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膀胱全摘除術とは? 尿路変向術や手術後の生活についても解説

膀胱全摘除術とは? 尿路変向術や手術後の生活についても解説
中村 真樹 先生

NTT東日本関東病院 泌尿器科 部長 兼 前立腺センター長

中村 真樹 先生

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筋層まで及んでいる膀胱がんの治療選択肢は、基本的に手術による膀胱の摘出です。膀胱を摘出する際は膀胱だけでなく周囲の臓器も摘出するほか、排尿機能を補うための手術も必要であり、大がかりな手術となるため治療への理解が大切です。膀胱全摘除術(ぼうこうぜんてきじょじゅつ)の概要や治療選択にあたって知っておくべきことなどについて、NTT東日本関東病院 泌尿器科 部長 兼 前立腺センター長である中村 真樹(なかむら まさき)先生にお話を伺いました。

膀胱を摘出する治療法を、膀胱全摘除術といいます。手術方法には、お腹を切開して行う“開腹手術”、お腹に開けた穴から細長いカメラを入れて行う“腹腔鏡下手術(ふくくうきょうかしゅじゅつ)”、手術用ロボットを介して行う“ロボット手術”の3つがあり、いずれも全身麻酔下で行います。なお、膀胱を摘出する際は、隣接するほかの臓器も一緒に摘出するのが標準的な治療方法です。

男性の場合は、前立腺・精嚢(せいのう)を膀胱と共に摘出します。精子を作り出す精嚢を取るので射精はできなくなりますが、勃起神経に関しては患者さんがご希望される場合は温存も可能です。

女性の場合は、卵巣・子宮・腟壁(ちつへき)を膀胱と共に摘出し、腟は縫って閉じます。腟を残すことも不可能ではありませんが、血流が多い場所のため難しい手術になります。

膀胱を摘出すると尿をためる臓器がなくなってしまうため、尿路変向術により排尿経路を作る必要があります。尿路変向術には3つの方法があり、それぞれメリット・デメリットが異なりますので、どの方法を選択するのかは医師やご家族とよく話し合って決めるとよいでしょう。

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小腸の一部(回腸)を利用して尿が通る導管を作る手術方法です。回腸を20cmほど切り離し、そこに左右の尿管をつなぎます。回腸の片側をおへその右下あたりの皮膚に固定しストーマ(排泄口)を作ることで、尿を体外に排出できるようになります。ストーマ部分には蓄尿袋を貼り付け、袋に尿がたまったらご自身でトイレに尿を捨てます。回腸導管造設術は、尿路変向術の中でも多く用いられている方法です。

蓄尿袋の交換や尿を捨てるタイミングなどは患者さんに学習をしていただく必要があるものの、比較的管理が簡単で、袋を付けた状態で入浴もできます。デメリットを挙げるとするならば、体の外に袋を付けた状態で生活をしなければならない点です。袋はズボンに収まるサイズではあるものの、人の目が気になるという方もいらっしゃいます。

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腸をつなぎ合わせて膀胱の代わりになる袋を作る手術方法で、代用膀胱造設術ともいわれます。ストーマを作る必要がないため、外見が変わらないのがメリットです。

とはいえ、代用膀胱はあくまでも膀胱の代わりに作ったものであり、尿がたまっても尿意を感じることはありません。腹圧をかけたり手で下腹部を押したりして排尿します。また、手術後は代用膀胱の容量が大きくなるまで尿取りパッドが必要になることがあります。膀胱の巨大化を防ぐために就寝中でも一定の間隔で起きて排尿しなければならず、きっちりとした自己管理が求められます。

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腸を使わず尿管を直接皮膚に出す手術方法です。回腸導管造設術と同様、ストーマを作り蓄尿袋に尿をためます。左右の尿管を1か所に集める方法もありますが、長いほうの尿管には負荷がかかってしまうため、ストーマを2か所作ることもあります。蓄尿袋を2つ付ける必要があり、尿管が狭くなった場合はステントという管を入れて定期的に交換をします。

一方で、腸を使う手術と比べて手術時間が短く済むというメリットがあるため、腎臓がもともと1つの方や長時間の手術がリスクになる方には適した方法です。

先述のとおり、膀胱全摘除術では尿路変向術が必須であり、どの方法を選択しても排尿方法が変わることになります。手術後は、膀胱がある状態での生活とは大きく異なることを、まずはご理解いただく必要があります。

近年、低侵襲(ていしんしゅう)手術の普及に伴って合併症のリスクは低くなりつつありますが、手術である以上ゼロではありません。膀胱全摘除術の際に起こりやすい合併症としては、腸閉塞(ちょうへいそく)が挙げられます。そのほか、尿管が狭くなってしまった場合は、尿の排出が滞って腎盂腎炎(じんうじんえん)を発症することもあります。

膀胱がんの治療には膀胱を温存する方法もありますが、限られた場合でしか適応にならないという側面があります。全摘ではなく部分切除の場合、膀胱がんの発生している位置によって切除できるかどうかが分かれるうえ、手術以外の治療を複数回行って治療成績がよいと判断できる方でないと部分切除は適していないといわれています。また、部分切除後にがんが再発した場合、膀胱を全摘せざるを得ない可能性もあります。

もちろん絶対にできないというわけではありませんがリスクを伴うことも多いため、選択に迷われる方は一度日本泌尿器科学会認定 泌尿器科専門医にご相談いただくことをおすすめします。

当科での膀胱全摘除術は全てロボット手術(ロボット支援下膀胱全摘除術)で行っています。ロボット手術は開腹手術よりも出血量が少なく済み、患者さんの負担を軽減できる術式です。高齢の患者さんでも実施できるケースが多かったり、術後の早期回復が目指せたりする利点があります。

(ロボット支援下膀胱全摘除術の詳細については、次の記事をご参照ください)

当科では基本的に尿路変向術もロボット手術で実施する“ICUD”という術式を採用しています。尿路変向術のみ開腹手術で行う方法もありますが、ICUDは術後の腸閉塞につながりやすい腸の浮腫が軽減できるといわれており、腸管機能の早期回復も期待できるとされる方法です。

当院ではストーマ外来を設置し、患者さんのサポートを実施しています。尿路変向術の方法を選択する際、術後の生活のイメージが持てないまま決断をするのは大きな不安が伴うはずです。

ストーマ外来では、管理方法の詳細や袋を付けた姿を鏡で確認していただくなど、できるだけ不安を取り除けるようサポートします。日本看護協会認定 皮膚・排泄ケア認定看護師も在籍しており、術前・術後問わずお困りのことがあればいつでもご相談いただける体制を整えています。

当科ではロボット手術に力を入れているものの、当科を受診したからといって強制的にロボット手術を受けることになるわけではありません。部分切除をご希望される方もいれば、放射線療法を検討したい方もいらっしゃるでしょう。治療選択に迷われている場合は、ご希望に応じてセカンドオピニオンをご紹介します。

実際、当科で膀胱全摘除術を受けられる方の多くが、ほかの医師の話も聞いたうえで治療を選択されています。患者さんにとってよりよい治療選択ができるようサポートしますので、疑問点や不安なことがあれば、ぜひ一度ご相談いただければと思います。

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