概要
糖質代謝異常症とは、糖質の分解に関わる酵素などに異常があり、その代謝過程が障害されることでさまざまな症状が生じる病気の総称です。
糖質は単糖類、二糖類、多糖類に分類され、単糖類にはブドウ糖(グルコース)、果糖(フルクトース)、ガラクトースなどがあります。二糖類には、一般に砂糖と呼ばれるショ糖を主成分とした甘味料のほか、乳糖、麦芽糖などがあります。ショ糖は加水分解されるとブドウ糖と果糖になり、乳糖は母乳・人工乳・牛乳に含まれ、分解されるとブドウ糖とガラクトースになります。また、麦芽糖はデンプンに麦芽を作用させることによって得られる糖質で、分解されるとブドウ糖になります。多糖類の代表としてはデンプンとグリコーゲン(糖原)があります。
糖質は体内で吸収・分解されたのち、エネルギー源や体の細胞の材料として利用され、余剰のブドウ糖はグリコーゲンに変換されて肝臓や筋肉に蓄えられます。エネルギーが不足した時には、このグリコーゲンがブドウ糖に分解され、体内で利用されます。代表的な糖質代謝異常症には、糖原病、ガラクトース血症、遺伝性フルクトース不耐症などがあります。
原因
酵素を作る遺伝子に問題が生じ、糖質の代謝に必要な酵素が正常に機能しなくなることが原因です。両親からそれぞれ1つずつ遺伝子を引き継ぎますが、両方の遺伝子に異常が生じた場合に発症します。異常が生じる酵素の種類は病気によって異なります。
糖原病
グリコーゲンを合成する酵素の欠損によって発症する0型や、グリコーゲンをブドウ糖に分解するために必要な酵素の異常により発症するI型からIX型まで、欠損する酵素の種類により複数の病型に分類されています。代表的な病気の1つである糖原病Ia型はグルコース−6−ホスファターゼと呼ばれる酵素の機能低下によって発症します。
ガラクトース血症
ガラクトースの代謝に関わる酵素は4種類あり、異常のある酵素の種類によりI型からIV型に分類されています。最も重症なI型はガラクトース−1-リン酸ウリジルトランスフェラーゼと呼ばれる酵素の機能低下により発症します。
遺伝性フルクトース不耐症
フルクトースは果物やショ糖などに含まれる糖質です。遺伝性フルクトース不耐症はフルクトースの分解に必要な酵素(フルクトース−1,6−二リン酸アルドラーゼ)の欠損により発症します。
症状
糖原病
グリコーゲンは主に肝臓と筋肉に存在するため、糖原病は肝型(I型、IV型、VI型、IX型)と筋型(II型、V型、VII型)、および肝臓と筋肉の両方に障害が生じる肝筋型(III型、VIII型、IX型)に分類されます。肝型ではグリコーゲンからブドウ糖への分解が障害されるため、飢餓時間が長くなると低血糖を起こします。分解されないグリコーゲンが肝臓に蓄積されるため、肝臓が腫れて大きくなり(肝腫大)、それに伴って腹部も膨張して大きくなります。筋型では筋肉においてブドウ糖が産生されないためエネルギー不足になり、筋力低下や運動時の筋肉痛がみられます。II型では心臓の筋肉にも異常が生じて、心臓が大きくなり(心肥大)、心臓の働きが低下する心不全の状態になります。
ガラクトース血症
I型では新生児期早期から不機嫌、哺乳不良、下痢、黄疸、体重増加不良などの症状が出現します。II型とIV型では白内障が主な症状で、全身症状はありません。III型は血液中のガラクトース値が一時的に高くなるだけで症状は出現しません。
遺伝性フルクトース不耐症
フルクトースやショ糖を摂取すると血糖が低下して発汗や錯乱、さらにはけいれん発作や昏睡を引き起こします。フルクトースの摂取を続けると肝臓や腎臓の機能が低下して黄疸やけいれんを生じ、重症化して命に関わることもあります。
検査・診断
糖原病
肝型糖原病では肝腫大の精査の結果、肝機能異常、空腹時の低血糖などからその可能性が示唆され、負荷テストや遺伝子検査により診断と病型が確定されます。筋型では筋力低下や運動時の筋肉痛などの精査により、血清クレアチンキナーゼやアルドラーゼの高値からその可能性が示唆され、筋生検や遺伝子検査により診断と病型が確定されます。
ガラクトース血症
ガラクトース血症は新生児マススクリーニングの対象疾患になっているためガラクトース高値により精査の対象となり、確定診断と病型診断は遺伝子検査によってなされます。
遺伝性フルクトース不耐症
食後の低血糖からこの病気が疑われ、肝臓の組織を用いた酵素活性測定で確定診断されますが、近年では遺伝子検査により診断が可能になっています。
治療
糖原病
糖原病の患者では血糖値を維持することが重要です。そのため糖質の多い食事を頻回に与えることや、未調理のトウモロコシのデンプン(コーンスターチ)を使用した食事にすること、乳糖の代わりにデキストリン*を含む特殊なミルクを用いるなどの食事療法が行われます。コーンスターチやデキストリンは徐々にブドウ糖に分解されるため、血糖維持に有効です。
ガラクトース血症
乳糖を含む母乳や人工乳の摂取を中止し、乳糖を除去した特殊なミルクを与えます。重症な場合は離乳期以降も牛乳、チーズ、ヨーグルトなどの乳製品の摂取を避ける必要があります。
遺伝性フルクトース不耐症
ショ糖やフルクトースの摂取を制限する食事療法を行います。これらの制限により野菜や果物の摂取量が減少するため、成長に必要なビタミン類が不足しないように食事内容を調整します。
*デキストリン:デンプンまたはグリコーゲンの分解で得られる低分子の炭水化物。
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