概要
糖尿病性足病変とは、糖尿病に伴う神経障害や末梢動脈疾患(足の血流が悪くなる病気)を背景として生じる、足の感染、潰瘍(皮膚がえぐれた傷で治りにくい状態)、深部組織の破壊の総称です。糖尿病では、神経障害(神経のはたらきが障害され、しびれや感覚が鈍くなる病気)によって足の傷に気付きにくくなり、末梢動脈疾患によって傷が治りにくくなるため、足病変を発症しやすくなります。糖尿病の患者さんでは、足の潰瘍を予防し、発症した場合にも重症化させないことが重要です。足の健康を守ることは、歩行機能を維持するだけでなく、下肢切断を回避し、生命予後や生活の質(QOL)の維持にもつながります。そのため、患者さん自身だけでなく家族も含めた日々のフットケアと、足の異常に気付いた際の早期受診・早期治療が極めて重要です。
種類
糖尿病性足病変にはさまざまな分類があります。日本では、足潰瘍の原因や状態を評価するために「神戸分類」が用いられることがあります。また、組織欠損(傷の大きさ)・虚血(血流障害)・感染の3つの要素から重症度を評価する「WIfI(ワイファイ)分類」が治療方針を検討する場合の参考にされることもあります。
神戸分類
足潰瘍の要因と傷の状態に基づき、4つの型に分類しています。
- タイプ1:末梢神経障害(足の感覚が鈍くなり、しびれなどが生じる病気)によって足が変形し、タコや靴擦れが原因となって生じる潰瘍です。
- タイプ2:下肢閉塞性動脈疾患(足の血管の動脈硬化により血管が狭くなったり詰まったりする病気)によって足の血流が悪くなり生じる潰瘍です。進行すると、包括的高度慢性下肢虚血(虚血状態で下肢の潰瘍や壊疽(組織の死滅)が持続する状態)と呼ばれる状態になることがあります。
- タイプ3:末梢神経障害が原因で潰瘍が生じ、潰瘍に感染を起こし軟部組織感染症(皮膚やその下の脂肪・筋肉で起こる感染症)や骨髄炎(骨の内部に起きた感染症)に至った潰瘍です。
- タイプ4:血流障害に感染が加わることで急速に悪化した潰瘍です。
原因
糖尿病性足病変は、末梢動脈疾患による血流障害、神経障害による足の変形や感覚鈍麻、易感染性(免疫力が低下し感染症にかかりやすくなること)を背景に、靴擦れや外傷などの小さな傷をきっかけとして発症します。
血流障害
末梢動脈疾患(血流障害)では足の血流が悪くなり、傷を治すために必要な酸素や栄養が届きにくいため、傷が治りにくくなり、潰瘍や感染が重症化しやすくなります。
神経障害
神経障害によって足が変形すると、足の裏の一部に体重が集中し、タコや潰瘍ができやすくなります。また、自律神経の障害により汗が減少し、皮膚が乾燥しやすくなります。さらに神経障害により痛みや熱さを察知する感覚が低下し(感覚鈍麻)、小さな傷や靴擦れ、火傷などに気付きにくくなります。これは、病気の発見を遅らせる要因になります。
易感染性
血糖値の高い状態が続いている糖尿病の患者さんは、免疫にかかわる細胞のはたらきが低下しており、感染症にかかりやすく、また重症化しやすい状態になっています。
足の傷
上記のような傷が治りにくく、さらに傷に気付きにくい状態で、足に小さな傷や靴擦れ、深爪、火傷(電気ヒーターやカイロなどによる低温やけどを含む)などができると、それがきっかけで潰瘍が形成されることになり、ときに感染を起こして壊疽に至ります。
症状
糖尿病性足病変で起こる症状として、始めは以下のような、神経障害に伴う軽微な変化が足に起こります。
- 足の感覚が鈍い
- 足や爪が変形する
- 足にタコができる
- 靴擦れが治りにくい
- 皮膚が異常に乾燥する
このような足の変化があっても、患者さんは神経障害により感覚が鈍くなり痛みを感じにくくなっていることから、進行するまで気付かない場合があるため注意が必要です。
症状が進行するきっかけは、足にできる傷です。傷ができた場所に潰瘍が形成され、そこに細菌感染、あるいは末梢動脈疾患による虚血(細胞が必要とする酸素が血液内に届いていない状態)が起こると重症化し、壊疽と呼ばれる状態に至ります。
検査・診断
糖尿病性足病変を早期に発見し重症化を予防するために、日々、患者さん自身が足の状態を観察すること(セルフチェック)に加え、医療機関で少なくとも年に1回の定期的な足の診察や検査を行うことが重要です。特に、足の変形がある、潰瘍ができたことがある、神経障害や下肢閉塞性動脈疾患があるといった場合には、より頻度の高い検査が必要とされます。
セルフチェックと視診
毎日、鏡を使って足裏や指の間やかかと、爪などをくまなく観察します。目視はもちろんのこと、手で実際に触ってみると小さな変化にも気付きやすいでしょう。また、自分で見えにくい場所はほかの方に見てもらったり、いつもと違う行動(長時間歩いた、運動したなど)をした場合には念入りにチェックしたりすることも大切です。医療機関では、医師や看護師が皮膚の状態、爪の変形・変色・腫れなどを詳しく確認し、必要に応じて検査を行います。
専門的な検査
専門的な検査としては、必要に応じて以下のような検査が行われます。
- 神経障害を調べる検査:10gモノフィラメント検査や振動覚検査を行うことがあります。
- プローブ検査(PTB):潰瘍の深さを確認し、骨髄炎の有無を調べます。
- 画像診断:骨髄炎などの感染がある場合には、その状態を正確に把握するために単純X線やMRIなどの検査を行います。
- 血流検査:血行障害の程度を把握して予後予測や治療判断を行うために、ABI(下肢と上腕の血圧比を測る検査)やSPP(皮膚下の微小な血管の血流を測る検査)などを行う場合があります。
治療
糖尿病性足病変の治療は、血糖コントロール、デブリードマン(壊死した組織を除去して傷口をきれいにする治療)、感染症の治療、血行再建術(狭くなったり閉じたりした血管の血流を取り戻す治療)、医療用装具の作製、リハビリテーション、栄養指導など多岐にわたります。そのため、多職種による集学的アプローチ(チーム医療)で治療に臨みます。
血糖コントロール
目標となる血糖値を設定したうえで食事療法や運動療法、インスリンの投与などを行い、血糖コントロールを試みます。高血糖の状態が続くと、傷の治りが遅くなったり手術後の感染症のリスクになったりするため、血糖コントロールは非常に重要です。
デブリードマン
壊死した組織は細菌が増殖する原因となり傷の治癒を妨げるため、壊死した組織などを取り除き、傷口をきれいにする「デブリードマン」という治療を行います。外科的に壊死組織を取り除く方法を中心に、創部の状態に応じた方法が選択されます。
感染症の治療
潰瘍に感染症が合併すると重症化するリスクがあり、素早い診断と治療を要します。そのため、骨髄炎などの細菌感染があると分かった場合には、感染の程度に応じて抗菌薬による治療を開始し、必要に応じて細菌培養の結果を参考に薬剤を調整します。また壊死した部分を除去します。
血行再建術
重症の下肢虚血(血流障害)を合併している場合には、血流の改善を目的として、カテーテルを用いた血管内治療やバイパス手術などの「血行再建術」を検討します。
免荷療法
足潰瘍の既往、シャルコー関節(糖尿病性神経障害などによる、大きな変形を生じた関節症)、重度の足の変形がある場合、潰瘍の部分に体重がかからないように特殊な靴や装具を用いて行う「免荷療法」を行います。具体的には、松葉杖、車椅子、ギプス、免荷用サンダル、医療用フェルトなどを用いて潰瘍部への負担を減らします。
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