プリオン病の分類のひとつに孤発性プリオン病があります。本記事では、代表的な孤発性プリオン病である、クロイツフェルト・ヤコブ病について述べていきます。
※本記事は、厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患等克服研究事業(難治性疾患克服研究事業) プリオン病及び遅発性ウイルス感染症に関する調査研究班の研究代表者である、九段坂病院 院長 山田 正仁先生にご監修いただいております。
ヒトの孤発性プリオン病であるクロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)は、原因不明のプリオン病のことです。有効な治療法がなく、死に至る疾患です。ヒトのプリオン病の約8割を占めます。年間100万人に1人程度が発症し、発症率は全世界的にほぼ一定であり、地域分布に差はありません。平成25年度末の難病登録者数は487名であり、日本のサーベイランス(病気の発生状況の調査・集計)では、毎年77~154名の発病が確認されています。
多くは50歳以上で発症し、60歳代~70歳代に多い傾向がありますが、80歳以上で発症することもあります。孤発性CJDは、患者さんの血縁関係にあたるヒトに感染したという家族歴がなく、プリオン病の原因となるプリオン蛋白遺伝子に変異もありません。
遺伝性のプリオン病も存在し、遺伝性CJD、ゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー病(GSS)、致死性家族性不眠症(FFI)といったプリオン病がこれにあたります。CJDは1997年に厚生労働省特定疾患治療研究事業の神経難病疾患として加えられており、診断のための基準が設けられています。この病気の原因は、プリオンと呼ばれる感染因子です。その本体は本来健康なヒトにも存在する正常なプリオン蛋白が構造変化を起こした異常なプリオン蛋白であると考えられています。この感染型の異常プリオン蛋白は、主に脳や脊髄に蓄積するとされています。これにより、脳神経系の機能障害をおこすと考えられています。この異常プリオン蛋白がどのように感染し、発症するのかといった詳しいメカニズムはいまだに分かっていません。
孤発性CJDは急速に進行する認知症症状、ふらつき、ミオクローヌスと呼ばれる不規則なふるえなどが特徴です。ほとんどの症例では、比較的急性に発症します。臨床経過は3期に分けられます。
発症から急速に進行し、3〜4ヵ月で無動性無言の状態になります。一方で、比較的ゆっくりとした進行を示す非典型例も存在します。日本では患者さんの約半数が、発症から1年以上生存します。アメリカなどに比べ生存期間が長い傾向にありますが、無動性無言に至るまでの経過には諸外国との差はなく、経管栄養や比較的積極的に行われる支持的療法により無動性無言で長期延命すると考えられています。
診断は世界保健機構(WHO)の診断基準を基に行います。非典型的な症状を示す場合は臨床診断が難しい場合もあり、確定診断に病理学的な検査が必要となります。確定診断では、プリオン病に特徴的な病理(細胞や組織)所見、またはウエスタンブロット(特定のタンパク質を検出する検査)や免疫染色法といった特殊検査を行います。これらの方法で異常プリオン蛋白を検出した場合、プリオン病であることが確実だと診断されます。
また病理所見がない場合でも、急速に進行する認知症症状に加え、ミオクローヌスと呼ばれるけいれん・視覚症状または小脳症状・錐体路または錐体外路症状・無動性無言などの特徴的な症状や、特徴的な脳波や脳脊髄液やMRIの所見を認める場合、臨床的にほぼ確実なCJDと診断されます。
孤発性CJDにはいまだに有効な治療法はなく、対症療法や支持的な治療が行われます。多くの場合は急速に進行し、発症後数カ月で寝たきりの状態になります。その後、全身衰弱・呼吸麻痺・肺炎などにより亡くなります。
国家公務員共済組合連合会 九段坂病院 院長
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