概要
直腸粘膜脱とは、肛門が開いた際に、普段は出てこないはずの直腸が、壁の一番上の層である粘膜層(部分脱出、粘膜脱)もしくは全層性に(完全脱出、直腸脱)肛門から外に出てきてしまう病気です。
粘膜脱は痛みがないため気づきにくく、排便習慣による過度のいきみなどで出たり入ったりを繰り返します。慢性化すると大腸がんや炎症性疾患などの大腸疾患と鑑別を要するような粘膜の変化をきたすことがあり、直腸孤立性潰瘍症候群や直腸粘膜脱症候群と呼ばれる病態を示すこともあります。
原因
以下の2つが主な原因です。
- いきんだりお腹に力がかかり腹圧が高くなることで物理的に押し出される
- 肛門管や直腸を支えている肛門周囲の筋肉や神経の異常
小児の場合は、先天性の原因としてヒルシュスプルング病や嚢胞性線維症などがありますが、そのほかにも反復する下痢や明らかな体重減少などが原因になり得ます。
成人の場合は、慢性便秘や排便時の過度ないきみの習慣、前立腺肥大、慢性的な咳が問題となるCOPDなど腹圧が激しくなる基礎疾患が挙げられます。また、神経や支持組織の異常として糖尿病性神経症や手術による神経障害、支持組織の異常をきたすエーラスダンロス症候群なども原因となります。
腹圧が高くなる、また骨盤底筋群の弱体化という意味では、妊娠も大きな危険因子となります。また、排便機能の異常をきたしていることが多い高齢者などでも問題になることがあります。
症状
肛門からの直腸の脱出が症状といえます。主に排便時などいきんだりする際に起こり、自然と元に戻ることが多いですが、重症になると立っただけで脱出するようになったり、手を使わないと元に戻らなくなることがあります。ただし、直腸は痛みを感じないため、脱出に伴う痛みなどの症状はありません。
繰り返し起こると便秘の原因となったり、失禁などの排便異常、脱出物が刺激となり肛門部掻痒感(皮膚を掻きたくなるような感じ、かゆみ)を引き起こしたりします。繰り返す脱出や摩擦によって直腸潰瘍がみられるという報告もあり、物理的な刺激から出血をきたすこともあります。
検査・診断
通常は、直腸が脱出しているところを視診で確認できれば診断がつきます。
粘膜脱の場合は放射線状の溝が確認できます。安静時での確認ができない場合は、いきんだ時やトイレで確認をおこなうこともあります。
そのほか、肛門鏡や内視鏡による潰瘍や粘膜の変化の確認、直腸内圧検査、排便困難の評価や脱出物を確認するための排便造影検査も有効です。また直腸粘膜脱は骨盤機能に問題が起きており、骨盤内の多臓器の脱出や異常も合併することがあるため、CTやMRIなど画像検査を用いて骨盤内病変の確認をおこなうこともあります。
治療
過度ないきみや便秘など排便習慣が原因となっている場合には、排便習慣の改善を目指すことが一番です。
粘膜脱の場合は、座薬や軟膏など保存的に治療して自然回復を待つことが多いですが、まれに余分な粘膜を除去する手術が行われることがあります。
直腸脱の場合も、過度な腹圧や排便回数を減らすなど基本的には保存的に治療がおこなわれます。しかし、十分な治療効果が得られない場合や重症な場合は、腹腔鏡を用いて直腸をお腹の中から固定し、腸管を部分切除する手術や肛門から余分な直腸を切除する手術がおこなわれます。また、脱出した腸管が元に戻らなくなり、はまり込んで血流が悪化し壊死をおこした場合は緊急手術になることもあります。
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