シャント手術とは、喉頭がんなどで声帯を失った方に対して行われる、発声機能を復活させるための手術です。シャント手術をすることで自然に近い発声を取り戻すことが可能になりますが、これを受けるにあたっては様々な注意点があり、他の代替発声法とよく比較検討をする必要があるといいます。シャント手術のプロフェッショナルである、東京医科大学耳鼻咽喉科学分野主任教授の塚原清彰先生にお話をお伺いしました。
喉頭がんで手術を行い、声を失った方がもう一度喋る方法は現在以下の3つがあります。
各発声方法の長所と短所
電機喉頭食道発声シャント法
手技獲得容易やや難容易
音声の質機械音悪い肉声悪い肉声
発声持続時間調整可短
長(呼気法のため)
手の制限片手(+)(-)片手(+)または(-)
メンテナンス電池など要不要3~9カ月ごとの通院交換
電気喉頭は古典的な方法であり、機械でのどを振動させることによって音を出します。特殊な技術がいらないうえ、皮膚に当てるだけなので感染症などの危険性もありません。術後1週間目あたりから練習が可能で、退院のころにはある程度使えるようになっています。短所としては、機械的な振動音声になること、電気喉頭を持つのに片手を必要とすることです。
食道発声は空気を飲み込んで食道にためて、そこの空気を出す時に食道粘膜を振動させて発声する方法です。長所は一度獲得すればメンテナンスが必要ないことや、ハンズフリーで発声ができる点です。声質も比較的自然で、上手な方は歌を歌われる方もいます。一方で、食道内に貯蔵できる空気量は限られるため分節が短く、声質が小さくなることや、その技術を習得するのがやや大変であるといった短所があります。
シャント法は、気管と食道をつなぎ、自分の肺活量を使って、食道粘膜を振動させ声を出す方法です。肺活量を使える点で通常の発声法に非常に近く、分節も長く取ることができ、練習が少なくて済むところがメリットといえます。
シャント手術は、一度声帯を失って声を出せなくなった患者さんに対し、もう一度声を取り戻してあげる方法として注目を集めている手術法です。欧米では主流として普及しているシャント手術ですが、日本ではまだその認知度が低く、2005年に始まってからまだ約5%の方にしか執刀されていないともいわれています。
喉頭がんや咽頭がんの手術で声帯を摘出し、声が出せなくなってしまっている患者さんに対して、声を取り戻すために行われます。欧米では喉頭摘出術と同時にシャント法を行うことが主流です。しかし、私はシャント手術をする前に、手術後の新しい体で食べることと呼吸することなど、のどのない生活に慣れてもらうようにしています。そして食道発声を練習してもらいます。術後一年が経過し、病気が再発せず、食道発声を身につけられず困っている方にのみ、この方法を勧めています。この理由は後述しますが、シャント法はメンテナンスが非常に重要かつ大変であるため、しっかりと管理できることが必要なためです。
喉頭がんで喉頭を摘出すると声を失います。同時に頸部に永久気管孔という孔をあけ、空気の通り道を確保します。これによって空気の通り道と食事の通り道が分かれることになります。
シャント手術は、トロッカ―とワイヤーを使って、気管と食道の間にヴォイスプロテーゼ(プロヴォックス®)というシリコン製の小さな管(人工喉頭)を埋め込みます。こうすることによって気管と食道がつながれた状態になります。手術で設置された永久気管孔を指などでふさぐことで空気の通り道が一本化し、肺から送り出された呼気がヴォイスプロテーゼ(プロヴォックス®)を通して食道へと流れ、食道の粘膜を震わせることで声が出るようになります。最初は発声法にコツがいりますが、少し訓練することで自然に会話ができるまで回復します。
【ヴォイスプロテーゼ(プロヴォックスVaga™)の役割】
プロヴォックスVegaヴォイスプロテーゼは「最適な発声」「容易な手入れ」「無理のない発声」といった3点に着目したヴォイスプロテーゼです。
声を出そうとする際は、肺から送り出された空気がヴォイスプロテーゼを介してのどに入り込み、そこで音声を生み出します。また、食物などを飲み込む際には弁がしっかりと閉じるので、誤嚥や誤飲を防ぐ働きも併せ持ちます。
ヴォイスプロテーゼを使った場合、声質は少し変化しますが、慣れてくるにしたがって自然に発声することができるようになります。
手術時間は、執刀医の技術によって大きく左右するため、手術症例の多い施設で受けることをお勧めします。
シャント手術を行うと、翌日には声が出せるようになることも少なくありません。ヴォイスプロテーゼ(プロヴォックス®)を用いた発声は、呼気を使うことで、自然に声を出すメカニズムに似ているため、食道発声法など他の発声法と比べて、発声するまでにリハビリや練習をする過程が少なくて済みます。声質も機械的ではなくある程度自然で、抑揚もつく、本来の声に近い声が出せるようになるといわれています。しかし、喉頭摘出前の自分の声に戻るわけではありません。
シャント手術は、電気喉頭などと違って気道に穴を開けなければなりません。その際にシリコンチューブを用いるため、感染症の原因にもなりえます。また、手術に時間がかかってしまった場合は、感染症の発症リスクが高まります。
手術後は年に3~4回(3か月に1回)のペースでヴォイスプロテーゼ(プロヴォックス®)を交換する必要があります。また、日々のケアとして、1日2~3回は専用のブラシを使ってヴォイスプロテーゼ(プロヴォックス®)の孔を掃除しなければなりません。高齢者ですと、鏡を見ながらヴォイスプロテーゼ(プロヴォックス®)の小さな孔をメンテナンスすることは困難です。長期成績も出ていないため、現在ヴォイスプロテーゼ(プロヴォックス®)で発声をしている患者さんが後期高齢者となった場合、どのような生活を送ることになるかの正確なデータは出ていません。
費用も比較的高額で、手術で平均13万円前後必要となります。術後のケアも、保険適用ではあるものの、一度器具を交換するたびに1万円以上の負担がかかり、消耗品の購入も常に必要となります。
シャント手術は新しい方法ではありますが、メリットもあればデメリットもあります。食道発声や電気喉頭も念頭に置いて比較し、どの方法が自分に最も負担がかからず生活していけるかをしっかりと考え、選択することが大切です。
東京医科大学 耳鼻咽喉科・頭頸部外科学分野主任教授
東京医科大学 耳鼻咽喉科・頭頸部外科学分野主任教授
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会 耳鼻咽喉科専門医・耳鼻咽喉科専門研修指導医日本がん治療認定医機構 がん治療認定医日本気管食道科学会 気管食道科専門医
1998年に東京医科大学を卒業後、癌研有明病院頭頸科医員、東京医科大学八王子医療センター耳鼻咽喉科・頭頚部外科准教授を経て、2015年8月より東京医科大学耳鼻咽喉科学分野主任教授。耳鼻咽喉科として臨床に携わる傍ら、頭頸部がんに対する様々な治療を数多く行ってきた、がん治療のスペシャリストでもある。手術、放射線、化学療法の3種を患者に適した形で施し、多くの頭頚部腫瘍を手がける。特に喉頭がんに対するシャント手術に関しては、その評価も高い。また、PloS Oneに掲載された「Randomized phase III trial of adjuvant chemotherapy with S-1 after curative treatment in patients with squamous-cell carcinoma of the head and neck (ACTS-HNC)」など非常に学術的価値の高い論文を発表している。
塚原 清彰 先生の所属医療機関
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