概要
巨細胞性動脈炎とは動脈に慢性的な炎症が起こることによって、さまざまな症状を引き起こす自己免疫疾患です。病変部分を顕微鏡で観察すると、核のある大きな細胞(巨細胞)が確認されることから“巨細胞性動脈炎”と呼ばれます。
巨細胞性動脈炎は特に頭頸部の動脈やこめかみを通過する“浅側頭動脈”、目に血液を送る“眼動脈”などに生じやすく、以前は“側頭動脈炎”や“ホートン病”などと呼ばれていました。2012年に名称が統一されたほか、2015年には日本の指定難病にもなりました。症状は病変の発生した部位によっても異なりますが、頭頸部の大動脈に生じると、頭痛や顎の痛みが生じるほか、眼動脈に生じると視力低下や失明につながることもあります。
難病情報センターによれば、日本の患者数は2017年のデータでおよそ3,200人と比較的まれな病気で、発症年齢は50歳以上、好発年齢は70歳代と比較的高齢な患者の多い病気です。また女性の患者が男性の患者の約2~3倍で、アジア人よりも白人に多いことが分かっています。また日本では巨細胞性動脈炎の患者のおよそ40%にリウマチ性多発性筋痛症との併発がみられることが分かっています。
原因
巨細胞性動脈炎の発症原因は今のところ明らかになっていません。ステロイド薬が効果を示すことなどから、免疫の異常からくる“自己免疫疾患”であると考えられています。
また、かかりやすい人種や遺伝的素因、さらに南欧より北欧の患者数のほうが多いなどの特徴はありますが、遺伝する病気ではないと考えられています。そのほか、喫煙やウイルス感染などが発症に関与しているという報告もありますが、まだはっきりと分かっていないのが現状です。
症状
巨細胞性動脈炎では、炎症が起こることによる全身症状と病変が生じている部分の血管に炎症が生じたり、血管が詰まったりすることによる症状があります。一般的に、およそ3分の2の患者に側頭部の痛みがみられるといわれているほか、およそ半数の患者が食事中の下顎の疲れを自覚するといわれています。また患者のおよそ20%で失明、あるいは視力の部分的な消失がみられることも特徴です。
ただし該当する症状が全て現れるとは限らず、病気の経過にも個人差が大きいことに注意が必要です。
炎症による全身症状
炎症による全身症状としては、持続的な発熱や体のだるさ、体重減少などが挙げられます。また筋肉痛や関節痛のある人もいます。
各病変部位に応じた症状
もっとも好発しやすい頭頸部の動脈に病変が生じた場合、今までに経験したことのないような頭痛のほか、頭の片側だけに生じる痛み、食べ物をかむ際の顎の痛み、下顎や首の痛みなどがみられます。
そのほか、眼動脈に病変が生じた場合には片側、あるいは両側の視力低下、失明が生じることがあります。また、脳へとつながる動脈に病変が生じると、めまいや脱力感、うまく体を動かせなくなるなどの症状もみられます。そのほかにも、以下のような部位に病変が発生することがあります。
その他の発生部位と症状
- 大動脈……背中の痛み
- 腕へつながる動脈……腕の痛みや冷え、だるさ など
- 心臓へつながる動脈……胸の強い痛み
- 足へつながる動脈……足の痛みや冷え、長時間の歩行ができない など
その他
前述のとおり、巨細胞性動脈炎の患者の40%はリウマチ性多発性筋痛症を合併しているため、上で述べた症状に加えて、四肢の筋肉痛が生じたり、立ち上がりや寝返りが困難になったりする人もいます。
検査・診断
50歳以上で巨細胞性動脈炎を疑う症状があった場合、血液検査や画像検査、動脈の一部を採取して生検を行うことが一般的です。
血液検査
血液検査ではCRPやESRといった数値の上昇が認められることがあります。しかし、自己抗体は陰性であることが特徴で、特異的な所見はみられないことが一般的です。
画像検査
画像検査としては、超音波検査、造影CT検査、MRI検査、PET-CT検査、血管造影検査などさまざまな検査を組み合わせることが一般的です。病変部分の血管の壁が分厚くなっていることを確認します。
以前はPET-CT検査が自費検査であり、検査費用の自己負担額が高額となってしまっていましたが、2018年より巨細胞性動脈炎の患者に対するPET-CT検査は保険診療となったため、現在ではその負担が軽減されています。
動脈の生検
病変部分の血管の壁の一部を採取し、顕微鏡で見ることによって、巨細胞や炎症の存在を確認する検査で、確定診断に役立ちます。しかし、体に負担がかかりやすい検査であるほか、採取した病変から必ず巨細胞が見つかるとは限らないため、ほかの検査結果を加味して総合的に診断することが大切です。
治療
巨細胞性動脈炎の主な治療方法は薬物療法です。もっとも効果が期待できる治療薬は“プレドニゾロン”をはじめとするステロイド薬(飲み薬)で、症状が改善するまで一定量を服用した後、徐々に用量を減らしていきます。
しかし、30~50%ほどの患者でステロイド薬の減薬中に症状の悪化が認められます。薬の効果が不十分な場合や症状の悪化でステロイド薬を減らせない場合、ステロイド薬の副作用でステロイド薬を長く使用できない場合などには、生物学的製剤である“トシリズマブ”を組み合わせることも検討されます。また、保険適用はありませんが免疫抑制剤の“メトトレキサート”を組み合わせることが提案される場合もあります。
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