症状
糖尿病網膜症の主な症状は視力低下です。
しかし、初期の段階では症状がなく、明らかに高度な視力低下が起こるのは進行した増殖期になって硝子体出血や網膜剥離を生じた場合です。また、それより前に網膜の中心部である黄斑部に浮腫が起きると、軽度から中等度の視力低下が起こったり、歪視***が現れたりします。さらに重症な血管新生緑内障という状態になり眼圧が極端に上がると、眼痛を起こすこともあります。
糖尿病網膜症の重症の程度を示すにはいくつかの分類がありますが、ここではDavis分類という分類を用いて、病期ごとの症状について説明します。
Davis分類では、糖尿病網膜症を単純糖尿病網膜症(単純網膜症)、増殖前糖尿病網膜症(増殖前網膜症)、増殖糖尿病網膜症(増殖網膜症)の3つに分けています。病期は必ず単純糖尿病網膜症(単純網膜症)、増殖前糖尿病網膜症(増殖前網膜症)、増殖糖尿病網膜症(増殖網膜症)の順に進み、多くは年単位で進行します。進行の速度は血糖コントロールの程度に関係するため、人によりさまざまです。
また、それ以外に視力に関わる病気の状態としては、網膜の中心部にむくみが起こる糖尿病黄斑浮腫の有無が重要です。これは糖尿病網膜症のどの病期でも起こりうるものですが、重症になるほど発症する頻度は高くなります。糖尿病黄斑浮腫は、起こる場所や程度により症状はさまざまです。
***歪視……ものが歪んで見えること
単純糖尿病網膜症(単純網膜症)
単純糖尿病網膜症は、糖尿病網膜症の中でも初期の段階で、主に網膜の血管壁がいたむことによって起こります。
眼底検査を行うと、毛細血管が瘤状に膨れて毛細血管瘤となり、出血のように見える点状出血や、実際に血液が血管から漏れ出して点状よりやや大きくなった斑状・しみ状出血、さらに網膜の血管からの水の漏れ出しによって起きる網膜の白斑(硬性白斑)などがみられます。
しかし、この時期のほとんどは症状がなく、網膜に異常が起きていることに気づかない場合も多くあります。また、この病期でも稀に黄斑浮腫を合併することがあり、その場合は視力が低下したり物がゆがんで見えたりします。
増殖前糖尿病網膜症(増殖前網膜症)
増殖前糖尿病網膜症は、単純糖尿病網膜症がより進行した状態です。
糖尿病では血管壁がいたむだけでなく、血液が細い血管の中で固まりやすくなるため、網膜の血管が閉塞し十分な酸素が行き渡らなくなります。そのため、酸欠を起こした網膜からサイトカイン(主にVEGF:血管内皮増殖因子)という因子がでて、眼の中に新しい血管(新生血管)を作る準備が始まります。通常は網膜が酸欠を起こしただけでは視力には影響がないため、ほとんどが無症状で経過します。
また、黄斑浮腫が起きた場合は単純糖尿病網膜症と同様に、視力低下やゆがみなどの症状が起こります。
増殖糖尿病網膜症(増殖網膜症)
増殖糖尿病網膜症は、糖尿病網膜症の中でも重症な状態です。
この時期になると、増殖前糖尿病網膜症の時期の準備期間を経て、“新生血管”と呼ばれる異常な血管や増殖組織(膜)が目の中に作られます。これらが作られただけでは症状は現れませんが、新生血管は切れると硝子体出血を起こし急激に視力が低下します。また増殖膜が網膜を引っ張ることで網膜が眼球の壁からはがれるため、網膜剥離を引き起こすこともあります。
硝子体出血は出血量や状態により、黒いモノや影、ゴミのようなものが視野に映る飛蚊症の症状を呈することもあれば、視野全体がかすんで見えなくなるほどの高度な視力低下を起こすこともあります。さらに、新生血管が虹彩や隅角に生じると眼圧が上がり、血管新生緑内障という状態になった結果、強い眼の痛みを起こします。
この病期では、糖尿病黄斑浮腫を合併することも多くなり、硝子体出血や網膜剥離で視力が低下するだけでなく、黄斑浮腫で視力が低下することも多くなります。
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