プリオン病に感染した場合、専門医の治療を受けることが非常に重要です。しかし患者さん自身がその事実を受け止め、病気と向き合っていくためには、周囲の支援や正確な情報を知ることができる環境も重要なのではないでしょうか。本記事では、プリオン病の治療と社会的支援について述べていきます。
※本記事は、厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患等克服研究事業(難治性疾患克服研究事業) プリオン病及び遅発性ウイルス感染症に関する調査研究班の研究代表者である、九段坂病院 院長 山田 正仁先生にご監修いただいております。
プリオン病は孤発性・遺伝性(家族性)・獲得性に分類され、いったん発症すると進行性で致死的な神経変性疾患です。現在のところ、治療は対症療法のみで、進行を抑制することが証明された治療法はありません。
プリオン病の原因である感染型のプリオン蛋白は、正常の脳に存在する正常型のプリオン蛋白を感染型のプリオン蛋白へと構造変化させます。感染型のプリオン蛋白は不溶性で、脳に蓄積していきます。これらの過程で神経障害がおこり、脳神経系機能に異常をきたすと考えられています。
現在、正常プリオン蛋白から感染型プリオン蛋白への構造変化や蓄積を阻害する薬物、感染プリオン蛋白の凝集性を抑制する薬剤、細胞変性を抑制する薬剤等の研究開発が行われています。しかし、患者さんに対して行われた臨床試験(治験)では、どの薬剤に関しても、いまだ明らかな有効性が確認されたものはありません。また、プリオン病はヒトだけでなく動物にも感染する人獣共通感染症ですが、動物に対しても有効な根本的な治療法が存在しない病気です。しかし、ふるえなどの症状を軽減する治療や支持的な治療法が行われます。
プリオン病は、専門医師による診断と治療を受けることが第一といえます。また、プリオン病の治療を進めていく上で、患者さん家族に病気に対する怒りや悲嘆、これからの生活に対する不安といったマイナスの感情が出てくることもあります。大きな困難に直面した人々が心理的なショックや怒り、悲嘆、不安等を感じることは自然なことです。
しかし、ほとんどの人々は時間の経過とともに自分の力で事実に向き合い、気持ちを整理していく力を持っています。一般的に、自分の状況に心理的に適応していくためには、2年から3年かかるとされています。プリオン病の支援団体や支援機関が、患者さんの気持ちを整理する一助となることを期待します。
人は、たとえ厳しい状況に追い込まれても、状況が把握できていると感じられるときのほうが気持ちが落ち着くことが多いとされています。そのため、疾患に関しての正確な情報を知ることが推奨されています。たとえば、難病情報センターではプリオン病のような難病に関しての一般的な情報提供を行っています。患者さんは一般的な疾患の情報だけではなく、医療費助成に関する情報を得ることもできます。また、ヤコブ病サポートネットワークのホームページには患者家族支援情報が掲載されています。
◯ 難病情報センターの疾患情報ホームページ
◯ プリオン病患者家族の方々、プリオン病のリスクの不安のある方々へのカウンセリング(プリオン病研究班ホームページ内)
◯ CJD Support Network(英国の当事者団体)
◯ Creutzfeldt-Jakob Disease Foundation(米国の当事者団体)
引用元:プリオン病診療ガイドライン2014「プリオン病に関する情報サイト」
プリオン病患者さんやそのご家族の心理社会的支援に携わるのは医師や看護師だけではありません。心理カウンセラー・医療ソーシャル・ワーカーといった専門家への相談も可能です。遺伝性プリオン病が疑われる場合は、臨床遺伝専門医や、認定遺伝カウンセラーといった専門家の存在も支援に役に立つことが多いです。
また、厚生労働省では神経難病患者在宅医療支援事業として各都道府県にCJD担当専門医を配置し、診断困難な症例に遭遇した場合には各都道府県を介して出張診察を依頼できる体制をとっています。
食欲不振・食欲過多・不眠・睡眠過多・気分の変動・その他抑うつ状態などが疑われる状況がみられた場合は、精神科医や心療内科医に相談しましょう。プリオン病に直面して食欲不振や不眠などがみられることは、ある程度正常な心理反応ですが、それが極端に強かったり長く続いたりする場合は精神的な治療が有効な場合があります。
国家公務員共済組合連合会 九段坂病院 院長
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