概要
脳脊髄液減少症とは、脳や脊髄を満たす脳脊髄液が何らかの理由で減少して頭痛や首の痛み、めまいなどの症状を引き起こす病気です。
脳や脊髄は硬膜やくも膜と呼ばれる膜に覆われており、その中を脳脊髄液が満たしています。何らかの原因で硬膜やくも膜に異常が生じると、脳脊髄液が外へ漏出して減少するため、脳神経が刺激されてさまざまな症状が現れると考えられています。
医学的にまだ解明されていない部分も多いものの、2016年には代表的な治療法の1つであるブラッドパッチ療法が保険適用になるなど、少しずつ治療方法が確立しています。
種類
脳脊髄液減少症には大きく分けて2つの種類があり、両者は密接に関わっています。
脳脊髄液漏出症
硬膜やくも膜に穴が開き、そこから脳脊髄液が漏れ出てしまうことで頭痛などの症状が現れます。
低髄液圧症
何らかの理由で硬膜内の脳脊髄液の圧が低下し、頭痛などの症状が現れます。多くの症例では脳脊髄液の吸収が過剰となり、髄液が減少することで低髄液圧症を発症します。
原因
脳脊髄液減少症は原因が不明な場合もありますが、外傷や、病気の治療や検査などが原因の場合もあります。
外傷性
外傷性の主な原因としては交通事故やスポーツによるけが、転倒、打撲、出産などが挙げられます。特に頭や背中、腰などに強い衝撃が生じた際は注意が必要です。
医原性
脊椎に関する手術をしたときや、検査や薬剤の注入のために腰の髄液腔に針を刺したとき(腰椎穿刺)などで生じる可能性があります。また、整体治療などをきっかけに発症する場合もあります。
症状
起き上がったときに生じる頭痛(起立性頭痛)やめまい、気分の悪化などが挙げられます。これらの症状は天候や気圧など環境の影響を受けやすく、調子がよいときは特に症状が現れないこともあります。また、症状がある場合でも水分を取ることや安静を心がけることで症状が和らぐ可能性があります。
慢性化すると、さらに以下のような症状が現れる可能性もあります。
慢性化した場合の症状
- 首や背中、腰の痛み
- 聴力の低下
- 耳鳴り
- 視力の低下
- 顔や喉などの違和感
- 微熱
- 動悸や息切れ
- 腹痛
- 下痢や便秘
- 集中力や記憶力、思考力の低下
- 睡眠障害
など
検査・診断
脳脊髄液減少症では症状などについて問診が行われるほか、造影MRI検査、脊椎MRI、ミエログラフィーなどの画像検査が行われます。
造影MRI検査とは、造影剤を静脈内に注入した状態で撮影するMRI検査です。脊椎MRI検査では、硬膜外脳脊髄液漏出の有無を確認します。
ミエログラフィーとは、腰の髄液腔に針を刺し、ヨード造影剤やラジオアイソトープを注入したうえでCTやMRI撮影を行う検査です。ミエログラフィーでは、髄液漏出の状態と程度、さらに脊柱内の神経の状態などを確認できます。また、造影剤を注入する際に合わせて脳脊髄液を採取し、髄液検査を行う場合もあります。
治療
脳脊髄液減少症の治療には、大きく分けて“保存的治療”“硬膜外腔生理食塩水注入”“ブラッドパッチ”という3つの方法あります。
まずは保存的治療が行われることが一般的で、発症早期であれば保存的治療のみで治る場合もあります。保存的治療のみでは改善しない場合に、硬膜外腔生理食塩水注入やブラッドパッチが検討されます。
診断・治療が行える医療機関は限られる可能性があるため、詳しくは各都道府県の案内などを確認するとよいでしょう。
保存的治療
具体的には体を安静にすることが指導されるほか、点滴による水分補給などが行われることが一般的です。もちろん、口から水分(主に経口補水液)を取ることが指導される場合もあります。
また症状に応じて、鎮痛薬などの薬物療法が検討されることもあります。
硬膜外腔生理食塩水注入
脳脊髄液が減少した硬膜内に生理食塩水を注入することで、減少した脳脊髄液を補う治療方法です。
ブラッドパッチ(硬膜外自家血注入)
2016年4月より保険適用となった治療方法で、脳脊髄液漏出症、低髄液圧症の両症例に対して検討されます。
脳脊髄液が漏れ出ている部分に自身の静脈血を注入し、血液が固まるはたらきを生かして漏出を塞ぐ治療方法です。なお、治療後は一定期間の安静が必要です。
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