概要
急性肝性ポルフィリン症とは、血液成分のヘモグロビンに含まれる“ヘム”を作る過程に異常が生じて、腹痛や運動麻痺などの症状が現れる遺伝性の病気です。
ヘモグロビンは、血液の赤い色素のもとになる成分です。ヘモグロビンに含まれるヘムという物質は酸素と結合することができるため、血液は全身に酸素を運ぶことができます。
急性肝性ポルフィリン症では、ヘムを作るのに必要な酵素が欠損しているためにヘムになる前の物質(ヘム前駆体、ポルフィリン)が大量に蓄積します。ヘム前駆体が過剰に蓄積されると、その神経に対する毒性のため激しい腹痛、嘔吐などを引き起こします。そのほかにも四肢や背中の痛み、幻覚など多彩な症状が現れます。また、日光過敏が現れる病型もあり、日光に当たることによって皮膚が赤く腫れたり、皮膚の痛みが生じたりすることがあります。
特定の遺伝子の変化を持っている人に発症しますが、遺伝子の変化だけで発症するわけではなく、特定の薬物を服用するなどのきっかけをもとに症状が現れることが一般的です。
根治治療はなく、対症療法もしくは発症の予防が行われます。急性肝性ポルフィリン症は特に女性に多く、妊娠可能年齢以降の発症が多くなっています。
原因
急性肝性ポルフィリン症は、それぞれの病型の原因となる遺伝子の変化を持つ人が、特定の薬剤を服用したり、投与されたりしたとき、また、激しい運動などによって発症することが一般的です。原因となる遺伝子の変化は、その子どもに遺伝する可能性もあります。遺伝の形式は病型別に以下のとおりです。
急性肝性ポルフィリン症の遺伝形式
常染色体優性(顕性)遺伝
両親のどちらかがこの遺伝子変異を持っていた場合、50%の確率で子どもに遺伝します。
- 急性間欠性ポルフィリン症
- 異型ポルフィリン症
- 遺伝性コプロポルフィリン症
常染色体劣性(潜性)遺伝
両親がこの遺伝子変異を持っていた場合、25%の確率で子どもに遺伝します。
- ALAD(δ-アミノレブリン酸脱水素酵素)欠損症性ポルフィリン症
症状
急性肝性ポルフィリン症の主な症状は、急激な腹痛などの発作です。
そのほか、嘔吐、便秘、下痢などの消化器症状や、四肢や背中の痛み、脱力、運動麻痺、四肢知覚障害、意識障害、けいれん、てんかん発作などの神経症状、不眠、不安、うつなどの精神症状を認めることもあります。また、病型によっては日光過敏の皮膚症状を認めます。
検査・診断
急性肝性ポルフィリン症では、ヘム前駆体が大量に蓄積されているかを調べるため、発作が起きたときに尿検査や血液検査が行われます。発作が起きていないときには尿検査、血液検査では分からないこともあり、糞便検査を行うこともあります。また最終的な診断には、どの酵素を作る遺伝子に異常があるかを確認するために遺伝子検査も行われます。
急性肝性ポルフィリン症の原因となる遺伝子の変化を持つ人は、特定の薬物を使用することで症状が現れる恐れもあるため早期診断が大切です。特に原因となる遺伝子変化を持つ家系の子どもには、思春期発来前に遺伝子検査を行うことが望ましいといわれています。事前に診断し、病気についての理解を深めておくことで早期に対策することができます。
治療
急性肝性ポルフィリン症の根本的な治療方法は確立されていません。腹痛などの症状が現れた場合には、ヘミンの投与が有効で、そのほかにブドウ糖の点滴や腹痛に対する鎮痛などの薬物療法が行われることが一般的です。また肝障害がみられる場合には、デオキシコール酸やコレスチラミンなどの投与も検討されます。
なお最近、ギボシランナトリウムという新しい治療薬も販売されています。ギボシランナトリウムは、従来の治療方法のように症状が現れてから使用するのではなく、急性肝性ポルフィリン症の発作そのものを抑えることが期待できる治療薬です。
予防
急性肝性ポルフィリン症の発作の誘因となるものとして、薬物(バルビツール系薬剤、サルファ剤、抗けいれん薬、経口避妊薬、エストロゲン製剤など)や、生理前・妊娠・出産などの女性ホルモンのアンバランス、喫煙、アルコール、感染症、ダイエット、栄養不全、ストレスなどがあります。これらを避けることも急性肝性ポルフィリン症の発作を避けるうえで有効な可能性があります。
さらに、急性肝性ポルフィリン症の発作はカロリーの摂取不足が原因で生じることがあり、日頃から十分な栄養摂取が大切です。また、使用薬剤に注意が必要となるため、使用可能薬剤の一覧などの確認をしておきましょう。
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