概要
メノポハンドとは、更年期前後に現れる手指の痛みやしびれ、こわばりなどのさまざまな症状の総称です。メノポハンドの発症には、エストロゲンという女性ホルモンの急激な減少が関わっていると考えられています。診断においては、症状の現れた時期や状態を確認する問診や視診、骨の変形や関節の状態を確認する画像検査、血液検査が中心に行われ、似た症状を持つ関節リウマチとの鑑別が重要です。
メノポハンドは、ばね指(弾発指)や狭窄性腱鞘炎(ドケルバン病)、手根管症候群、変形性関節症など、手指の病気と密接に関連しています。早期に適切な診断を受けて、原因に対処しながらそれぞれの病気の治療を受けることが大切です。原因に対処する方法は、減少したホルモンを補うホルモン補充療法(HRT)、女性ホルモンのはたらきを助けるサプリメントが選択肢となります。
原因
いわゆる“更年期障害”は女性の閉経にともなって、女性ホルモンが急激に減少することで、エストロゲン受容体が存在するさまざまな臓器に影響が出る状態です。エストロゲン受容体の中でも、β受容体は関節の滑膜や骨に多く存在しているため、更年期障害が手指に出現することがあります。このことをメノポハンドと呼びます。これまで、「年のせい」と言われていた女性の手の症状が実は、ホルモン変動と関連しているという認識が広がってきました。
また、エストロゲンは妊娠中に増加し産後の授乳期に減少するといわれており、更年期ではなくても妊娠中や授乳中にメノポハンドが生じる場合があります。
症状
メノポハンドとして現れる症状は、手指の痛みやしびれ、こわばりなど多岐にわたります。代表的な病気と症状について解説します。
ばね指(弾発指)
ばね指とは腱鞘炎の1つであり、指の付け根に痛みや腫れが生じます。進行すると指を曲げ伸ばしする際に腱が引っかかり、“カクン”と弾けるような動き(ばね現象)を伴うことがあります。特に朝方に症状が強く出る患者さんが多いとされています。
狭窄性腱鞘炎(ドケルバン病など)
ドケルバン病は、手首から親指の付け根周辺に生じる腱鞘炎です。手首や親指を動かそうとすると痛みが現れます。
手根管症候群
手首にある神経の通り道(手根管)で神経が圧迫されることにより、親指、人差し指、中指、そして薬指の親指側にしびれや痛みが生じます。特に夜間や明け方に症状が強くなる傾向があります。進行すると親指と人差し指で丸のサインが作れなくなり、物をつまむなどの動作も難しくなります。
指の変形性関節症(ヘバーデン結節・ブシャール結節)
手の指先の関節(第1関節)が赤く腫れて痛んだり、コブのように硬く変形したりする状態を“ヘバーデン結節”と呼びます。指先から2番目の関節(第2関節)に同様の症状が現れる場合は、“ブシャール結節”と呼ばれます。関節の近くに水ぶくれのような膨らみ(粘液嚢腫)ができることもあります。
検査・診断
医療機関を受診した場合、一般的に以下のような検査が行われます。なお、メノポハンド以外の更年期症状がある場合は婦人科、手指の痛みやこわばりなどの症状が強く現れている場合は手外科専門医を受診しましょう。日本手外科学会のWebページでは、近くの手外科専門医を調べることも可能です。
問診
症状がいつから始まったのか、どの指にどのような症状があるか、普段の手指の使い方などについて詳しく確認します。更年期障害のほかの症状の有無についても確認します。
視診・触診
医師が直接、手指の関節の腫れや変形の有無、押したときの痛みの程度、指の動きなどを確認します。
画像検査(X線検査、超音波検査など)
X線検査を中心に、関節の隙間の狭さや骨の変形の状態などを確認します。複数の関節に痛みや腫れがあり、関節リウマチが疑われる場合は、超音波検査が行われることもあります。
血液検査
関節リウマチなど、ほかの病気の可能性を除外(鑑別)するために行われることがあります。
治療
メノポハンドの治療は、ホルモンバランスへのアプローチと、手指の症状へのアプローチを組み合わせた治療が検討されます。
ホルモン補充療法
減少したエストロゲンを補う治療法です。飲み薬や貼り薬、塗り薬などがあります。主に婦人科で行われる治療であり、医師が更年期障害と診断した場合に保険適用となります。
保存療法
ばね指や手根管症候群などの病気と診断された場合は、それぞれの病気への治療が開始されます。鎮痛薬やリハビリテーションだけでなく、サプリメントも有効と考えられています。サプリメントには、エストロゲンに似たはたらきをするとされる、大豆から生まれた成分(エクオール)が含まれます。サプリメントの効果については、研究が進められています。
外科的治療
保存療法で改善がみられない場合や、機能障害が著しい場合には、病気に応じた手術が行われます。たとえば、ばね指に対しては腱鞘切開と呼ばれる腱鞘(腱が通る管)を開く手術、手根管症候群に対しては、靱帯を切って神経の通り道を拡げる手根管開放術が検討されます。
セルフケア
ストレッチなどの運動や入浴で体を温めると、痛みが軽減することがあります。
近年研究が進み、これまで「年のせいだからどうしようもない」と言われていた女性の手指の症状の正体が、対処可能なメノポハンドである例が明らかになりました。手の痛みがあるときは、専門医へ受診することが大切です。
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