概要
レーベル遺伝性視神経症とは、視力低下や視野の欠損を起こす病気のひとつで、細胞内にあるミトコンドリアという部分の不具合で起こるミトコンドリア病の一種です。ミトコンドリア病は、細胞の中でエネルギーを作る役割を持つミトコンドリアが、ミトコンドリア遺伝子の異常によって効率的にエネルギーを作れなくなることで起こる病気です。
ミトコンドリア病では、特にエネルギーをたくさん必要とする神経や筋肉の細胞の機能に異常が生じることから、全身に症状が起こることが多くみられます。しかし、レーベル遺伝性視神経症では、主に目に症状がでてきます。まれに不整脈、てんかん、小脳萎縮、筋肉の変化などが出現することもあります。
日本では、約13,000人に1人ぐらいの珍しい病気です(2018年11月時点)。
原因
ミトコンドリア遺伝子の特定の位置(11778番目、3460番目、14484番目など)に変化が起こることが原因です。これにより網膜から脳に電気信号を伝える細胞がダメージを受けると考えられています。
普通の遺伝子は、父親から半分、母親から半分受け継ぎますが、ミトコンドリア遺伝子は、母親からしか受け継がないことが分かっています。また、女性には症状が出ないことが多いため、母親は無症状であるのに生まれた男の子に症状が出ることがありえます。しかし、この遺伝子は男性からは受け継がれないため、発症した男の子の子供には影響がありません。ただし、すべての人が親から遺伝子変化を受け継ぐわけではなく、自分だけが遺伝子変化を持つ人(孤発例)もいます。
また、この病気特有の遺伝子変化を持っている人すべてがいつかは発症するというわけではありません。そのため、同じ家系内で同じ遺伝子変化を持っている男性が複数いても、全員が発症するとは限りません。
症状
遺伝子の病気の多くは、生まれたときから症状があります。しかし、レーベル遺伝性視神経症では、ある時期になるまで無症状で、一旦発症すると数週から数か月で悪化します。
多くの場合では、20~30代の若い男性に発症しますが、10歳以下や中高年・女性で発症することもあります。発症のきっかけは特にない場合もありますが、頭を打った・大量な飲酒・糖尿病・喫煙・ストレスなどがきっかけになる場合があります。
発症すると視力の低下、中心近くの視野が欠けます。目の痛みはありません。発症した場合、半数近くが同日に両目に症状が現れます。視力は、多くの場合は0.01~0.1程度で落ち着き、真っ暗になり光も分からなくなることはありません。視野は中心から欠けて、周辺に広がっていきます。周辺は見えるまま残り、見えにくいところがまだらに現れます。発症後半年以上の時点で少し回復することもあります。また、両眼の視力低下は多くが青年期に起こるため、その後の生活や仕事に大きな影響があります。
検査・診断
視力検査、眼圧検査、視野検査、眼底検査、中心フリッカー値、光干渉断層計など眼科の基本的な検査と、遺伝子検査(血液を採り、検査にかける)を行います。
眼の奥を見る眼底検査では、発症後早期には視神経が赤く腫れ、視神経付近の毛細血管が広がって蛇行し、血管が破れて小さい出血が起こっている場合もあります。
血管に造影剤を注入し眼底写真を撮影する蛍光眼底造影検査では、血管から造影剤が漏れ出ることがないため、他の視神経の病気と見分けるポイントになっています。発症後時間が経つと、視神経の色が悪くなり、萎縮した状態になります。
治療
現在、有効だと分かっている標準的な治療はありません(2018年11月時点)。視神経の病気によく使用されるステロイドも効果がないと考えられています。しかし、ミトコンドリアのエネルギー産生を助けるコエンザイムQ10の仲間が有効であったという報告もあります。目の血管の血流を増やす薬を試すこともあります。遺伝子治療、幹細胞治療などの研究がされていますが、残念ながらまだ気軽に試せる段階にはありません。
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