概要
乗り物酔い(動揺病)とは、乗り物に乗って体が揺らされ続けることで頭重感、倦怠感、冷や汗、吐き気、嘔吐、めまいなどの症状を引き起こす病気のことです。
明確な発症メカニズムは解明されていませんが、「体は動いているのに目に入るものは動いていない」など体のバランスを整える“前庭”という耳の中の器官への刺激と視覚の刺激に乖離が生じることで発症するとの説が唱えられています。一方で、乗り物酔いは、不安感などの精神的な要因、妊娠などのホルモンバランス、においなどによって発症リスクが高まることも指摘されています。
なお、乗り物酔いは男性よりも女性のほうが発症しやすいとされ、12~15歳では約4割が乗り物酔いを発症すると考えられています。一方で、年齢を重ねるとともに徐々に症状が改善していくのが特徴で、50歳以上になると発症するケースは非常に少なくなります。
乗り物酔いに対しては、吐き気止めなどが使用されることがありますが、発症を予防するためには日頃から体の回転運動を体験することなどで乗り物の揺れに対して慣れていくことが大切です。また、乗り物に乗っているときは、読書やスマホ操作などで一点のみを注視しないこと、頭をむやみに動かさないことなどに注意するとよいとされています。
原因
乗り物酔いは、自動車や電車、遊具、飛行機や船などの乗り物で体が揺らされることによって発症します。
明確な発症メカニズムは解明されていませんが、前庭で感じ取る体のバランスと目に入る情報に乖離が生じることが原因で発症するといわれています。具体的には、体の揺れを感じているものの読書などをしていて目に入る光景が静止している・じっと座っているのに目に入る光景が激しく動いている・船に乗って波の一方向の動きを見ているものの体は上下に動いている、という状況が挙げられます。
このような体のバランスと視覚の乖離が生じると、脳の機能に異常が生じて嘔吐中枢が刺激されたり、自律神経のバランスが乱れたりすることで冷や汗や嘔吐などのさまざまな症状を引き起こすと考えられています。
また、乗り物酔いは、換気不足、乗り物酔いに対する恐怖心や不安感などの精神的な要因、妊娠などによるホルモンバランスの変化、片頭痛の既往なども発症リスクを高め、発症のしやすさは遺伝的な要因もあるとされています。
症状
乗り物酔いを発症すると、眠気、あくび、めまい、頭痛、頭重感、集中力低下、脱力感、疲労感などさまざまな症状が現れ、最終的には顔面蒼白、冷や汗、吐き気、嘔吐などの症状が引き起こされます。
なお、乗り物酔いの症状は体が揺れなどに慣れることによって徐々に改善していきます。しかし、長期間の船旅などで症状の改善が遅れるケースでは、頻回な嘔吐によって脱水や血圧の低下、抑うつ気分などの症状を引き起こし、さらに症状を悪化させるケースもあります。
検査・診断
乗り物酔いは通常特別な検査は必要とせず、発症の状況や症状などから総合的に診断されます。一方で、乗り物酔いでみられるような症状は脳梗塞などほかの病気でも引き起こされることがあります。
そのため、症状や重症度、発症の状況、年齢などによっては、疑われる病気に応じた検査が行われることもあります。
治療
乗り物酔いの治療は確立していない部分が多く、民間療法も多く存在します。具体的には、生姜を紅茶などに入れて摂取したり、手首のツボを刺激するバンドを着用したりすると発症を予防できるといわれていますが、医学的に明確な効果は立証されていません。
一方で、抗ヒスタミン薬、抗コリン薬、中枢神経興奮薬などを用いた薬物療法は乗り物酔いによる症状を緩和する効果があるとされています。
予防
乗り物酔いの発症のしやすさは個人差が大きいとされています。発症した経験がある場合は、いろいろな体の動きを経験して体を慣らすことが予防に役立つとされています。
また、乗り物に乗るときは読書やスマホ操作など視界が静止する動作は避けて遠くを見つめたり目を閉じたりすることや、頭をむやみに動かさないことも大切です。さらに乗り物酔いにはさまざまな発症リスクがあるため、寝不足や空腹を避け、適度な換気を行うことも発症予防につながると考えられています。
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