インタビュー

長引く咳の原因の1つ、咳喘息とは? 治療法、予防策について解説

長引く咳の原因の1つ、咳喘息とは? 治療法、予防策について解説
阿南 栄一朗 先生

酒井病院 呼吸器内科 、日本東洋医学会 大分県部会 副会長

阿南 栄一朗 先生

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咳が長引いていても「薬を飲んでいるから大丈夫」と、つらい症状を我慢してしまっている方もいるのではないでしょうか。長引く咳にはさまざまな原因が考えられますが、もっとも多い原因は咳喘息(せきぜんそく)といわれています。咳喘息はそのままにしてしまうと喘息に移行する恐れがあるため、呼吸器内科で適切な治療を行うことが重要です。

今回は、酒井病院 呼吸器内科の阿南 栄一朗(あなん えいいちろう)先生に咳喘息の治療を中心にお話を伺いました。

2か月以上続く咳を“長引く咳(慢性咳嗽)”といいます。しかし、新型コロナウイルスに感染した可能性を疑う、あるいは周囲の方が気になるだろうという配慮から、実際には咳が1~2週間続いた場合には病院を受診されている方が多いでしょう。

長引く咳のもっとも頻度の高い原因は咳喘息です。それに加えて、胃食道逆流症(胃酸が逆流して、胸やけや喉への刺激などを引き起こす病気)、後鼻漏(鼻水が喉を刺激する症状)が頻度の高い原因に挙げられます。また長引く咳には、肺がんなどの器質性疾患や、結核などの感染症が隠れている場合もあります。これらの見逃してはいけない重篤な病気がないかを確認していくことがとても大切です。

なお、原因が1つの場合もあれば、ストレスや器質性疾患など、いくつかの要因が組み合わさって咳が長引いていることもあります。複数の要因が絡んでいる症例に対しては、原因ごとにそれぞれ治療を行わなければなりません。

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咳が続くと体力を消耗するだけでなく、全身の衰弱につながる可能性があります。したがって、原因に基づき適切な治療を行うことが重要になります。初期治療を1週間続けても改善がみられない場合は呼吸器内科を受診いただきたいと思います。

咳喘息とは、咳が出て止まらないものの、呼吸機能の低下は起こっていない状態をいいます。そのため、息のしづらさはありません。なお、痰は伴わないことが多いです。

毎年同じ時期にこのような症状が生じている方は咳喘息の可能性が高いと考えられます。

咳喘息は、気道が刺激に対して過敏になっているために起こります。刺激物は、たばこの煙や寒暖差、気圧、湿度、ストレスなどさまざまです。

寒暖の差が大きい春先や、梅雨や台風などで気圧や湿度が変わりやすい時期は、環境の変化が大きいために症状が出やすいと考えられます。男性よりもやや女性に多く、中でも肥満気味の方がなりやすいとされています。

咳喘息は、成人では10人に3~4人の割合で喘息に移行することが知られています。喘息に移行すると呼吸機能の低下が起こるため、呼吸するとヒューヒュー、ゼーゼーといった音がするようになったり、痰が出たりして、息をするのが苦しくなります。特に就寝時や明け方に症状が強く現れるために眠れないといった症状を訴える方もいらっしゃいます。

咳喘息はほかの病気を除外したうえで診断(除外診断)するため、複数の検査を行い、総合的に評価します。咳喘息かどうかを確認するために行う5つの検査をご紹介します。

問診、聴診

まず問診で、咳がどのくらいの期間続いているのか、激しくなる時間帯はあるのかなどを伺います。聴診では気道が締まった音がしないかを確認します。

画像検査

続いて、CTなどの画像検査で肺がん肺炎といった大きな病気が隠れていないかをみていきます。心臓が悪くなって咳が出ていることもあるため、心不全の所見がないかもチェックします。

呼吸機能検査

画像検査で大きな病気がないことを確認した後に、呼吸機能検査で気道の閉塞性(へいそくせい)を確認します。

血液検査

心不全やアレルギーがないかを確認するために血液検査を行います。併せて、肝機能や腎機能、貧血傾向がないかなどを確認します。

痰が出ている場合に行う検査

痰を採取できた場合には、喀痰中好酸球(痰の中に含まれる炎症を起こす白血球)の有無について調べたり、喀痰細胞診で悪性細胞の有無や喀痰培養で抗酸菌(結核菌をはじめとする細菌の一種)の有無を確認したりして痰や咳の原因を検査します。

咳喘息は、前述の5つの検査結果をもとに、ほかの病気の可能性を除外しながら総合的に診断していきます。その結果、咳喘息の可能性が高い場合には、咳喘息に対して治療効果の高い気管支拡張薬や吸入ステロイド薬を使用して、診断的治療を行う場合もあります。

ただし、ほかの病気がないことを確認したうえで実施することが重要です。

咳が出ている原因を突き止めなければ、効果的な治療を行うことはできません。咳の治療に限った話ではありませんが、できる限り症状の原因を詳細に検査することが適切な治療につながります。咳が続いている場合には、咳を早く治めるためにも呼吸器内科で一度詳しい検査を受けていただきたいと思います。

咳喘息に対する治療選択肢は、吸入ステロイド薬・気管支拡張薬・漢方薬になります。以下では、それぞれの特徴や注意点などを説明します。

吸入ステロイド薬は咳喘息の治療の第1選択肢になります。器具を用いて気道の炎症を抑える作用のある薬を直接吸い込む治療法ですが、吸入が難しい高齢の患者さんなどに対しては、ほかの治療法を検討します。

なお、吸入ステロイド薬は、咳が落ち着いたからといってすぐに中止すると再発する可能性があるので、経過を見ながら数か月かけて少しずつ量を減らしていく必要があります。

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【注意点】
声が変わったり、喉に違和感が出たりする場合があります。また、口腔ケアが不十分な場合、吸入期間が長期にわたると口内に薬が残り、口の中にカビが生えることがあるため注意が必要です。

吸入ステロイド薬の次に検討されるのが気管支拡張薬です。気管支拡張薬には内服薬だけでなく貼付薬もあるため、吸入ステロイド薬に比べると高齢の患者さんも使いやすいといえるでしょう。

咳が止まってからすぐに中止してしまうと悪化する可能性が高いため、咳が止まっても数か月は経過観察をしながら徐々に薬の量を減らしていきます。

【注意点】
気管支拡張薬は量が多くなると動悸がすることがあるため、その場合には別の治療法を検討する必要があります。

咳喘息の治療として、当院では気管支を広げる効果や炎症を抑える作用のある漢方薬を処方することもあります。その際には、咳の症状や患者さんの体質に応じたものを選択することが重要です。

なお、標準治療で対応困難な場合や、増悪を繰り返す場合には長期内服することはありますが、漢方薬は咳が止まったらほとんどの場合で服用を中止していただきます。

【注意点】
気管支を広げる効果のある漢方薬の中には、副作用として血圧の上昇や動悸を引き起こすものがあるため注意が必要です。

吸入ステロイド薬が治療の第1選択肢とされていますが、患者さんの症状や事情、年齢などに応じて治療方針を決めることが重要です。たとえば、高齢の患者さんで吸入ステロイド薬を使うのが難しい場合などは、貼付の気管支拡張薬や漢方薬を用います。このように、患者さんに合った治療を行うことによって、治療への意識の高まりや処方どおりの薬の使用につながり、治療効果に結び付くと考えています。

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東洋医学では、病気や体質を診るうえでさまざまな指標を使います。その1つである“気・血・水”では、“気”は生命エネルギー、“血”は血液、“水”は血液以外の液体を指し、3つの要素のバランスが崩れると体に不調が現れると考えます。漢方治療では、足りない部分を補い、多くなり過ぎている部分は減らすことで、3つのバランスを保つことを目標に治療を行います。

咳喘息の治療を漢方薬で行う場合、咳の性質を確認するとともに患者さんの体質をみて処方を考える必要があります。そのために、問診で咳の出やすい時間帯や痰の有無などを聞くことに加えて、望診(顔色や舌、痰の状態を診ること)や腹診、脈などを確認します。

これらの結果をもとに、先ほどお話した“気・血・水”といった指標に加えて複数の指標を用いながら、咳の原因と体質を捉え、足りない部分を補い、多くなり過ぎている部分は減らすはたらきのある漢方薬を処方することで崩れているバランスを整えていきます。

当院では、可能な限り1剤で治療を行うことを心がけていますが、体質が複雑に絡んでいる場合などは複数の漢方薬を併用することもあります。

漢方治療では、長引く咳などのつらい症状を抑え、根治に至るまでの対症療法(標治)を行うことが可能です。また、処方の際には患者さんの症状や体質に応じて適切な漢方薬を選択できる点もメリットといえるでしょう。

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咳喘息の予防においては、とにかく刺激物質を体内に入れないことが重要です。普段から手洗い・うがいをしっかり行って感染対策をするほか、刺激物質が体内に入らないよう掃除をするときや花粉などが飛ぶ時期などは、マスクや眼鏡をつけることをおすすめします。

肥満の方は、常に脂肪があるために、体の中で慢性的に炎症を起こしている状態といえます。炎症が続くと咳喘息の発症のきっかけになる恐れがあるだけでなく、治療に際して薬が効きづらくなる可能性があります。そのため、適正体重を維持し、生活習慣病を予防することが大切です。また、症状の悪化にもつながりますので、たばこやアルコールは控えましょう。

初期治療を1週間行っても効果がない場合には、治療が適切ではない可能性が考えられるため、呼吸器内科で精密検査を受けることをおすすめします。1度目の受診時に何も見つからなかったとしても、2回目以降に実施した画像検査などで原因となる病気が見つかることもあります。ですから、患者さんの訴えに耳を傾け、症状に寄り添ってくれる先生を受診することも重要といえるでしょう。咳喘息に限った話ではありませんが、最後まで責任をもって治療に臨んでくれる先生にご相談いただきたいと思います。

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