脈(下大静脈に流れ込む部分)に閉塞がみられる病型です。

体調不良

バッド・キアリ症候群は、日本では病型による分類(杉浦分類)が一般的ですが、症状の現れ方によっても分類されます。ゆっくり起こる慢性型と、急激に起こる急性型の2種類があります。

日本やアジアでは、症状が徐々に進行していく慢性型の患者さんが多くみられます。慢性型の特徴は、無症状のままじわじわと血管が詰まっていくことです。足がむくむ(浮腫)、お腹に水が溜まる(腹水)、食道や胃の血管が膨らむ(静脈瘤)といった状態が、何十年もかけて徐々に引き起こされます。また、慢性型の患者さんは、下大静脈に閉塞がみられることが多いといわれています。

欧米では、症状が急激に起こる急性型の患者さんが多くみられます。急性型の特徴は、症状が非常に重く、発症から約1か月以内に肝不全により亡くなる方がしばしばいるということです。あるとき肝静脈が閉塞して、強い痛み、嘔吐、腹水などが急激に引き起こされます。また、急性型の患者さんは、肝静脈に閉塞がみられることが多いといわれています。

肝不全…肝臓の機能が低下してさまざまな障害が引き起こされる状態。

医師

バッド・キアリ症候群は、発症の原因によって原発性・続発性に分けられます。ただし、約70%の症例は原因不明とされており、原因による分類ができない症例もあります。

原発性とは、ある臓器の異常によって病気が引き起こされることを指します。バッド・キアリ症候群は、血栓、血管の形成異常(血管がつくられるところの異常)、血液凝固異常、骨髄増殖性疾患、経口避妊薬(ピル)の服用、妊娠出産、腹腔内感染などを原因として発症することがあり、この場合は原発性に分類されます。

骨髄増殖性疾患…血液が増える病気。

続発性とは、他の病気の結果として病気が引き起こされることを指します。バッド・キアリ症候群は、肝がん、転移性の肝腫瘍などを原因として発症することがあり、この場合は続発性に分類されます。たとえば、がんの転移などのために肝臓の血管に侵入したがん細胞が血管を閉塞することにより、バッド・キアリ症候群のような状態が起こることがあります。

研究

バッド・キアリ症候群がなぜ起こるのか、なぜ血管の特定の部分が狭窄もしくは閉塞しやすいのかといった、原因や発症の仕組みについては完全には解明されていません。また、欧米とアジアでは症状の現れ方が異なる理由については、発症の原因が異なるためではないかと推測されていますが、はっきりとはわかっていません。

慢性型に多い例とは?

アジアに多い慢性型の患者さんには、がんや、生まれつきの血管の形成異常がみられる方が多く、それらが発症に関係しているのではないかと推測されています。なぜ血管の形成異常が起こるのかといった詳しいことはわかっていません。

急性型に多い例とは?

欧米に多い急性型の患者さんには、血液の病気にかかっている方、経口避妊薬を服用している方、お腹のなかに何らかの炎症がみられる方などが多く、それらが発症に関係しているのではないかと推測されています。

家族内で複数の方がバッド・キアリ症候群を発症したという報告はなく、基本的には遺伝しない病気であると考えられています。ただし、先に述べたように、肝臓がんなどの別の病気がバッド・キアリ症候群を引き起こすことがあります。そのため、肝がんになりやすい体質などがお子さんに受け継がれた場合、お子さんもバッド・キアリ症候群を発症する可能性はあると考えられます。

お腹

門脈圧亢進症とは、血液の逆流などを原因として、肝臓の入口の血管である門脈の圧が持続的に上昇している状態を指します。門脈圧亢進症になると、足がむくむ(浮腫)、お腹に水が溜まる(腹水)、食道や胃の血管が膨れる(静脈瘤)といった状態が引き起こされます。これらの症状は、何十年もかけて徐々に進行していきます。

静脈瘤とは、血管が膨らんで(こぶ)のようになった状態を指します。先に述べたように、出口の血管が狭窄もしくは閉塞すると、肝臓に流れ込もうとした血液が逆流し、食道や胃の血管が瘤のように膨らんで静脈瘤が形成されます。

静脈瘤が食道や胃にできた場合、食事などの刺激によってすり切れて出血する恐れがあります。静脈瘤の出血は命にかかわることがあるため、静脈瘤が発生した場合には、胃カメラなどを用いた治療が必要となります。

腹水とは、腹部の内臓がおさまっている部分に存在する少量の体液が、正常な範囲を超えてお腹に貯留した状態を指します。大量の水が溜まるとお腹はパンパンに膨れ上がり、呼吸しづらく苦しいと感じるようになります。溜まった腹水は抜くことができますが、抜いてもまた溜まっていきます。症状が進行すると難治性の腹水がみられる方もいます。

難治性…治療をしても治りにくいこと。

浮腫(ふしゅ)とは、皮膚の下に水が溜まってむくんだ状態を指します。慢性型バッド・キアリ症候群で起こる浮腫は、指で数秒間強く押したあと指の形などが残る「圧痕性浮腫(あっこんせいふしゅ)(pitting edema)」です。多くの場合、浮腫は両足に現れます。

肝臓の出口が狭窄もしくは閉塞することによって現れる複数の症状を総称してバッド・キアリ症候群といい、実際に現れる症状は人により異なります。腹水、肝機能の異常、足の浮腫(ふしゅ)などは、病型を問わず多くの方にみられます。病気が進行していくにしたがって、吐血・下血、黄疸(おうだん)、体のだるさ、意識障害などが起こることがあります。

黄疸…眼球の白い部分や肌が黄色くなること。

問診

バッド・キアリ症候群では、以下の3つの検査が重視されます。

  • 画像検査
  • 肝生検(かんせいけん)
  • 内視鏡検査(胃カメラを用いた検査)

その他、血液検査の結果や、実際に現れた症状から、バッド・キアリ症候群の可能性が考えられることもあります。それぞれの検査について、詳しくは以下の項目で解説します。

画像検査では、血管が狭窄もしくは閉塞していることを確認します。CT検査、超音波(エコー)検査、MRI検査のいずれかで調べることができます。

ただし、バッド・キアリ症候群は珍しい病気であることから、血管の状態に注意して調べなければ異常が見落とされる恐れがあります。また、画像検査だけで診断が確定することはありません。

CT検査…エックス線を使って体の断面を撮影する検査。

MRI検査…磁気を使って体の断面を撮影する検査。

肝生検とは、肝臓の状態を調べる検査です。肝臓に針を刺して組織を採取し、肝臓のなかの細胞がうっ血していることを顕微鏡で確認します。画像検査に加えて肝生検を行うことで、バッド・キアリ症候群の診断がつけられます。

うっ血…多量の血液が溜まること。血液が流出せず膨らんだ状態。

診断がついたら、胃カメラで静脈瘤の有無を調べる必要があります。バッド・キアリ症候群では高頻度に静脈瘤ができ、その出血は命にかかわることがあるためです。

血液検査は、バッド・キアリ症候群の可能性を考えるきっかけになる場合があります。バッド・キアリ症候群を発症すると肝機能や血小板の数値に異常が現れるためです。

そこで、ご自身がバッド・キアリ症候群ではないかと不安に思われる場合は、まずは病院で採血を受け、肝機能の数値だけでも確認してもらいましょう。異常が全くみられない場合は、バッド・キアリ症候群である可能性は非常に低くなります。

慢性型のバッド・キアリ症候群は無症状のままゆっくりと進行するため、受診される方はすでに門脈圧亢進症などを発症していることがほとんどです。全く症状が出ないうちに発見することは難しいでしょう。

実際には、お腹に水が溜まって苦しい(腹水)、肝機能の数値に異常がある、足がむくんでいる(浮腫)などの特徴がみられるとき、バッド・キアリ症候群の可能性が考えられます。一方、人間ドックなどで定期的に画像検査を受けている方は、より早い段階でバッド・キアリ症候群が発見される可能性があります。

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