概要
家族性良性慢性天疱瘡とは、青壮年期(およそ15~44歳)以降に腋の下・首・足の付け根・肛門の周りなど皮膚の摩擦が起こりやすい部位に水ぶくれや赤い発疹が生じる病気です。別名“ヘイリー・ヘイリー病”とも呼ばれています。特定の遺伝子の変異によって引き起こされ、親から遺伝することが分かっています。
家族性良性慢性天疱瘡は、発症すると水ぶくれや発疹などの症状が現れますが、いったんよくなっても再発を繰り返すことが特徴です。またかゆみを伴うため、かくことで細菌感染を引き起こし、膿が出て悪臭を放つようになることもあります。発症した部位は皮膚症状が改善しても、色素沈着し周りの皮膚よりも色が濃くなっていきます。家族性良性慢性天疱瘡を完全に治す治療法はありませんが、進行や症状の悪化を抑える治療法はあるため、できるだけ早い段階で的確な診断が下され、治療を開始することが望まれます。
原因
家族性良性慢性天疱瘡は、“ATP2C1”と呼ばれる遺伝子の変異によって引き起こされると考えられています。ATP2C1遺伝子は、皮膚の細胞内のカルシウムの出し入れに関わる遺伝子です。しかし、なぜカルシウムの出し入れに異常が生じることで水疱や赤い発疹などが引き起こされるのか、明確には解明されていません。
また、この遺伝子の変異は“常染色体優性(顕性)遺伝”という形式で遺伝することが分かっています。つまり、両親のうちどちらかからこの遺伝子の変異を引き継ぐことで発症します。一方で、家族性良性慢性天疱瘡の約30%は遺伝に関係なく発症していることも分かっています。
症状
家族性良性慢性天疱瘡は遺伝性の病気であるものの、生まれてすぐに症状が現れるわけではなく、多くは青壮年期以降に発症します。
発症すると、腋の下、脚の付け根、肛門の周囲、首など、柔らかく皮膚の摩擦が起こりやすい部位にかゆみを伴う水ぶくれや赤い発疹が生じるようになります。これらの病変はいったん改善しても再発を繰り返し、とくに摩擦や汗、紫外線など外的な刺激が加わると再発しやすいことが特徴です。
また、この病気は再発を繰り返すと、水ぶくれや発疹などの症状が治りにくくなり、水ぶくれが破けて痛みを生じたり、細菌感染を引き起こしたりするようになります。そして、膿が混ざったようなかさぶたが形成され、時間をかけて改善していきますが、元通りきれいに治ることは少なく、多くは紅~褐色の色素沈着を生じます。
検査・診断
家族性良性慢性天疱瘡は、遺伝によって発症するケースが多いため、同じ家系内の病歴や症状、再発の有無などから容易に診断を下すことが可能です。
しかし、確定診断のためには、病変部の皮膚組織を採取して顕微鏡で詳しく調べる“病理検査”や、発症原因とされる“ATP2C1”の遺伝子変異の有無を調べる“遺伝子検査”が必要となります。ただし、遺伝子検査により確認される変異には多様性があり、遺伝子変異の部位・種類と臨床的重症度との相関は明らかにされていません。
治療
家族性良性慢性天疱瘡を根本的に治す方法は、現在のところ確立されていません。
そのため、この病気の治療は水ぶくれの痛みや細菌感染などを改善すること、進行を抑えることが目的となります。
症状が比較的軽い段階では、炎症を抑えるストロングクラス以上のステロイド外用薬が第一選択となります。また、ビタミンD3軟膏やタクロリムス軟膏も有効なことがあります。再発を繰り返して症状が強くなっているような場合には、レチノイドの内服や免疫抑制薬などの全身療法を検討します。
そのほか、水ぶくれが破れて細菌感染などを起こしているときには、抗菌薬の投与が行われます。
予防
家族性良性慢性天疱瘡は遺伝によって発症することが多い病気であるため、発症を予防することはできません。
しかし、皮膚の摩擦、汗、紫外線、感染などの外的な刺激が誘因となって再発することが分かっているため、発症した場合はできるだけこれらの原因を避けるよう日常生活の中で注意していくことが大切です。特に、夏場は冬よりも再発や悪化が生じやすいため、より対策を徹底するとよいでしょう。
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