記事1の『腹痛や下痢・便秘を繰り返す場合、大腸がんの初期症状の可能性も?』では、大腸がんの症状や検診方法を中心にご説明しました。今回は、大腸がんの進行分類の基準と、それに伴う5年生存率の変化、再発予防治療を中心に、引き続き横須賀市立うわまち病院第二外科部長の菅沼利行先生にお話しをうかがいました。
大腸がんの進行度は、TNM分類という分類基準と、ステージ0~Ⅳで判断しています。
TNM分類とは、T=壁深達度(腫瘍の大きさ)、N=リンパ節転移、M=遠隔転移(他の臓器などにどのくらい転移しているか)の大きく3つに分けられ、それぞれの進行度に伴い、より詳しく分類されています。国内では、大腸癌取り扱い規約第8版で海外で使用されているTNM分類もあり、これは国内と若干の差異があります。うわまち病院では、両方の整合性をとるように、2つを照らし合わせながらがんの進行度を分類しています。
国内の大腸がんのステージは、上図のように分かれています。図の右側に行くにつれ、進行度が高くなります。ステージもTNM分類同様に海外のものとは若干の違いがあります。
ステージ0からステージⅣまでの5年生存率(5年後に患者さんが生存している確率)はおおよそ以下の通りです。
このように、ステージが高くなるにつれ、5年生存率は低くなります。特にステージⅢbとステージⅣでは、5年生存率が大きく変化しています。これはステージⅢbまでが局所のがんで、手術等の治療を行える範囲の限界であるためです。ステージⅣに進行すると、がんがリンパや血液の流れに乗って全身の臓器に転移している状態となります。
局所から全身病へと進んでしまった状態であり、体内からがんを消し去ることは困難な状態です。場合により原発部位のみ切除したり,あるいは肝転移,肺転移などの一部で手術が行われています。
多くは抗がん剤による治療が中心になりますが,抗がん剤治療は延命は可能ですが、治す、治癒するのはなかなか難しくなります。また骨に転移した場合などは痛みが激しいので放射線治療を行ったりします。このような違いから、5年後生存率が大幅に変化しているのです。近年は研究が進み、使用できる抗がん剤の薬の種類も増加してきています。
大腸がんの治療後にみられる再発の種類は、主に遠隔移転、局所再発、腹膜播種、接合部再発の4種に分類されます。
遠隔転移とは、もともとがんが発生した部位から血液の流れに乗って、離れた部位にがんの病巣ができるという再発です。大腸がんの再発のなかでは最も多い種類であり、転移する臓器としては、肝臓と肺が中心です。
局所再発とは、最初に腫瘍があった場所、またはその付近にがんが再発することです。直腸がんの場合、局所再発を起こす頻度が多いといわれています。
直腸は上図のように、骨盤の狭い空間のなかに入っています。また骨盤の横には、排尿や射精などの性機能に影響する自律神経が走っています。そのため、直腸がんの手術を行う際は、こうした自律神経を傷つけないように慎重に切除をしていきます。
しかし、神経を含む部分や骨盤の後壁部分にがんがある場合には、肉眼で完全に取りきったと確認をしても、ごくわずかな腫瘍が残ってしまう可能性があります。微量の取り残しがあった場合、局所再発をしてしまう危険性があるのです。
海外では局所再発を減少させるために、臀部付近にできた直腸がんの患者さんに対して、手術前に放射線治療や化学療法を行っているケースもあります。しかし、国内の場合は手術で病巣からリンパ節まで全てを取り除くという考え方が主流でしたが,直腸がんに関しては術前に抗がん剤と放射線治療を組み合わせて治療をする施設も増えてきています。
がんが腹膜(肝臓や胃、大腸、小腸などの臓器の表面を包んでいる膜)全体に転移したものを腹膜播種といいます。消化器官を含め、小腸、大腸のあちこちにがんが散らばっている状態です。
症状としては、腹水(臓器同士の摩擦を防ぎ、運動を円滑にするための液体)が通常よりも多く溜まったり、腸閉塞の状態になったりします。腹膜播種になる再発の確率は遠隔転移に比べると低くなっています。
大腸がんの切除手術は、腫瘍のできている一部の大腸を切り取った後、残りの大腸の端と端を再び結合させます。吻合部再発とは、手術で大腸と大腸をつなぎ合わせた場所にがんができてしまうことです。
吻合部再発の原因は、手術の際に崩れた腫瘍を一緒に縫い込んでしまったことや、リンパ節が取り切れていないまま繋ぎ合わせてしまったことなど、諸説あります。この再発パターンは大腸がん特有のもので、非常にまれな症例です。
抗がん剤治療は、進行度が高く手術が難しい患者さんに実施しますが、うわまち病院では大腸がん手術後の再発予防のためにも、抗がん剤の補助治療を行っています。対象は、ステージⅢの患者さんが中心で、手術終了後から時間が経ってしまうと抗がん剤治療の効果が薄れてしまうため、なるべく術後8週間以内を目安に補助治療をスタートさせます。治療期間は半年ほどです。海外では、ステージⅡの一部の患者さん(他の臓器にがんが浸潤している方など)にも、抗がん剤の補助治療を行っているケースもあります。しかし、日本ではまだそこまでのコンセンサスが得られていないため、ステージⅢ未満の方は治療の対象外となります。
時折、「手術で全部取りきったとおっしゃっていたのに、どうして抗がん剤治療をするのですか」と患者さんに尋ねられますが、これには理由があります。
術後の検査で腫瘍は残っていないという結果が出たとしても、0.1mmや0.2mmといったわずかな腫瘍は検出することが不可能なため、見逃してしまう可能性があります。その小さな腫瘍が半年から1年ほどで大きく成長した場合、がんが再発してしまいます。こういった再発を防止するために、抗がん剤による補助治療を行うのです。術後に抗がん剤治療を行う場合、治療をしなかった場合と比べると約10%、再発防止効果があるとされています。
また、抗がん剤治療には副作用を伴います。そのため、補助治療の適応となる患者さんは、75歳くらいまでの比較的体力のある方でなければなりません。それ以上の年齢の方は、副作用に耐えられる身体かどうかを調べ、ご本人と相談をしたうえで、治療を実施するかどうかを決定します。
横須賀市立うわまち病院 第二外科 部長
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