東京都医師会は、「真に効果のある健康寿命延伸策」として、タバコ対策とフレイル予防の推進に重点的に取り組んでいます。タバコ対策は、がんや呼吸器疾患など、あらゆる病気の予防に有効です。また、健康と要介護の中間の時期と捉えられるフレイルを予防することは、高齢になっても住み慣れた街で長く暮らしていくことに直結します。
たばこ対策とフレイル予防に対する東京都医師会の姿勢とお取り組みについて、東京都医師会理事の蓮沼剛先生にお話しいただきました。
東京都医師会は、増加する高齢者の健康寿命の延伸のため、次の2点を重点課題としています。
(1)あらゆる病気の予防に有効なタバコ対策
(2)要介護とならないためのフレイル予防
能動喫煙・受動喫煙に起因した疾病による医療費は膨大な額を占めているため、禁煙推進による疾病予防は個々人の健康増進だけでなく、国の医療費適正化のためにも有効です。ただし、日本の喫煙状況は世界に比して深刻なものであることから、タバコを取り巻く問題の解消には10年を超える長い期間を要するものと考えます。
現在日本で行われている健康施策の多くは、団塊の世代と呼ばれる方々が前期高齢者に達する2025年をひとつの目標としていますが、タバコ対策はより長期的な視点をもって行うべきであると考えています。
たばこは医薬品でも食品でもありません。そのため、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」や「食品衛生法」といった法律による規定を受けないという問題点があります。
現行の「たばこ事業法」では、包装箱やポスターなどの広告に成分を表示することが定められていますが、この法律が規定する成分とはニコチンとタールのみです。
このように膨大な種類の化学物質が生じる理由は、紙巻きたばこの製造過程でニコチンの吸収を促進するために種々の添加物を追加することや、香りを付けるためにフレーバーを添加するためです。
しかし、これら化学物質の量や名称は、表示義務がないという理由で消費者には知られておらず、私は「たばこ事業法」の規定には疑問を感じています。
最終的には「たばこ事業法」を廃止し、「たばこ規制法」を作ることが理想的ですが、現時点では残念なことに立法者のうちの大半が「たばこ事業法」容認派であり、これは将来的な目標といわざるを得ません。
数十年前の日本では、喫煙は特に成人男性にとって身近な習慣でした。そのため、現在も若い世代に比べ中高年層の喫煙率が高くなっています。
私自身も研修医時代にはタバコを吸っていましたが、呼吸器内科のグループに入ることになったというきっかけがあったため、禁煙することができました。
タバコには強い依存性があるため、長年喫煙習慣があった人が自力で禁煙することは容易ではありません。私のように必要に迫られて短期でたばこをやめられたという人は、およそ20人に1人程度なのではないかといわれています。
そのため、国民の喫煙率を大幅に減らすためには、タバコの値上げと保険診療で治療を受けられる禁煙外来の増設が不可欠であると考えます。
現在たばこは一箱400円程度で販売されていますが、禁煙推進を目的として値上げを行うならば、最低でも一箱1,000円、最終的には一箱2,000円に引き上げることが理想的です。一箱2,000円に値上げすることで、現在喫煙率の高い特定の所得層の大半は、たばこの習慣的な購入を断念すると見込まれるためです。
東京都医師会は、保険診療で治療を行える禁煙外来の増設にも精力的に取り組んでいます。かつて禁煙治療薬の主流であったニコチン貼付剤により、禁煙を希望する受診者の約4割が禁煙に成功するようになりました。一般の方はこの数字をみて「わずか4割」という印象を持たれるかもしれませんが、依存性の高いタバコをやめることは先述の通り容易なことではなく、当時、私たち呼吸器内科医は成功率4割という数値の高さに驚いたものです。
最新の飲み薬であるバレニクリン酒石酸塩の効果はニコチン貼付剤よりも高く、受診者のうち6割~7割の方は禁煙できるといわれています。(※服用から時間が経過すると効果は上記数値よりも低下します。)
ただし、バレニクリン酒石酸塩には意識消失等の意識障害という副作用があるため、職業運転手の患者さんなどには処方できません。喫煙率の高いタクシー業界などの禁煙希望者にも処方できる、より有効で安全性の高い治療薬の開発が待たれます。
超高齢社会の到来を間近に控え、東京都医師会はタバコ対策とともにフレイル予防にも重点的に取り組んでいます。
フレイル予防の目的は、高齢者の方が要介護となるリスクを減らし、住み慣れた街で健康的に長く暮らし続けていただくことです。
フレイルの定義や診断基準については世界でも議論がなされていますが、2014年に日本でこの言葉を提唱した日本老年医学会は、
「高齢者が筋力や活動が低下している状態(虚弱)」
をフレイルと呼ぶと述べています。
東京都福祉保健局と東京都医師会が作成したパンフレットでは、フレイルの例として次のような状態を挙げています。
(参考:「フレイル予防で健康長寿」外部サイトに移動します)
このような状態が進むと、生活範囲が狭まり、心身の活動性が低下し、やがて介護が必要な状態へと進行してしまいます。そのため、フレイルは健康と要介護の中間の時期であると位置づけることができます。
しばしばフレイルとの区別が問われるサルコペニア(加齢に伴う筋肉量の減少)は、フレイルの要素のひとつである「身体の虚弱」に該当します。フレイルには、このほかに「こころ/認知の虚弱」「社会性の虚弱」という要素もあり、多面性や可逆性があることを特徴としています。
高齢の方やそのご家族には、「筋肉を作る肉類を積極的に食べてください」というメッセージをお伝えしたいです。
中年期の方に対する生活指導の際には、メタボリックシンドロームを予防するために、体重を減らすこと(BMIを減らすこと)、肉類や脂質の多い食事は控えることが重点的に指導されます。
しかし、高齢期のBMIに関してはやや高い方のほうが低い方に比べて総死亡率が低く、栄養状態もよいことがわかっています。
つまり、メタボリックシンドローム対策に気を配っていた中年期の食生活を高齢期に入っても続けてしまうと、低栄養やフレイルを招く可能性もあるというわけです。
このような理由から、私は健康な高齢の方に対して、肉や魚、卵や大豆製品などを積極的に摂るよう指導しています。
糖尿病などの持病がある場合は考慮が必要です。
また、食事の際には野菜や海藻、汁物、炭水化物などを組み合わせ、様々な食材をバランス良く摂ることも重要です。
フレイル予防に取り組んでいるのは、私たち医師のみではありません。東京都医師会はフレイル予防を行うにあたり「顔のみえる多職種連携」を重視しており、歯科医師や薬剤師、看護師、栄養士などがチームとして地域住民の健康を支えていくための基盤づくりにも力を入れています。
フレイル予防という具体的な目標に向かって必要な多職種を結集させることは、地域包括ケアの実践的スタートにも繋がるものと考えています。
公益社団法人東京都医師会 理事、セントラルクリニック 院長
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