包括的高度慢性下肢虚血
- 同義語
- CLTI:chronic limb-threatening ischemia,重症虚血肢,重症下肢虚血,CLI:critical limb ischemia
概要
包括的高度慢性下肢虚血(CLTI)とは、足の血液の流れが著しく悪化し、足に潰瘍*1や壊死*2などの深刻な状態を引き起こすことを指します。以前はこれを重症虚血肢あるいは重症下肢虚血(CLI)と呼んでいました。CLTIでは、下肢*3血流の著しい低下により組織に十分な酸素や栄養が供給されないため、傷の治りが極めて悪くなり、感染のリスクも高まります。この状態が進行すると、組織の壊死が広がり、最終的に下肢切断のリスクが高まります。
CLTIの主な原因は、下肢の血管に動脈硬化が起こる末梢動脈疾患です。血管の内側にコレステロールや血栓(血の塊)が蓄積すると、血管の内腔が狭くなります。その結果、血管の壁が弾力性を失い固くなった状態が動脈硬化です。末梢動脈疾患では動脈硬化により、下肢の血管が狭まったり詰まったりして血流が不足します。この状態は閉塞性動脈硬化症とも呼ばれます。また、糖尿病、高血圧症、脂質異常症などの動脈硬化を進行させる病気や、喫煙なども危険因子となります。特に近年、これらの生活習慣病の増加に伴い、CLTIの患者数も増加傾向にあります。
典型的な症状には、足のしびれや冷感、安静時の痛み、足指の変色などがあります。特に糖尿病を合併している患者では、神経障害により痛みの感覚が鈍くなっているため、これらの症状に気付きにくいことがあります。その結果、受診した段階ですでに潰瘍や壊死が進行している場合もあります。
治療には血管内治療、バイパス手術などがあり、患者の状態に応じて適切な方法が選択されます。早期発見と適切な治療により、下肢切断のリスクを低減し、QOL(生活の質)を維持することが重要です。
*1潰瘍:皮膚や粘膜の一部がえぐれて深く傷ついた状態。
*2壊死:組織の細胞が死滅する状態。
*3下肢:股関節から足先までの部位。
原因
CLTIは、動脈硬化によって足の動脈が細くなったり、詰まったりすることで、足への血流が著しく低下して発症します。近年では足の血流以外に、皮膚の傷の場所、大きさ、深さ、感染の有無が、病気の進行に大きく影響することが明らかになっています。そのため、血流の低下の程度だけでなく、皮膚の傷の状態や感染の有無なども含めて総合的に判断し、適切な治療につなげるためにCLTIという考え方が提唱されました。
この病気は、加齢による動脈硬化に加えて、糖尿病や喫煙などの生活習慣病が発症リスクを高めます。特に糖尿病がある人や人工透析を受けている人、ステロイドや免疫抑制薬を使用している人、栄養状態が悪い人では、体の免疫機能が低下しているため、感染が発生しやすく、症状が重くなる傾向があります。
症状
CLTIは足の血行障害が重症化した状態です。その進行過程では、さまざまな症状が段階的に現れます。初期段階では、足が冷たくなる、足がしびれる、少し歩いただけで足が痛くなる(間欠性跛行)といった症状がみられることがあります。
下肢の血流がさらに悪化してCLTIの状態に至ると、より深刻な症状が現れます。具体的には、安静時でも足に痛みを感じるようになったり(安静時疼痛)、皮膚に潰瘍ができたり、足の指が黒っぽく変色したりする壊死の兆候を示す症状が生じます。これらの症状が2週間以上継続する場合をCLTIと呼びます。
安静時の痛みは足の指に生じやすいのが特徴です。痛みは足を上げると悪化するため、足を下げた状態のままにすることが多くなります。その結果、むくみが生じやすくなるケースも少なくありません。
また、CLTIでは重度の感染を生じるケースも多くみられます。細菌が全身に広がる敗血症と呼ばれる状態になった場合、高熱、呼吸障害などの全身症状が現れることがあります。
検査・診断
CLTIの検査では、実際に足を観察し、皮膚の色、温度、潰瘍や壊死の有無などを確認します。また、足の脈拍に触れて、血流の状態を評価します。そのほか、全身の状態の把握や下肢の血流をより詳細に評価するため、以下のような検査を行うことがあります。
足関節上腕血圧比(ABI)
足首と上腕の血圧を測定し、その比率を算出する検査です。下肢の動脈血流の状態を評価するのに用いられます。
皮膚灌流圧 (SPP)
皮膚の表面近くにある毛細血管の血流を調べる検査です。血圧を測定し、どのくらい下肢の血流が低下しているかを確認します。
血液検査
炎症の程度や栄養状態など全身の状態を評価するために血液検査が必要です。また、血液検査では糖尿病の重症度などを評価することもできるため、CLTIの原因となる病気の治療をするうえでも役立ちます。
画像検査
下肢の血流の状態を評価するため、造影CTやMRI、血管造影検査などの画像検査が必要となります。血管造影検査によって下肢の動脈の閉塞部位や範囲などを評価して、血管内治療やバイパス手術の治療方針を決定します。
また、骨への感染の有無を評価するために、X線やMRIなどの画像検査を行うこともあります。
培養検査
CLTIは皮膚の潰瘍などに感染を引き起こしているケースが多く、膿や組織の一部を採取して原因菌を特定する培養検査を行うことがあります。
治療
CLTIの治療の目的は、下肢の切断を回避し、下肢の機能を維持すること、そして痛みや潰瘍などの症状を改善させることです。一般的に、CLTIと診断された場合は下肢の血流低下を改善するための治療を行います。具体的には、血管内治療やバイパス手術といった血行再建術が行われます。
血管内治療
カテーテル(医療用の細い管)を用いて血管内から治療を行う方法です。狭窄した血管を風船で拡張したり(バルーン拡張術)、金属の網状の筒(ステント)を留置したりして血流を改善します。
バイパス手術
閉塞した血管をまたぐように、代替となる新しい血管をつなぐことで血流を回復させる治療法です。新しい血管には、一般的に患者自身の静脈や人工血管が用いられます。
これらの血行再建術の選択は、病変の部位や範囲、患者の全身状態などを考慮して決定されます。また血行再建治療後も、皮膚の潰瘍や感染などに対する適切な治療も並行して行っていく必要があります。
一方で、CLTIは寝たきりの高齢者などで発症するケースも多く、治療の負荷に耐えることが難しい全身状態の場合や、治療を行っても恩恵が少ない場合もあります。そのような場合には下肢を切断したり、痛みを和らげるなどの緩和ケアを主体に行ったりすることがあります。
予防
CLTIは、糖尿病などによる動脈硬化が原因で引き起こされます。そのため、発症を予防するには食事、運動、喫煙などの生活習慣を見直して、動脈硬化を起こし得る生活習慣病の発症や重症化を予防することが大切です。
特に糖尿病と診断された場合には医師の指示に従って適切な治療を継続し、下肢の血流低下を疑う症状がある場合には早期に治療を開始することが重要です。
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