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パーキンソン病の治療とは?——ドパミン補充療法を中心にポイントを解説

パーキンソン病の治療とは?——ドパミン補充療法を中心にポイントを解説
隅 寿恵 先生

市立東大阪医療センター 神経内科 部長

隅 寿恵 先生

目次
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この記事の最終更新は2019年07月01日です。

パーキンソン病とは、脳内の細胞の変性によって、手足の震えや動作の緩慢(遅くなる)といった症状が現れる進行性の病気です。

記事1」では、パーキンソン病の原因や症状について、市立東大阪医療センター 神経内科 部長の隅寿恵(すみひさえ)先生にご解説いただきました。当記事では、パーキンソン病の治療や治療中に注意するべき点について、引き続きお話を伺います。

記事1」でお話ししたように、パーキンソン病の運動症状(手が震える、動作が遅くなるなど)は、脳内の黒質神経細胞が少なくなり、ドパミンという神経伝達物質が不足することで起こります。そこで、パーキンソン病の治療では、運動症状をコントロールするために、薬物療法によってドパミンの補充を試みます。これを「ドパミン補充療法」といいます。

レビー小体
パーキンソン病の黒質神経細胞です。左の写真で、神経細胞内にある丸い構造物(レビー小体)が見えますか。一つの細胞に複数存在することもあります。右の写真では、茶色がαシヌクレインの蓄積・凝集を示しています。レビー小体にはαシヌクレインが高濃度に含まれます。

睡眠障害や自律神経症状(便秘や夜間頻尿など)、認知症といった非運動症状は、患者さんのQOL(生活の質)の低下に直結するため、それらをきちんと治療することが大切です。

ほかの病気に対する治療薬の相互作用や副作用により悪影響を及ぼしていることもあるため、お薬手帳などから内服薬を把握することも重要です。

ドパミン補充療法で用いる薬には、ドパミンの前駆体(L-ドパ)やドパミン受容体の刺激薬(ドパミンアゴニズト)、脳内のドパミン分解を抑制するMAOB阻害薬など、さまざまな種類があります。また、ドパミン以外の神経伝達物質に関係する薬もあります。治療の際には、患者さんの年齢、誤嚥や転倒のリスクなどを考慮し、一人ひとりに合った薬を調整します。

たとえば、一般的に、65歳以下ではドパミンアゴニズトやMAOB阻害薬から薬物療法を始めることが多いのですが、患者さんが高齢で転倒のリスクが高いなど、生活に支障をきたしている場合には、L-ドパを初めから使用します。また、運動合併症を生じやすい時期には、非ドパミン系も積極的に使っていきます。

パーキンソン病の治療では、より効率的に薬の効果を得られることを目指し、これらの薬をうまく組み合わせて治療を進めていきます。

患者さんが高齢の場合、胃腸症状やふらつきといった副作用が出やすいことがあります。そのため、慎重に少量から薬物療法をスタートします。新しい治療薬を使う際には、薬物療法による副作用の説明を行い、さらに、少量から始めるため効果が実感できない可能性があることを事前にお伝えしています。

効果を実感できなくても、診療上では症状が改善していることもありますので、薬の服用を自己判断で中止しないようにとお話ししています。

運動症状が現れてから3〜5年ほどは、ドパミン補充療法による効果を得やすいことが知られています。これを「ハネムーン期」と呼びます。ハネムーン期が過ぎ、徐々に薬の効果が小さく(短く)なると、症状に合わせて、内服量や回数を増やします。病気の年数が長くなるにつれて、ウェアリングオフやジスキネジアなどの運動合併症が現れることがあります。

ウェアリングオフ

ウェアリングオフとは、作用時間の短い薬の効果が切れて、薬が効いている時間(オン)と薬の効果が低い時間(オフ)を1日のうちに何度も繰り返す状態を指します。

このような運動合併症が現れた場合、日常生活に支障をきたし、患者さんが生活するうえでの不安が強くなります。このような視点から、ハネムーン期を過ぎたあとの治療では、1)安定した薬の効果を得る、2)副作用を最小限に抑えるという2点を目標に、薬を慎重に調整していきます。

ジスキネジア

ジスキネジアとは、自分の意思とは無関係に体が動いてしまうことです。「不随意運動」とも呼ばれ、顔面や頭部、四肢、体幹に生じます。一般的には、L-ドパの血中濃度が高いときに生じることが多いです。

ドパミン補充療法における薬の投与方法には、いくつかの種類があります。

  • 内服(飲み薬)
  • 貼付剤
  • 皮下注射(※緊急対応時など)
  • 経腸持続投与

経腸持続投与は、体の外から腸までチューブを通して留置し、持続的に薬を投与する方法で、2016年より日本で保険診療として行われるようになりました。薬の血中濃度を一定に保つことができるため、ジスキネジアを抑え、ウェアリングオフの症状を改善させることが可能です。しかしながら、チューブを体内に留置し管理できる施設が限られることや合併症のリスク、患者さんに機器を操作していただく必要があるといった課題があります。

薬物療法だけでは十分に運動症状がコントロールできなくなると、脳神経外科手術による治療も検討します。若年性パーキンソン病の場合などは、罹病期間が長くなることで薬物療法による副作用が出やすいという観点から、手術(外科的治療)を早めに考慮します。

現在、パーキンソン病に対する手術として一般的に行われているのは「DBS(脳深部刺激療法)」です。DBSとは、視床下核や淡蒼球内節、視床といった脳の深い部分に電極を留置し、高頻度に電気刺激を与える治療法です。ただし、認知機能が低下した患者さんでは、手術後に合併症を生じるリスクが高いため、DBSは推奨されません。

薬物療法や手術に加えてリハビリテーション(以下、リハビリ)を行うことで、症状のさらなる改善やQOLの向上が期待できます。また、運動療法は、パーキンソン病患者さんの身体機能、筋力、健康にかかわるQOL、バランス、歩行速度の改善に有効であることがわかっています。このような視点から、パーキンソン病の治療においては、運動療法を併行することが大切といえるでしょう。

パーキンソン病に限ったことではありませんが、誤嚥(ごえん)(誤って唾液や食物などが気管に入ってしまうこと)や転倒のリスクが高い神経疾患の患者さんには、飲み込むときや歩くときに注意を払っていただくようにお願いしています。

なぜなら、誤嚥性肺炎や転倒、骨折によって入院したり寝たきりになったりすると、体力が低下し、経過に悪影響を及ぼすからです。

診療時には、嚥下機能(飲食物を認識し、食道に送り込むまでの機能)や歩行の状態を確認し、必要に応じて生活指導を行います。たとえば、酸味の強いものや不均一な具が入った食事はむせやすく、逆にとろみがあるものや小さく均一に刻まれた食事は飲み込みやすい、と伝えています。

いずれにせよ、早期に合併症を発見し対処するために、何かおかしいと思ったらすぐにかかりつけ医や専門医に相談しましょう。

認知機能が低下すると、薬の内服管理が困難になり、さらに、薬を中断することで運動症状が悪化したり誤嚥しやすくなったりします。このような状況を回避するため、認知機能の低下に気づいた場合には、早めに専門医にご相談ください。

当院は、2018年に大阪府より「大阪府難病診療連携拠点病院」に選定されました。

大阪府難病診療連携拠点病院とは、以下3つの役割を持ち、大阪府内における難病診療の拠点となるべく選定された病院です。

  1. 難病の診断を正しく行う医療の提供
  2. 遺伝学的検査および遺伝カウンセリングの実施、または適宜、他院への紹介等
  3. 府民に対する情報提供

また、当科では2017年より、大阪府からの委託を受けて「難病患者在宅医療支援事業」を実施しています。この活動は、パーキンソン病などの難病患者さんの自宅や普段通院されている地域の医療機関に、当院から医師や看護師が同行訪問し、病状相談や治療の役割分担を検討するものです。2017年度は、80件の同行訪問を行いました。

自宅に訪問することで、患者さんがどのようなことで困っているのかを、診察室での想像ではなく実際に知ることができますし、地域の医師や訪問看護師、ケアマネジャーとかかわりを持つことで、地域内で一貫した治療の手立てが見えて、とても勉強になります。

私たちはこれからも、通常の外来診療や入院診療のみならず、このような活動を通して、よりスムーズかつ適切に、難病患者さんの療養生活をサポートしたいと考えています。

神経内科 部長、隅寿恵先生より

パーキンソン病を含む神経難病は、原因が不明で根本的な治療法が存在しないことも珍しくはありません。そのような神経難病の治療において大切なことは、可能な限り患者さんの状態を回復させることに努めると共に、病気をできるだけ進行させない(=現在の状態を維持する)ための治療・ケアを行うこと、そして、入院中から、退院後の生活を考慮したリハビリや生活習慣などをしっかりとお伝えすることです。

このような治療・ケアを実現するためには、多職種が協働する「チーム医療」が欠かせません。当院の神経内科では、医師、看護師、理学療法士、薬剤師、医療ソーシャルワーカー(MSW)などがそれぞれの専門性を活かしながら、チーム医療に努めています。

、チーム医療
実際の神経内科におけるカンファレンスの様子

その方法の1つとして、多職種が集まり、症例をもとに治療方針を検討するカンファレンスと院内回診があります。カンファレンスは週に1回ほどの頻度で定期的に行われ、各専門分野の知見と情報を共有したうえで、治療方針を検討します。

神経内科を含む6階北病棟 看護師長、三浦利朱さんより

神経難病の治療において、私たち看護師は、主治医と患者さんの病状を共有し、理学療法士、薬剤師と連携して必要な治療・ケアの提供をサポートしています。また、医療ソーシャルワーカーと協働し、退院後の生活で必要と思われる支援の調整などを行っています。

看護師は患者さんと毎日接していますから、患者さんの変化にいち早く気づき、適切な治療とケアが提供できるよう働きかける使命があると考えています。そのためには、患者さんの社会的背景や希望を理解することが大切です。

パーキンソン病の治療では、L-dopa(レボドパ)という薬によって運動症状の改善を試みることがあります。ところが、L-dopaの服薬期間が長くなると、効果の持続時間が短くなる「ウェアリングオフ現象」が起こります。医療者であれば、ウェアリングオフ現象に関して知識や経験があるので見分けがつきやすいのですが、一般の方々には理解しにくいことがあります。そのようなときには、患者さんのご家族などにそのときの状態をしっかりと理解していただくために働きかけます。

このようなチーム医療の取り組みを通じて、私たちはこれからも、患者さんやご家族に「この病院にきてよかった」と思っていただけるような環境をつくり続けます。

隅先生

何よりも、患者さんが安心して暮らせるように、そして、やりたいことが長く続けられるように、と思い日々の診療にあたっています。

多くの場合、パーキンソン病は、治療によってコントロールが十分に可能です。初診時にまったく動けなかった患者さんが、治療によって少しずつ動けるようになり、表情も豊かになっていく姿を見ると、医師として、大きな喜びを感じます。

自分の体で、安心して自由に動けることは、何にも代えがたい幸福ではないでしょうか。そのような幸せを一人でも多くの患者さんに、できるだけ長く感じていただくために、私たちはこれからも患者さんと向き合っていきます。パーキンソン病に関して、不安なこと・気になることがあれば、どうぞ遠慮なくご相談ください。

文献:パーキンソン病診療ガイドライン2018(監修 日本神経学会)

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  • 市立東大阪医療センター 神経内科 部長

    隅 寿恵 先生

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