概要
回帰熱とは、ダニやシラミからヒトへ感染する“スピロヘータ”と呼ばれる細菌による感染症です。発熱期と無熱期を繰り返すことから回帰熱と呼ばれています。
原因となる細菌はヒトからヒトへ感染することはなく、日本においては感染症法上で全数報告対象の4類感染症に定められています。回帰熱は感染の原因となる動物によって2種類に分類され、症状の強さはそれぞれ異なります。
種類
回帰熱には、ダニから感染するダニ媒介回帰熱と、シラミから媒介するシラミ媒介回帰熱があります。
ダニ媒介回帰熱
病原菌を持った5~15mm程度のヒメダニと呼ばれるダニなどに咬まれた際に感染します。
主にアフリカ大陸、地中海地域などのイベリア半島、中央アジア、中東の一部、中国、インド、アメリカ大陸などの多くの地域でみられます。日本でも、北海道においてマダニが媒介する回帰熱の発生が確認されています。
シラミ媒介回帰熱
病原菌を持ったコロモジラミと呼ばれるシラミを皮膚の上で潰してしまった場合などに、傷口や粘膜などから病原菌が体内に侵入することによって感染します。
主にエチオピアやスーダン、ソマリアなどアフリカ大陸でも高地に分類される地域や、インド、アンデス山地などで感染の発生が確認されており、日本での発生は確認されていません。
原因
回帰熱はスピロヘータ科ボレリアと呼ばれる細菌に感染することによって発症します。具体的には、自然環境に生息するダニに咬まれたり、シラミを潰してしまったりした際に病原体が侵入します。この細菌はヒトからヒトへ直接感染することはありません。
症状
回帰熱は2~17日程度の潜伏期間(平均7日程度)を経た後、症状が出現します。
発熱期と無熱期を数回繰り返すことが一般的で、繰り返す過程で徐々に症状が改善していきます。妊娠中に感染すると、低出生体重児や早産、自然流産のリスクが高まるといわれています。
発熱期・無熱期の症状
発熱期には突然寒気を感じるようになり、40℃台の高熱が出るほか、頭痛や関節痛、筋肉痛、体のだるさ、結膜充血(白目の部分の充血)などがみられることがあります。重症化すると、心臓や脳、肝臓などにも障害が生じ、ときに致死的となることもあります。
初めの発熱期は5~7日ほどで、次第に解熱します。しかし1週間程度の無熱期を経たのち、再び発熱期に入ることもあります。2回目以降の発熱期は初めの発熱期と比較すると期間が短く、症状も軽くなる傾向にあります。
ダニ媒介回帰熱とシラミ媒介回帰熱の違い
ダニ媒介回帰熱とシラミ媒介回帰熱は症状が類似している一方で、シラミ媒介回帰熱のほうが重症化しやすい傾向があります。致死率もダニ媒介回帰熱は10%以下といわれていますが、シラミ媒介回帰熱では50%に達することがあります。
検査・診断
回帰熱が疑われる場合、血液検査から病原体の検出を行い、確定診断に至ります。
ただし、無熱期には血中から細菌が検出されないため注意が必要です。
治療
回帰熱の治療方法としては抗菌薬による薬物療法が有効です。具体的にはダニ媒介回帰熱の場合はテトラサイクリンが、シラミ媒介回帰熱の場合はテトラサイクリンとエリスロマイシンの併用、あるいはドキシサイクリンが選択されます。
ただし、回帰熱の患者に対して初めて抗菌薬を投与した際は、数時間以内に悪寒・震えなどの症状(Jarisch-Herxheimer 反応)が起こることがあり、その確率は、ダニ媒介回帰熱の場合で30~40%、シラミ媒介回帰熱の場合では80~90%といわれているため、投与後の様子をしっかり観察することが大切です。
予防
回帰熱を予防するためには、日頃からダニやシラミに咬まれないよう、防虫対策をしておくことが大切です。特に海外渡航する際は注意が必要です。
衣服の工夫
草むらなどに入る際は長袖・長ズボンを着用し、シャツの裾をズボンの中にしまう、ズボンの裾を靴下や靴の中にしまうなど、虫が入ってこないような工夫をしましょう。また靴はサンダルなどを避け、足を完全に覆う物を選ぶ、帽子や手袋を着用する、首にタオルを巻いたりするなど、可能な限り肌の露出を控えるようにするとよいでしょう。
なお、虫がついたときにはっきりと分かりやすくするため、明るい色の衣類が推奨されます。
その他
虫よけ薬を選ぶ際は、DEET(ディート)と呼ばれる成分が含まれたものを選択します。また、草むらに入った後は虫に刺されていないかどうか全身を確認することも大切です。
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