概要
日本住血吸虫症とは、寄生虫の一種である日本住血吸虫に感染することで引き起こされる病気です。成虫が静脈内に感染することで発症する病気を包括的に「住血吸虫症」と呼びますが、日本住血吸虫症はそのなかのひとつです。住血吸虫症には、いくつものタイプが知られており、それぞれ流行地域が異なります。
日本住血吸虫症を発症すると、肝硬変を主体とした障害を引き起こし、最悪の場合、亡くなることもあります。そのため早期診断と早期治療が重要です。日本住血吸虫は、宮入貝と呼ばれる巻貝の中に生息していますが、宮入貝への対策が取られて以降、日本における新規発症例はほとんどありません。
ただ、世界に目を向けると、中国揚子江流域、フィリピン、インドネシアなどで流行しています。また、日本においても宮入貝が完全に駆逐されたわけではないため、今後もその動向には注意を払う必要があります。
原因
日本住血吸虫症は、日本住血吸虫が人の体内に入り込むことが原因で発症します。
病原体は、宮入貝と呼ばれる巻貝の中に生息しており、継続的に水の中に排泄されます。淡水中で運動性を持つことが可能であり、人の皮膚を貫通して体内に侵入します。つまり、洗濯や遊泳など水に接触する際に感染します。
体内に侵入した日本住血吸虫は、最終的には門脈、腸管、肝臓内に寄生します。門脈や肝臓内に侵入すると、門脈圧亢進や肝硬変などといった病態が引き起こされ、食道静脈瘤や腹水などの症状が現れます。
症状
日本住血吸虫症では、体内に侵入してから4週間ほど経過してから、急性症状としての発熱や筋肉痛、咳、下痢、じんましんなどを認めます。時間経過と共に門脈系や肝臓内、腸管内に病原体の卵が産卵されることになり、慢性症状を呈するようになります。
門脈や肝臓系の症状としては、腹水による腹部膨満や呼吸困難、食道静脈瘤形成とそこからの出血などをみることがあります。また腸管壁に寄生することと関連して、腹痛や下痢などがみられます。
日本住血吸虫症では、虫卵が原因となって脳梗塞を呈することもあります。脳梗塞が生じる部位はさまざまであり、影響を受けた部位に応じて麻痺や感覚障害、言語障害などの症状が現れます。
検査・診断
日本住血吸虫症の診断は、原因となる病原体の虫卵を確認することからなされます。腸管壁に寄生することが多いため、検体採取の簡便さから便を用いての検査が行われることになります。
日本住血吸虫に感染すると、人の体内では病原体を排除するための免疫反応が生じます。これに関連して日本住血吸虫に対しての抗体が産生されるようになるため、これを検出することもあります。
また、日本住血吸虫症では肝硬変や食道静脈瘤をきたします。肝硬変に対しては、血液検査での肝機能評価や超音波・CTなどによる形態学的な評価を行うことになります。また、食道静脈瘤の評価のために、上部消化管内視鏡検査を行うことも重要です。
治療
日本住血吸虫症の治療には、プラジカンテルと呼ばれる薬剤を用います。投与は2〜3回程度行い、虫卵検査を行うことで治癒したかどうかを判定することになります。
淡水中に生息する日本住血吸虫は、人に接触することで皮膚から侵入し感染が成立します。そのため、物理的な接触を防ぐことが重要であり、手袋や長靴などを使用することが推奨されています。また、流行地域ではそもそも水と接触しないよう心がけることも必要です。飲料水としての水が日本住血吸虫に汚染されていると、同じく感染のリスクとなります。そのため、しっかりと煮沸消毒をした上で、もしくはフィルターをかけて生きた病原体をなくした上で水を飲むことが重要です。
こうした感染予防策が取れない状況であれば、不用意に水を摂取せずにミネラルウォーターを使用することが重要です。また、風呂の浴槽に水を入れる際も、しっかりと煮沸消毒した水を利用することが重要です。
日本の一部地域にて、宮入貝は今でも生息しています。海外から日本住血吸虫が持ち込まれ、宮入貝が虫体で汚染される可能性も否定できません。常日頃から水の摂取・接触には注意が必要です。
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