スマートフォンやパソコンの普及に伴い、現代人の多くは日常的に目を酷使しています。視覚情報に頼ることの多い生活の中、目の健康を保つ取り組みを進めている方はどのくらいいらっしゃるでしょうか。目の病気の一部は、自覚症状が出ないまま進行します。そのため目の健康を保つためには、検診を活用して目を定期的に確認することが大事です。近年では、眼底を立体的に撮影するOCT検査がさまざまな施設で導入されてきており、緑内障の早期発見に役立っているといいます。
本記事では、埼玉医科大学病院 健康管理センターセンター長の足立雅樹先生、同センター臨床検査技師の有田信和さん、同センター非常勤の関口浩子先生のお三方を交え、目の健康について実際の眼科検診の流れを踏まえてお話しいただきました。
目の健康についてお話しするためには、まず、「健康」とはどのような状態かを先にお知りいただく必要があります。
「健康」とは、心身ともに全身状態が良好なことです。どこか1か所だけが健康でも、ほかの部分が健康ではない場合、「健康である」ということはできません。たとえば目が健康であっても、指が1本でも動かなかったり、足の指が麻痺していたりすれば「健康」とはいえません。つまり、目の健康も、あくまで全身の健康をみるひとつの要素という前提があります。
ただし、目の健康は、全身の健康を維持するための重要な尺度とも考えられています。
人の体は20代から30代、30代から40代へと、加齢に伴い少しずつ変化していきます。加齢変化の代表的徴候として注意しておきたいのは、動脈硬化などの循環器系の変化です。この動脈硬化の徴候をいち早く発見する手段として、心電図やCT、心臓カテーテル検査はもちろん、後述する眼底検査が有用であるとされています。
眼底とは、目の中の奥側に位置する網膜・脈絡膜・視神経乳頭・中心窩などの総称です。眼底には、直径がミリ単位以下と極めて細い末梢血管が張り巡らされています。眼底検査では目の奥の微細な血管を直接観察できるため、エコー検査などではみつけられない微細な血管の狭窄や動脈硬化を発見できます。
目の病気には、自覚症状が出やすいものと出にくいものがあり、それらを区別する場合、それぞれの代表的な目の病気は下記の通りです。
病気に気づかないまま目を放置し治療が遅れると、病気の種類によっては後遺症が残る恐れがあります。
たとえば網膜静脈分枝閉塞症の場合、浮腫が引いた後も見えづらさが残ります。糖尿病網膜症を自覚症状が出る(かなり進行した状態)まで放置すると、見えづらさに加えて全身状態の悪化も予想されます。また、緑内障は不可逆的変化が起こる病気のため、一度視野欠損した部分が元に戻らなくなってしまいます。
こうした後遺症を残さないためにも、症状の現れないころから定期的に検診を受けることが大事です。糖尿病と診断を受けた方は、自覚症状がなくても定期的に眼底検査を受ける必要があります。
一般的には年齢とともに目が見えづらくなりますが、先にご説明した目の病気は高齢の方だけがかかるものではありません。若い時期に緑内障や網膜静脈分枝閉塞症などを発症する方もおられます。日本緑内障学会で行った大規模な調査では、40歳以上の日本人の20人に1人(5.0%)は緑内障であることが明らかにされました。
緑内障による視野障害は、自覚されないまま徐々に進行するため、視野の異常に気付いたときには既に末期まで進行していることもあります。
2019年1月時点で、失われた視野を元の状態に戻すような治療法はありません。治療は進行を抑制する目的で行われます。そのため、早期に発見して早期に治療を開始し、治療を中断することなく続けることが大切です。
早期発見・早期治療のための具体的な対応策のひとつが、これからお話しする眼科検診です。
市区町村、学校、企業の定期健診などで眼科検診を受ける場合、まずは基本検査項目である視力検査(色覚検査や眼底検査が含まれることもある)を行います。人間ドックでは、これに眼圧検査、眼底検査(両眼)が基本項目で加わります。このほか、オプション検査で眼底三次元画像解析(通称OCT〈Optical coherence tomography:光干渉断層計〉検査)や簡易視野検査などを追加する場合もあります。
近年では、より正確に網膜や視神経の状態を確認できるOCT検査を導入する施設が増えてきました。
眼底検査とOCT検査の最大の違いは情報量にあります。眼底検査は眼底を平面的に写真撮影し、網膜表面の情報を得る検査法です。これに対してOCT検査は眼底を断層で撮影するため、網膜表層だけではなく、断面や厚み、窪みも映し出します。このためOCT検査は、加齢黄斑変性や緑内障の発見に重要な視神経乳頭や黄斑部周辺の変化を、より精密にとらえることができます。
眼科検診の内容は細かい検査を含めると多様で、ひとつの検査のみで完結することはありません。あらゆる検査の結果から、総合的に目の状態を判断します。ただし、当院の場合は2016年9月にOCT検査を導入してから、目の病気、特に緑内障の早期発見がしやすくなったと感じています。
当院で眼科検診を受けられる患者さんは60~70代と、人間ドック受診平均年齢である50代よりも比較的高齢の方が多いです※。眼底検査は瞳孔を開いた状態で撮影する必要があるため、暗室で一定時間待機してから撮影を行います。しかし、65歳以上の高齢の方は加齢によって瞳孔の反応が鈍くなっており、暗室でも瞳孔が十分開かないことがあります。瞳孔が開ききっていない状態では、眼底の正確な診断が難しくなります。
OCT検査では、近赤外線を利用することにより、部屋を暗くせずに目の組織の断面像を撮影します。CT検査などの際に用いる造影剤もOCT検査には必要ないので、高齢の方でも低侵襲かつ鮮明に網膜を観察することができます。その結果、これまで通常の眼底検査ではみつけられなかった発症初期の緑内障の可能性を早期に抽出できるようになったのではないかと推定しています。
※日本人間ドック学会の2015年の調査によれば、60歳以上の受診者が年々増加しており、全国的に人間ドック受診者の高齢化が進んでいることが示唆されています。
受診者は遮光性の布に覆われた顎台に顎を乗せ、正面のレンズ(画面)を見ます。検査開始後、画面上に緑色の×印が浮き出るので、臨床検査技師の指示に従って適宜目を見開いたり、軽くつぶったりしながら×印を見つめ続けます。
OCT検査は通常片目ずつ行い、何度でも繰り返し撮影が可能です。
OCT検査の導入により、最も貢献できていると感じるのは緑内障の発見です。実際に当院で、眼底検査では発見できなかった異常所見がOCT検査でみつかり、緑内障の早期診断につながったという実績があります。
埼玉医科大学病院健康管理センターでは、2016年9月1日から2017年8月31日にかけて眼底検査とOCT検査の両方を受診し、OCT検査で要精査となった受診者について、眼底検査所見とOCT検査所見を比較検討しました。
まず、眼底検査による所見では、要精査者全体のおよそ2割が網膜神経線維束部分欠損という所見になりました。一方、OCT検査では、要精査者全体のおよそ6割が網膜神経線維束部分欠損という所見になりました。網膜神経線維層部分欠損の所見がみられた方々に眼科を受診していただいたところ、7割弱の方が緑内障(または緑内障疑い)という受診結果に至りました。つまり、OCT検査を用いることで、これまで眼底検査のみで捉えられなかった網膜神経線維束部分欠損の所見をより多く発見できるようになり、緑内障の治療につながったということです。
網膜神経線維束部分欠損は、緑内障の疑いが強く考えられる所見のひとつです。OCT検査を行うことで、眼底検査では見落とされていた網膜神経線維束部分欠損が発見され、緑内障の診断・治療につながったと考えることができます。
当院におけるOCT検査単体の費用は3240円(2018年11月現在)で、基本項目に追加して実施する形になります※。
※費用は施設によって異なる場合があります。
OCT検査では、目に異常が起こっているかどうかを推定することはできますが、視神経乳頭や網膜神経線維層の厚みなどには個人差があるため、OCT検査の結果だけで病気の診断はできません。実際に、OCT検査で網膜神経線維層部分欠損など緑内障の疑いが強い所見がみられても、精密検査の結果、緑内障ではなかったというケースもあります。
OCT検査は目の病気の早期発見に役立つ方法ですが、あくまで眼底の変化を観察するための補助的検査であり、OCT検査で緑内障や目の病気のすべてがわかるわけではないことを予め知っておいていただきたいと考えます。
一説には、視覚情報はすべての知覚情報の約8割を占めるともいわれています。また、目には代替機能がありません。目の健康を守ることは、生活の質(QOL)を保ち、全身の健康を守ることにもつながります。目の健康に意識を向け、異常を感じたときはもちろん、異常がない方も積極的に眼科検診や眼底検査を受けていただくことをおすすめします。
OCT検査は造影剤や散瞳剤などの作業が不要で所要時間も短く、患者さんに負担がかからないため、年齢や性別を問わず幅広い方が気軽に受けられることが利点です。また、自覚症状が出ないまま進行する緑内障にかかっていた場合、OCT検査でその徴候をいち早く発見できる可能性があります。ですから、多くの方に一度OCT検査を受けていただきたいと考えます。
また、要精査となった場合は必ず眼科を受診してください。前項でご紹介したように、OCT検査の所見が、緑内障などの重大な病気の手掛かりになることがあります。「問題なく見えているのだから眼科に行く必要はないだろう」と自己判断せず、きちんと専門家に相談することが重要です。
前項のように、眼科検診の結果、精密検査が必要となって眼科を受診したものの特に病気がみつからなかった場合でも、できる限り定期受診(1年に1回程度が目安)を継続するようにしてください。眼科で異常なしと診断されたのだからこの先も大丈夫だろうと思い、それ以降眼科に行かなくなってしまう方が多いのですが、現時点では異常がなくても、時間の経過とともに病気を発症するリスクは否定できないからです。
眼科検診やOCT検査で自分の目の健康状態を知ることが、ひいては全身の健康を意識するきっかけになっていただければ、我々にとっても幸いなことです。
「緑内障」を登録すると、新着の情報をお知らせします
本ページにおける情報は、医師本人の申告に基づいて掲載しております。内容については弊社においても可能な限り配慮しておりますが、最新の情報については公開情報等をご確認いただき、またご自身でお問い合わせいただきますようお願いします。
なお、弊社はいかなる場合にも、掲載された情報の誤り、不正確等にもとづく損害に対して責任を負わないものとします。
「受診について相談する」とは?
まずはメディカルノートよりお客様にご連絡します。
現時点での診断・治療状況についてヒアリングし、ご希望の医師/病院の受診が可能かご回答いたします。