概要
臍帯ヘルニアとは、胎児期にお腹の壁(腹壁)が上手く形成されず穴が開き、へその緒(臍帯)の中に腸や胃などの臓器が飛びだした状態のことです。10,000人に1人の割合で発生する病気で、体の外に飛び出した臓器は羊膜や腹膜などの厚い膜で覆われています。露出した内臓からは水分や体温が奪われることや感染のリスクがあることから、生後早期に集中的な治療が必要になります。
臍帯ヘルニアは胎児期の超音波検査をとおして出生前診断が可能です。出生前に臍帯ヘルニアが見つかった場合は、治療を行うため産科医、新生児科医、小児外科医、麻酔科医などがそろった施設への母体搬送や、出生後の治療をスムーズにする試みが検討されます。生まれつきの心臓病や腎臓病などを併発するケースも多く、治療方針を決めるためにはさまざまな要素を考慮することが求められます。
なお、似た病名に“臍ヘルニア” (いわゆるでべそ)がありますが、臍ヘルニアは臍から飛び出した臓器が皮膚で覆われており自然治癒する傾向が強く、臍帯ヘルニアとは重症度がまったく異なる病気です。
原因
腹壁の形成過程に異常が生じる明確な原因は明らかになっていません。
胎児の内臓は、胎生11週の終わり頃に胎児のお腹に納まること(還納)が一般的です。一方、臍帯ヘルニアではそれまでに以下のどちらかの異常が起こっていると考えられています。
- 胎生3~4週に腹壁の形成過程に異常が生じる
- 胎生8週頃に還納障害が起こる
また、臍帯ヘルニアの10~40%はダウン症候群などの染色体異常を伴うため、何らかの遺伝子異常が発症に関与しているとも考えられています。
症状
体外に出ている臓器の範囲や個数によって重症度は異なりますが、重度な場合には腸、胃、肝臓など多くの臓器が体外に突出します。これらの臓器は、腹膜や羊膜といった厚い膜で包まれており、膜が破れると空気中に晒されてしまうこともあります。
体外に突出した臓器からは水分や体温が奪われやすく、脱水や低体温症、細菌感染が起こるリスクが高いため、適切な対処や治療が遅れると命に関わるケースも少なくありません。また重症な場合には呼吸器に異常が生じるケースもあります。
なお臍帯ヘルニアは、ほかの臓器の形態異常や染色体異常を伴うケースが多いとされています。具体的には小腸、心臓、腎臓の形態異常や、ダウン症候群や18トリソミー症候群といった染色体異常などが挙げられます。
検査・診断
画像検査で特徴的な所見がみられることから、臍帯ヘルニアの多くが妊婦健診の超音波検査によって発見されます。突出した臓器のサイズが小さい場合は妊婦健診で発見できないこともありますが、その場合は出生後の外観から速やかに臍帯ヘルニアと診断されます。
臍帯ヘルニアは、ほかの臓器の形態異常を伴うケースもあり、治療方針の決定や全身管理に際して産科、新生児科、小児外科、麻酔科などによる集学的なサポートを必要とする病気です。そのため、妊婦健診で発見・診断された場合は、治療を行うことができる施設への母体搬送が必要とされます。また治療方針を決めるうえでは全身状態の評価が必要であるため、出生後に血液検査や、超音波やX線などによる画像検査を行います。また、遺伝子検査が行われる場合もあります。
治療
臍帯ヘルニアでは、飛び出している臓器をお腹の中に戻すための手術が必要となります。
臍帯ヘルニアは、低体温症や脱水などが進行したり、感染症を引き起こしたりする危険性が高い状態のため、飛び出している臓器を速やかに保護する必要があります。手術は出生後24時間以内に行うのが理想ですが、飛び出している臓器が大きい場合には、1度の手術で全ての臓器をお腹の中に戻すことは困難です。そのため、数回に分けて少しずつ臓器をお腹の中に戻していく“多期的修復術”が選択されます。
なお、肝臓など飛び出している臓器が非常に大きい場合や生まれつき心臓の病気などの形態異常を伴う場合は、赤ちゃんが手術に耐えることが難しいこともあります。その場合は、生後早期の手術はせずに、飛び出した臓器を保護しながら体の成長を待って手術を行う“保存的療法”が選択されます。
予防
臍帯ヘルニアは上述したようにはっきりした原因が明らかになっておらず、さらに生まれつきの染色体異常などが関与していると考えられています。そのため、発症を確実に防ぐ方法はありませんが、高い確率で胎児期に出生前診断をすることができます。
臍帯ヘルニアは出生後間もない時期から適切な対処や治療が必要となるため、診断を受けた場合は、医師の指示に従って転院も含めた治療計画を進めるようにしましょう。
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