概要
ビタミンK欠乏症とは、体内におけるビタミンKが不足することで引き起こされる病気です。
ビタミンK欠乏症を発症すると、出血しやすくなり、消化管出血、皮下出血、鼻出血、血尿などがみられます。新生児・乳児に発症すると頭蓋内出血の頻度が多く、予後不良因子となります。
原因はさまざまであり、新生児・乳児期から成人まで幅広い年齢層で発症する可能性があります。
日本を含めて諸外国においては出生直後からのビタミンK補充が行われ、不用意な出血を避けるための予防策が講じられています。
原因
ビタミンK欠乏症は、体内のビタミンKが不足することで発症します。
ビタミンKとは
ビタミンKは脂溶性ビタミンに分類されており、ほうれん草など緑色の野菜に多く含まれています。食物から摂取する以外にも、腸内細菌のはたらきで産生されるものもあります。
ビタミンKの吸収には、膵臓と肝臓のはたらきが重要です。食物経由のビタミンKはタンパク質と結合しており、膵臓から分泌される酵素により切り離される必要があります。その後、肝臓から分泌された胆汁と呼ばれる物質とビタミンKが混合され、小腸から体内に吸収されることになります。
体内に取り込まれたビタミンKは、凝固因子の産生に深く関係しています。凝固因子は、血液が固まる際に必要不可欠な物質なため、凝固因子が不足すると外傷等の原因がなくても出血をきたす可能性あります。
その他、ビタミンKは骨の成長過程にも重要であると考えられています。
ビタミンKが欠乏する原因
ビタミンK欠乏症の原因はいくつか知られています。
特に新生児期や乳児期においては、そもそも備蓄が少ないこと、母乳を介した摂取量が少ないこと、消化管内の細菌叢が未熟なためにビタミンKの産生が少ないこと、消化機能の発達が未熟であり吸収量が少なくなりやすいこと、などが原因で欠乏症になると考えられます。
また、ビタミンKの吸収には小腸や肝臓、膵臓が正常な機能を保っていることが重要です。したがって、小腸の病気(セリアック病、クローン病、短腸症候群など)、肝臓の病気(原発性胆汁性肝硬変、肝不全など)、嚢胞性線維症などが原因となることもあります。
さらに、ビタミンKは腸内細菌叢でも産生されますが、抗菌薬の長期投与があると腸内細菌叢が撹乱されることになり、結果としてビタミンK欠乏症を引き起こすことになります。
症状
ビタミンK欠乏症の症状は、出血のしやすさに関連したものになります。消化管や皮下、口腔粘膜からの出血頻度が高いです。また新生児・乳児の場合、頭蓋内出血の頻度が多く、予後不良となります。
新生児・乳児におけるビタミンK欠乏症は、出生後2~4日に発症することが多いといわれています。母親がワルファリンカリウムや抗てんかん薬を内服している場合、生後24時間以内に発症することもあります。
母乳栄養児においては、母乳中のビタミンKの含有量がミルクよりも少ないことと関連して欠乏症を引き起こすことがあります。生後2か月頃までは出血のリスクは高いと考えられています。
検査・診断
ビタミンKは凝固因子の産生に深く関わるため、凝固機能の測定により欠乏の状況を推定することが可能です。
具体的にはPTやAPTTで評価します。PTはより早期の段階から影響を受けやすいです。また、PIVKA-II(Proteins induced in vitamin K absence)と呼ばれるタンパク質は、ビタミンK欠乏症をより早期に感知できると考えられています。
ビタミンK欠乏症により出血をきたした際には、出血部位に応じた検査が検討されます。たとえば、頭蓋内出血が考えられる場合には、頭部CTが行われることがあります。新生児や乳児期においては、大泉門と呼ばれる部位が頭に存在しており、同部位を介して超音波検査で頭蓋内の出血状況を評価することもあります。頭部CTに比較して、ベットサイドでも行うことができるとても迅速な検査です。
治療
ビタミンK欠乏症の治療は、ビタミンKの補充が基本です。
新生児や乳児においては、ビタミンK欠乏に関連した出血のリスクが伴うため、予防的にすべての新生児にビタミンKが補充されます。補充の仕方には各国で違いがありますが、日本では日本小児科学会が3回投与を推奨しています。1回目は出生後に哺乳が確立したら速やかに、2回目は生後1週か産科退院時、3回目は1か月健診時です。
また、ビタミンK欠乏症を引き起こしている原因についてのアプローチも大切です。セリアック病、クローン病、短腸症候群、原発性胆汁性肝硬変、肝不全、嚢胞性線維症など、原因疾患は多岐に渡るため、それぞれに応じて適切に対応することが必要です。
また、抗菌薬の長期投与などが原因となることもあるため、内服薬の調整も必要になることがあります。
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