概要
致死性家族性不眠症 (Fatal familial insomnia:FFI) とは、脳に異常化したプリオン蛋白が凝集して溜まることによって引き起こされる遺伝性の病気です。
プリオン蛋白は常に体内に存在しているタンパク質です。しかし、プリオン蛋白を作り出す遺伝子配列に異常があると、正常なプリオン蛋白が作られず神経細胞内に異常なプリオン蛋白が産生され、致死性家族性不眠症が引き起こされます。
発症すると、眠れない、夜間の興奮状態、自律神経異常による血圧や体温の変調、幻覚、記憶力の低下などの症状がみられるようになります。進行すると認知症やけいれんなどの症状がみられ、発症から1年ほどで意識不明の状態になるとされています。
なお、致死性家族性不眠症の根本的な治療法はなく、衰弱に伴う諸症状の処置や緩和を目的とした対症療法が主体となります。
原因
致死性家族性不眠症は遺伝性プリオン病*の1つであり、ほとんどがプリオン蛋白を作り出す遺伝子の異常により発症することが分かっています。遺伝性の病気ではあるものの、遺伝の仕組みや発症の原因は明確に解明されていません。
厚生労働省の発表では、家系内に発症者が1人しかいないというケースや、遺伝子の異常があっても致死性家族性不眠症を発症しない場合もあるとされています。
*遺伝性プリオン病:異常なプリオン蛋白が脳に蓄積することによって引き起こされる病気を総称して“プリオン病”と呼ぶ。プリオン病の中でも生まれつきの遺伝子異常が原因のものは“遺伝性プリオン病”に分類される。
症状
致死性家族性不眠症は平均して40~50歳頃に発症するケースが多く、発症すると不眠や夜間を中心とした興奮状態、倦怠感、めまい、記憶力の低下、幻覚などの症状がみられるようになります。
また、自律神経バランスの乱れが生じて交感神経が過剰にはたらくようになり、血圧上昇、頻脈、多量の発汗、高体温などの身体的な症状も現れるようになります。進行すると、認知症や体がピクピク動くようなけいれん(ミオクローヌス)などの症状が出現し、やがて全身が衰弱して意識が消失し、寝たきりの状態となります。
検査・診断
致死性家族性不眠症が疑われるときは、以下のような検査を行います。
血液検査
ほかの病気との鑑別や、体の状態を把握する目的で、血液検査を行います。
致死性家族性不眠症では、血液中のカテコールアミンという物質の増加が認められます。カテコールアミンとは交感神経に作用する物質です。
画像検査
脳に異常がないか調べるために、頭部CTやMRIのほか、脳血流シンチグラフィ*(SPECT)が行われることもあります。
致死性家族性不眠症は、主に脳の視床と呼ばれる部位にダメージを受けるのが特徴です。画像検査で致死性家族性不眠症の確定診断はできませんが、脳血流シンチグラフィでは視床機能の低下が描出されるため、診断の補助的な役割を果たします。
*脳血流シンチグラフィ:静脈から放射性物質を含む薬を投与し、専用の装置で撮影した脳内の薬の分布から血流を評価する検査。
脳波検査
覚醒時と睡眠時における脳の電気的な活動を記録する検査です。
致死性家族性不眠症では、睡眠時の脳波に特徴がみられます。また、ほかのプリオン病との鑑別にも役立ちます。
遺伝子検査
致死性家族性不眠症は、プリオン蛋白を作り出す遺伝子の異常により引き起こされると考えられています。そのため、原因となる遺伝子異常の有無を調べる検査が必要です。遺伝子検査は、血液検査によって採取した白血球を用いて行います。
治療
致死性家族性不眠症の根本的な治療方法や進行を抑える方法は確立していません(2024年12月時点)。そのため、病気の進行に伴い現れる症状を和らげるための対症療法が中心となります。
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