体外受精とは、不妊治療のひとつです。自然妊娠にいたらない場合であっても、体外受精によって、妊娠にいたるケースも増えてきているといいます。近年では、より一般的な治療になりつつある体外受精ですが、実際に、どのような流れで受けることができるのでしょうか。
今回は、恵愛生殖医療医院 院長の林 博先生に、体外受精の流れと治療期間、患者さんの妊娠率を高めるための取り組みについてお話しいただきました。
不妊治療のひとつである体外受精とは、体内から取り出した卵子と精子を体外で受精・培養させた後、受精卵(胚)を選び、子宮内に移植することで妊娠を目指す方法です。
日本産科婦人科学会が集計した体外受精の実績のデータによると、2016年には、日本の総出生児数のうち5.5%が体外受精によって生まれた子どもであるという報告もあります。
これは、18人に1人くらいの割合で体外受精によって出生している計算になり、近年では、体外受精はより一般的な方法のひとつになっているといえるでしょう。
体外受精では、35歳未満で初回であれば、約60%が妊娠にいたるといわれています。ただし、体外受精も女性側の年齢が高くなるほど妊娠の確率が低くなることがわかっています。
当院では、体外受精を受けていただくためには、以下のような準備が必要です。
当院では、体外受精を受けていただく方には、事前に体外受精セミナーを受講していただいています。このセミナーは、体外受精・胚移植の副作用や費用、通院頻度などについて十分に理解したうえで体外受精を受けていただくことを目指す取り組みです。なお、可能であればご夫婦で参加することをおすすめしています。
体外受精前の血液検査は、月経1〜3日目に行います。この血液検査によって、卵巣のはたらきや、感染症などがないかを確認していきます。
男性側の精液検査も行います。検査の結果、精子の数や運動率が極端に悪い場合には、顕微鏡下で卵子に直接精子を注入する顕微受精の併用を検討します。
準備が完了したら、当院では、主に以下のような流れで体外受精を行います。
1.排卵の誘発
質のよい卵子をなるべく多く発育させるために、排卵誘発剤を用いて排卵を促します。ただし、自然な排卵によって卵子を採取する自然周期法の場合には、排卵誘発剤を使用することはありません。
2.卵子の採取
経膣超音波を用いて、卵巣に針を刺し卵子を採取します。なお、初回の採卵時には、子宮内腔の方向や大きさを調べ、胚移植の際に用いられるチューブがスムーズに入るかどうかを確認します。
3.受精の場をつくる
小さな容器の中で卵子と精子を混ぜ合わせ、受精の場をつくります。
4.受精確認
採卵の翌日には、受精の確認が可能です。
5.胚の評価
受精卵(胚)の評価を行い、より妊娠の可能性が高い胚を選びます。
6.胚移植
胚を子宮内に戻します。
体外受精に痛みを伴うことはほぼありません。卵子を取り出すときには、卵巣に針を刺しますが、当院では、全身麻酔を行ったうえで採卵を行うので、不安を感じることなく受けていただくことができると思います。
体外受精は、副作用が少なく安全な治療法といわれています。ただし、排卵を促す排卵誘発剤を使用することで、卵巣が腫れ上がってしまう卵巣過剰刺激症候群と呼ばれる副作用が起こることがあります。
また、採卵のために針を刺したときに出血が止まらなくなってしまったり、ばい菌が入り感染症が起こったりする可能性もあります。ただし、これら出血や感染症が起こる頻度は非常に少ないといわれています。
当院では、妊娠の可能性を高めるために、新たな技術を積極的に取り入れています。
当院では、体外受精の成功率を向上させるために考案された「AIの画像判定技術」を導入しています。AIによる画像判定技術では、体内から取り出した卵子と精子を受精させた後、専用の機器の中で子宮に戻す前の胚を培養しながらAI(人工知能)によって解析を行い、質のよい胚をある程度判定することが可能になりました。
当院では、体外受精を受けられるすべての患者さんを対象に、このようなAIによる良好胚の判定を従来の培養士の目による判定と組み合わせることで、患者さんの妊娠率の向上を目指しています。
「体外受精で妊娠の成功率を向上させるAI技術とは?」はこちら
また、顕微受精の際に用いる新たな医療機器を導入しています。
顕微受精では、顕微鏡下で卵子に直接針を刺して精子を注入します。このとき、卵子の膜に、針を刺したり吸引したりして穴をあけるのではなく、超音波で微細に震わせた針をあてることで、より少ないダメージで膜に穴をあける方法があります。
当院では、微弱な振動を用いる医療機器を使うことで、卵子へのダメージをより少なくする顕微受精に取り組んでいます。
体外受精の回数に制限はないため、治療を続けるかどうかは、医師との相談のうえでご本人に決めていただきます。ただし、体外受精では、4回目までに妊娠にいたるケースが多いため、当院では4回をひとつの目安としています。
体外受精は、安全で現代の医学ではもっとも効果の高い治療法です。しかし、体への負担はゼロではありませんし、費用もかかります。そのため、十分に理解したうえで治療に取り組んでいただきたいと願っています。
当院では、体外受精への理解を深めていただくために事前セミナーを受講していただきます。それ以外であっても、不安や疑問があればご相談ください。当院は広々としたソファと共に、無料WiFiなどを完備し、少しでもリラックスできるような空間を整えています。また、お話したように、新たな技術の導入も積極的に行っています。
妊娠の可能性を少しでも向上させるため日々取り組んでいますので、安心してお越しいただきたいと思います。
恵愛生殖医療医院 院長
日本産科婦人科学会 産婦人科専門医・指導医日本生殖医学会 生殖医療専門医日本人類遺伝学会 臨床遺伝専門医日本周産期・新生児医学会 周産期専門医(母体・胎児)
1997年に東京慈恵会医科大学卒業後、同大学病院にて生殖医学に関する臨床および研究に携わる。
2011年4月恵愛病院生殖医療センター開設。
2016年1月恵愛生殖医療クリニック志木開院。院長就任。
2018年1月同クリニックを和光市に移転し、恵愛生殖医療医院へ改称。
日本生殖医学会認定 生殖医療専門医、日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医、日本周産期・新生児医学会認定 周産期(母体・胎児)専門医を持つ不妊治療のスペシャリストとして活躍。自らも体外受精・顕微授精や不育治療を経験しており、患者さま目線の治療を提供することをモットーとしている。
林 博 先生の所属医療機関
「不妊症」を登録すると、新着の情報をお知らせします
本ページにおける情報は、医師本人の申告に基づいて掲載しております。内容については弊社においても可能な限り配慮しておりますが、最新の情報については公開情報等をご確認いただき、またご自身でお問い合わせいただきますようお願いします。
なお、弊社はいかなる場合にも、掲載された情報の誤り、不正確等にもとづく損害に対して責任を負わないものとします。