私たちは、膝があるためにスムーズに歩行したり座ったりすることができます。それくらい、膝は私たちの日常生活において大きな役割を果たしています。変形性膝関節症は、膝の軟骨がすり減ることで膝に強い痛みが生じる病気です。特に女性に多いこの病気は、加齢や肥満により起こるといわれており、進行すると歩くことができなくなることもあります。
横浜石心会病院(旧 さいわい鶴見病院)関節外科センター センター長である竹内 良平先生は、長年にわたり変形性膝関節症の治療に携わってきました。今回は、同病院の竹内先生に膝の構造と変形性膝関節症の症状についてお話しいただきました。
膝関節は、体の中でもっとも大きな関節であり、主に歩行のために重要な役割を果たします。具体的には、太ももにあたる大腿骨とすねにあたる脛骨の継ぎ目にある関節です。膝の前方には膝のお皿と呼ばれる膝蓋骨があり、それから4つ目の骨として脛骨の外側にある腓骨と呼ばれる細い骨から成り立っています。
大腿骨、脛骨、膝蓋骨それぞれの関節面と呼ばれる表面には、厚さ3mmほどの軟骨が存在します。この軟骨には、関節が動く度に摩擦が生じます。摩擦は、スケートリンクとスケート靴の間に生じる摩擦よりも小さいといわれています。このように膝関節に生じる摩擦は極めて小さいため、膝の軟骨は通常すり減ることがありません。
さらに、大腿骨と脛骨の関節面の間には半月板があり、主にクッションの役割を果たします。この半月板は、アワビの刺身のような硬さで、コラーゲン繊維でできています。膝を曲げたり伸ばしたりすると半月板が動き、そのおかげで私たちはスムーズに膝を曲げることが可能となります。
膝関節の安定性においては、靱帯が非常に重要な役割を果たします。骨と骨だけが接している関節には、基本的に安定性がありません。その前後左右の安定性を保つためにあるのが、次の4つの靱帯です。関節内部にある前十字靱帯と後十字靱帯、膝の内側にある内側側副靱帯と外側にある外側側副靱帯により、膝の安定性が保たれています。
さらに、膝関節全体は、滑膜という薄い膜に裏打ちされた関節包という袋のようなものに包まれています。滑膜では、主に関節液が作られ、関節の動きを滑らかにしたり関節の軟骨に栄養を与えたり、また免疫をつかさどる役割を持っています。後ほど詳しくお話ししますが、病気が進行し、この滑膜が炎症を起こすと膝に水がたまる関節水腫になりやすいです。そのため、滑膜が炎症を起こすまで症状を悪化させないことが極めて重要です。
変形性膝関節症とは、膝関節の軟骨がすり減ることにより慢性炎症や変形が生じ、膝に痛みが現れる病気です。この病気は、膝の軟骨がすり減り、表面が荒れるため半月板が切れてしまうという考え方もありますが、その逆もあります。
つまり、軟骨と半月板のどちらが先に痛むかは、人により異なります。
また、詳しい症状については後ほど述べますが、人によっては前述した関節水腫の症状が出ることもあります。
変形性膝関節症は、基本的に加齢とともに進行する病気です。一般的には40歳代からはじまるといわれており、私たちの病院で変形性膝関節症の手術を受ける患者さんの平均年齢は60代後半です。また男女比は、一般的には女性3に対して男性2の割合であり、女性の患者さんが多いといわれています。
さらに、変形性膝関節症になりやすい方には、主に以下のような特徴がみられます。
【変形性膝関節症になりやすい方の特徴】
日本人に多いといわれるO脚の方は、もともと変形性膝関節症になりやすいことが分かっています。なぜならO脚の場合、膝の内側と外側に体重がアンバランスにかかることになり、それが長期間続いた結果、膝関節に負担がかかるためです。また、閉経後の女性は、ホルモンバランスの変化により骨がもろくなるといわれています。そのためにO脚になりやすいことが分かっています。さらに、体重がある肥満の方は、それだけ膝にかかる負荷が重くなるため、変形性膝関節症になりやすいことが分かっています。
お話ししたように、変形性膝関節症の主な原因は加齢ですが、メカニカルストレスといって体重も大きな要因になるといわれています。体重があり、O脚の方は特に危険です。通常は、膝の内側と外側にそれぞれ50%ずつ力がかかりますが、O脚の方の場合、内側のほうが外側に比べてはるかに大きな体重がかかるといわれています。半月板や軟骨は加齢とともに変性、劣化します。たとえば30~50年もの長期間にわたり、半月板と軟骨にストレスが加わると、あるとき半月板や軟骨が切れたりすり減ったりしてしまいます。そうして引き起こされるのが変形性膝関節症です。
加齢と体重が変形性膝関節症の主な要因とお話しさせていただきましたが、ほかにもこの病気と関連があると考えられている要因がいくつかあります。
近年、変形性膝関節症と骨粗しょう症の関連が議論されるようになりました。一般的に加齢とともにO脚は進行しやすいといわれています。それは、高齢になり閉経した女性は、ホルモンバランスの変化により骨がもろくなる傾向にあるからです。そのため、閉経後の女性には骨粗しょう症の患者さんが少なくありません。骨粗しょう症になると、脛骨の内側の骨が徐々につぶれてO脚がひどくなります。O脚になり膝の内側にさらに大きな負荷がかかった結果、軟骨がすり減りやすくなるのではないでしょうか。
また、私は遺伝的な要因も大きく関係していると考えています。軟骨の強さは人により異なります。たとえば、同じO脚の患者さんであっても、すぐにすり減ってしまう軟骨と、なかなかすり減らない軟骨に分かれます。その背景には遺伝があり、もともと軟骨がもろく痛みやすい方は、変形性膝関節症になる可能性が高いということが言えるでしょう。
日本人のO脚は、世界のなかでもかなり独特であるといわれています。脚のすねにあたる脛骨は、ヨーロッパやアメリカなど海外の方は真っすぐであることがほとんどなのですが、日本人は膝から下で曲がっていることが多く、そこには日本人の生活習慣や食生活が関係していると私は考えています。まず、日本人は、畳や床の生活によりふとんの上げ下ろしや、あぐらをかいたり正座をしたりなど膝を大きく曲げることが多く、膝に負担がかかった結果、この病気になりやすいという背景があります。また、これはまだ推測の域を出ませんが、私は水にも注目しています。日本は島国ということもあり、水道水は主に軟水です。軟水は、カルシウムやマグネシウムの量が少ないといわれています。日頃から軟水を飲んで生活しているために、日本人の骨は軟らかく曲がりやすく、O脚になりやすいのではと思います。
変形性膝関節症の初期の自覚症状としては、歩行時の痛みや椅子から立ち上がる際の膝の痛みが挙げられます。なかでも、特に歩き始めの最初の数歩に痛みを感じることが多いでしょう。
しかし、この痛みには個人差があります。変形性膝関節症が進行しても痛みを感じない方がときどきいらっしゃいます。そういう方は、気づいたときには病気が進行している場合が少なくありません。一方で、痛みを強く感じていてもそれほど進行していない例もあり、なかなか本人が感じる痛みの程度と病気の進行度が一致しない点も変形性膝関節症の特徴です。また、日本人は痛みに対する耐性が強く、少し痛みを感じるくらいでは我慢する傾向にあります。痛みで動くことができなくなり、そこではじめて手術を受けるという方もいるほどです。これらのため、本人の判断よりも専門家による正確な診断がより重要になるでしょう。
変形性膝関節症の症状は、一般的に病気の進行とともに以下のように変化していくといわれています。しかし、これはあくまで一般的な話であり、先ほどお話したように症状や痛みには個人差があります。
【変形性膝関節症の分類と症状】
変形性膝関節症の進行期になると、痛みで立ち上がることさえできなくなる方もいます。記事3『変形性膝関節症の治療——薬物療法、手術』で詳しくお話ししますが、進行期でも特に病状が悪化している末期になってしまうと治療の幅も狭まってしまいます。少しでも膝に痛みや違和感があれば、なるべく早く治療に入っていただきたいというのが私たちの願いです。
変形性膝関節症は、なにかの動作を行ったときに膝に痛みが現れる病気であるとお話ししましたが、この症状を動作時痛と呼びます。特に、歩行時の最初の数歩や椅子から立ち上がるときに膝に痛みを感じる方が多いでしょう。初期でもこの痛みは現れやすいですが、病気の中期や進行期になると、さらにいろいろな痛みの原因が現れるため、より強い痛みを感じることが多いといわれています。
なかでも、関節包にある滑膜が炎症を起こすと、強い痛みが生じやすくなります。また、病気が進行すると靱帯のバランスが悪くなり、片方の靱帯が引っ張られるのに対し、もう片方の靱帯がたるむ現象が現れ、痛みにつながるといわれています。膝の軟骨や半月板そのものには感覚神経はないのですが、関節包や滑膜など、主に神経が集中しているところから痛みが発生します。
この動作時痛が進行すると、痛みで可動域が狭まり、日常生活に大きな影響を及ぼします。
変形性膝関節症の方には、ラテラルスラストという現象が起こることがあります。これは、体重がかかったときに瞬間的に膝がガクッと外側に動く現象をいいます。膝を包んでいる関節包には神経が集まっているので、ラテラルスラストにより関節包が繰り返し引っ張られた結果、さらに痛みが出るという状態になります。
動作時痛とともに変形性膝関節症の代表的な症状に、関節水腫があります。これは、膝に水がたまる症状をいいます。通常、人は立ち上がると膝のお皿と呼ばれる膝蓋骨の形が見えますが、関節水腫になると、たまった水により膝の輪郭がなくなり膝のお皿が見えなくなります。また、膝の中に限界まで水がたまると膝が曲げにくくなります。
このような関節水腫の症状が現れる方は、滑膜炎という膝の内部に炎症が起こっている患者さんです。関節包にある滑膜に炎症が起こると、通常は静脈経由で体の中に戻るはずの水分が戻らなくなります。つまり、この炎症が治まらない限り、膝に水がたまり続けることになります。膝にたまった水を抜いたとしても炎症が治まっていなければ、また水がたまってしまいます。関節水腫とほかの要因との関連はまだ解明されていませんが、滑膜炎以外にも原因があると考えられています。
この関節水腫は、変形性膝関節症の全ての患者さんに現れる症状ではなく、症状が現れる患者さんと現れない患者さんに分かれます。お話ししたように滑膜に炎症が起こっている患者さんは、膝に水がたまりやすいといわれています。
変形性膝関節症の予防のためにもっとも重要なことは、体重を増やさないことです。体重が増加すると、膝にかかる圧力が自動的に増えます。たとえば、体重60kgの方でも、歩行時は瞬間的に体重の3倍の180kgもの圧力が膝にかかるといわれています。このように、膝への負担を減らすために体重を増やさないよう心がけることが重要です。
また、周囲がいくら靱帯に覆われていても関節は不安定です。しかし、周囲に筋肉がつくことで不安定な関節をガードしてくれます。その筋肉が弱くなると不安定になり、軟骨がすり減りやすくなります。ですから、この筋肉のガードをしっかりさせるために、筋力トレーニングをすることで変形性膝関節症は進行しづらくなると考えられます。
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