原因
なぜ甲状腺クリーゼを発症するかを含めた発症機序は不明です。
“甲状腺ホルモン”には、細胞の新陳代謝を促進させるはたらきがあり、酸素消費と基礎代謝を亢進させてエネルギー消費を増やします。具体的には、たんぱく質・核酸合成、コレステロールの分解・排泄を促進させ、熱産生の上昇(体温上昇)、消化管からの糖質の吸収促進と糖新生促進、心臓の収縮力・心拍数の上昇などをきたす作用が挙げられます。つまり、甲状腺ホルモンは“体内活動のアクセルを踏む”役割を果たしています。しかし、甲状腺クリーゼでは甲状腺ホルモンによる作用が過剰になり、複数の臓器が代償不全状態(ホルモン過剰に対応できない状態)に陥ってしまうため、全身にさまざまな症状を引き起こします。
甲状腺中毒症の経過中に、体に何らかの強いストレスが加わることが原因となります。甲状腺クリーゼを誘発するストレスとしては、甲状腺そのものに直接関連するものと、甲状腺とは直接関係のないものに分けられます。甲状腺に関連した誘因としては、甲状腺中毒症を未治療で放置すること、抗甲状腺薬を不規則に服用あるいは中止したりしてしまうこと、甲状腺の手術、甲状腺アイソトープ治療*、過度の甲状腺触診や細胞診、甲状腺ホルモン製剤の大量服用などがあります。
一方で、甲状腺に直接関係しない誘因としては、感染症がもっとも多く、ほかには甲状腺以外の手術、外傷、妊娠・分娩、副腎皮質機能不全、糖尿病ケトアシドーシス、ヨード造影剤投与、脳血管障害、肺血管塞栓症、虚血性心疾患、抜歯などがあり、激しい運動や強い精神的ストレスが加わることにより発症することもあります。
*甲状腺アイソトープ治療:放射性ヨウ素を内服することで、甲状腺に取り込まれたヨウ素からの放射線によって甲状腺細胞の数を減らす甲状腺中毒症の治療の1つ。
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