糖尿病などの基礎疾患がある患者さんは、傷が慢性化しやすくなります。「慢性」の逆である「急性」の傷とは、例えば「包丁で手を切ったが適切な処置をして治った」というケースのことを意味します。それに対し、今回の記事で説明する慢性化とは、傷がある状態がずっと続いてしまうことを言います。「足の慢性的な傷の治療」を専門とされる日本赤十字社医療センター・創傷ケアセンター長の日吉徹先生にお話をお伺いしました。
糖尿病や閉塞性動脈硬化症などの足の血流が悪くなる基礎疾患を持っている患者さんは、足に傷ができやすく、なおかつ慢性化しやすくなります。足は心臓から遠く、血流が悪くなりやすいことがその原因です。傷がなかなか治らない状態で放置してしまうと、壊死が起こり最終的に足を切断しなければならなくなることもあります。創傷ケアセンターではそのような傷を適切にケアし、足を切らない治療を目指しています。
足の傷が慢性化しやすくなる原因は、主に4つあります。
1.糖尿病の神経障害
糖尿病の神経障害が起きると痛みを感じにくくなるため、傷ができても気付かず重症化してしまいます。
2.閉塞性動脈硬化症
足の血管が詰まり、血流が悪くなり、傷が治りにくくなるケースです。動脈硬化の症状がある場合、それが原因となることがあります。
3.糖尿病と閉塞性動脈硬化症の合わさったもの
足に傷が出来て受診される患者さんの7割は糖尿病ですが、原因が糖尿病のみではなく他の症状と合わさっていることも多くあります。特に、糖尿病と閉塞性動脈硬化症の併発は多くみられます。
4.下肢静脈瘤
静脈瘤や静脈血栓ができ、むくみができることで、皮膚症状がでます。肥満の場合、それが原因となることがあります。
注意すべき初期症状としては、「足の色が悪い、痺れる」などがあります。ただし、糖尿病の患者さんの場合、神経障害があるため前兆としての痛みなどがあまりみられないことがあります。その場合には角化(たこやうおのめなど)が前兆となりますが、これも気付かずに放置してしまうことがあります。とにかく、しっかりとご自身の足を見ることが大切です。
また、「間欠性跛行(かんけつせいはこう)」という病気があります。これは、50メートルほど歩くと痛みやしびれを感じて立ち止まらなければならなくなり、休息することで再び歩き出せるようになる、ということを繰り返す病気です。この原因は、足の血管の詰まり(動脈硬化)にあります。糖尿病の患者さんはこれらの症状に注意しつつ、傷ができたらなるべく早く受診する必要があります。
記事1:足を切断しないために―「慢性的な傷」って? 注意点は?
記事2:「足の慢性的な傷」の検査―どんな種類があるの?
記事3:「足の慢性的な傷」の治療―治療法と再発の予防
日本赤十字医療センター 糖尿病内分泌内科 部長
日本赤十字医療センター 糖尿病内分泌内科 部長
日本内科学会 総合内科専門医日本糖尿病学会 糖尿病専門医日本内分泌学会 内分泌代謝科専門医・内分泌代謝科指導医
内分泌・糖尿病科を専門とする一方で、日本で数少ない創傷ケアセンターの一つでセンター長を務める。創傷ケアセンターでは傷が3カ月以上治らない慢性的な状態で、特に足に傷を負った患者さんを対象にしている。しかし、同様の医療機関はまだ広くは普及しておらず、形成外科、皮膚科、循環器科など各診療科で個別に診療しており、横断的に診療できる施設が少ないのも現状である。放っておくと深刻な状態になる足の傷に対して高い専門性を持ち、患者さんの足をなるべく切断しないような治療を行っている。
日吉 徹 先生の所属医療機関
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