致死性家族性不眠症(FFI)はプリオン病のひとつであり、眠れない、幻覚をみるなどの症状が現れる病気を指します。
プリオン病とは、異常なプリオンたんぱくが脳に蓄積することで脳神経細胞が障害され、行動異常や認知症などの症状が現れる疾患群です。
今回は、東京医科歯科大学の三條 伸夫先生に、致死性家族性不眠症の原因・症状から治療までお話しいただきました。
プリオン病とは、異常な構造のたんぱく質(プリオンたんぱく)が脳に蓄積することで、脳神経細胞の機能に障害が起こる疾患群を指します。
症状は病気によって異なりますが、主に行動異常や認知症、歩行障害などが現れることがわかっています。
2018年現在、正常なプリオンたんぱくがなぜ異常なプリオンたんぱくになるのかは解明されていません。さらに、なぜ異常なプリオンたんぱくの脳への蓄積がプリオン病の発症につながるのかはいまだわかっておらず、研究が続けられています。
プリオン病は、主に以下の3種類に分類されます。
・孤発(こはつ)性:原因不明のプリオン病を指します。
・遺伝性:遺伝子の変異によるプリオン病を指します。
・獲得性:プリオン病の患者さんの血液、角膜、脳硬膜の移植を受けた患者さんがプリオン病を発症したり、狂牛病の特定部位を食べたことによって感染し、発症した例が報告されています。
致死性家族性不眠症は、お話ししたプリオン病のなかでも、遺伝性プリオン病のひとつです。プリオンたんぱく遺伝子の178番のコドンの異常によって発症することがわかっています。発症すると、眠ることができなくなったり、幻覚をみたり、大量の汗をかいたりするなどの症状が現れます。
致死性家族性不眠症が発症しやすい年齢は、40歳代から50歳代であるといわれています。発症に男女差は認められておらず、男女ともに発症の可能性があります。
厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患克服研究事業「プリオン病のサーベイランスと感染予防に関する調査研究班」によると、2018年現在、日本国内では4症例が確認されています。しかし、この調査結果が全症例ではないと考えられており、実際にはもう少し患者数が多いと推測されています。
致死性家族性不眠症は、必ずしも代々遺伝する病気ではないと考えられています。家族内で何例も報告されているケースはありますが、家族内の発症がみられないケースもあるからです。
2018年現在、遺伝子の異常があるからといって必ずしも発症しないことがわかっていますが、発症する方としない方の違いはわかっていません。
致死性家族性不眠症は、その名称の通り、眠れないことが主な症状になります。さらに、夜になると興奮してしまったり、幻覚をみたりすることもあるでしょう。
また、自律神経が障害されることで体温が上昇し、汗をたくさんかいたり脈が速まるケースもあります。
2018年現在、致死性家族性不眠症の治療法は確立されていません。そのため、致死性家族性不眠症の患者さんは、発症後2年程で亡くなるケースが多いことがわかっています[注1]。発症から1年程で寝たきりで動くことができなくなり、さらにそこから1年程で亡くなるケースが多いといわれています。
注1: Joyce Schenkein. Self Management of Fatal Familial Insomnia. Part 1: What Is FFI? MedGenMed. 2006; 8(3): 65. Published online 2006 Sep 12.
発症後1年程度の間に、けいれんの一種であるミオクローヌスが全身に起こるようになります。やがて意識がなくなり、話すことも体を動かすこともできなくなる無動性無言症と呼ばれる寝たきりの状態になります。
食事などもできなくなるため栄養障害を起こしてしまったり、飲み込みが思うようにできなくなったりするため気管に食べ物や飲み物が入り込み肺炎を起こす方もいます。
致死性家族性不眠症の患者さんは、全身衰弱と肺炎が原因で亡くなる方が多いことがわかっています。
致死性家族性不眠症の診断では、脳波の測定やMRI(磁気を使い、体の断面を写す検査)、血液検査など一通りの検査を行います。しかし、これらの検査で致死性家族性不眠症と診断することは難しく、確定診断(何の病気なのかを確定させる診断)のためには遺伝子検査(個々の遺伝子を調べる検査)が必要です。
また、家族に同じような病気の方がいないかを確認することも重要です。致死性家族性不眠症の症状がみられ、家族内の発症がある場合には、病気の確定につながるでしょう。
2018年現在、致死性家族性不眠症を改善するような治療法は確立されていません。このため、治療は、眠れないなどの症状を軽減することを目的に行われます。
たとえば、眠れない方には睡眠薬が処方されたり、幻覚症状がある方には抗精神病薬が投与されたりするなどの治療が行われるケースが多いです。
致死性家族性不眠症をはじめとするプリオン病の患者さんは、献血など血液の提供をご遠慮いただいています。変異型と呼ばれる、狂牛病から感染したプリオン病以外では、血液の感染性は心配ないと考えられていますが、異常なプリオンたんぱくの性質が完全に解明されていないため安全策がとられています。
体を拭いたり、排泄の始末をしたり、痰を吸引したりする行為による感染は起こりません。このため、致死性家族性不眠症の患者さんの排泄の処理や食事の介助をしたとしても病気がうつることはありません。
致死性家族性不眠症を疑うときは、より専門的な診療を行う大学病院や専門外来を行っている病院の神経内科の受診が早期発見につながるでしょう。
致死性家族性不眠症は、病気の初期の段階では、不眠症や認知症、なんらかの精神病と間違われるケースが多いといわれています。特に、眠れないことを理由に精神科を受診される方が多いでしょう。このようなケースでは、経過がただの不眠症と異なるために精神科の医師が異常を感じ、神経内科の医師を紹介し病気が発見されることが多いようです。
2018年現在、致死性家族性不眠症の根本的な治療法は確立されていませんが、原因や治療法などの研究は続けられています。
現状では致死性家族性不眠症を発症した場合、残念ながら長く仕事を続けることは難しいかもしれません。このため、患者さんには、仕事を辞める段取りなど身の回りの整理をするよう伝えています。
不眠症と診断され、治療を受けてもあまり改善がない場合には病気の可能性を考えていただきたいと思います。さらに、幻覚をみたり夜中に汗をかいてしまったり、体温が上昇して仕方がないなどの症状がみられる場合には、なるべく早く神経内科を受診していただくことが病気の発見につながるでしょう。
記事2『ゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー病(GSS)の原因や症状とは?』では、致死性家族性不眠症と同様にプリオン病のひとつであるゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー病(GSS)について解説いただいています。
東京医科歯科大学大学院 脳神経病態学分野(神経内科) 特任教授
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