「クロイツフェルト・ヤコブ病とは-孤発性プリオン病」では、プリオン病の分類のひとつである孤発性プリオン病についてご説明しました。本記事では、分類のふたつめである遺伝性プリオン病について述べます。
※本記事は、厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患等克服研究事業(難治性疾患克服研究事業) プリオン病及び遅発性ウイルス感染症に関する調査研究班の研究代表者である、九段坂病院 院長 山田 正仁先生にご監修いただいております。
遺伝性プリオン病は、プリオン蛋白質の遺伝子変異が発症に関係していると考えられています。遺伝性クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)、ゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー病(GSS)、致死性家族性不眠症(FFI)に分類されます。遺伝性プリオン病の遺伝形式は常染色体優性遺伝です。常染色体優性遺伝では、変異のある遺伝子を持つ親から子どもには約50%の確率で変異遺伝子が遺伝します。しかし、遺伝的浸透率(遺伝子の異常を持っている場合、実際に発病する率)が低く、実際には変異遺伝子を持っていたとしても発症しない場合もあります。つまり、発症した患者さんのご家族の中に同じ病気を発症する方もいる一方、発症しない方もいるのです。どのくらいの頻度で発症するかはいまだ分かっていません。
臨床症状はプリオン蛋白遺伝子の変異部位によって異なります。この病気の診断には遺伝子検査が必須となりますが、遺伝子に異常がある方全員が発病するわけではないため、診断の際には注意が必要です。遺伝子検査に加え、問診・MRI・脳脊髄液検査などを行い、総合的に診断します。この病気の有効な治療法はいまだありません。
家族性クロイツフェルト・ヤコブ病(家族性CJD)とも呼ばれます。感染の原因となる感染型プリオン蛋白は、健康なヒトの体内に存在する正常プリオン蛋白の構造変化によって生じたものです。正常プリオン蛋白は第20染色体上にある遺伝子から作られ、主に中枢神経系、少量ですがリンパ系組織でも発現しています。正常プリオン蛋白は、感染性のない蛋白質です。遺伝性CJDでは、この正常プリオン蛋白遺伝子の特定のコドン(遺伝暗号)に変異があり、そのためにアミノ酸配列が変化した結果、正常型プリオン蛋白から感染型へ変化しやすくなっているものと考えられています。しかし、変異によっては変異をもっていても発症しない場合もあり、発症のメカニズムは単純ではありません。
遺伝性CJDの症状は、遺伝子の変異の部位によって少しずつ異なります。遺伝性のない孤発性のクロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)の典型例と同様の例では、行動異常・性格変化・認知症・視覚異常・歩行障害などが急速に進行し、しばしばミオクローヌスと呼ばれる不規則なふるえを認めます。発症から半年以内に自分の意思で動くことが困難になり、寝たきりの状態となります。多くの場合は急速に進行し、発病後数ヶ月以内で寝たきりとなります。その後、全身衰弱・呼吸麻痺・肺炎などで亡くなります。
プリオン蛋白遺伝子の102番や105番などのコドンに変異のあるヒトで認められる遺伝性のプリオン病です。この病気は年間100万人におよそ0.1〜0.2人が発症します。発症年齢は40〜60歳代にわたり、30歳代の若年で発症することもあります。主な症状は、プリオン蛋白遺伝子の変異部位によって異なります。日本でみられるGSSで最も多いのは、進行性の小脳失調(運動を円滑に行えない状態)を主徴とする病型で、コドン102番の変異を示します。
酔っ払いのような歩行障害や手足の運動障害がみられます。次に多いのはコドン105番目に変異のあるものです。ヒトでは痙性麻痺(けいせいまひ)という、両足の突っ張るような歩行障害を発症することが多くあります。いずれもやがて認知症が徐々に出現し、起立・歩行ができなくなり、寝たきりの状態となります。
プリオン蛋白遺伝子の178番のコドンに異常が認められるプリオン病です。この病気は数家系で報告されており、40〜50歳で発症することが多いです。視床と呼ばれる脳の部位が主に侵されます。進行性に眠れない・夜に興奮状態となる・幻覚が見える・記憶力が低下する・体温が上がる・汗をたくさんかく・脈が速くなるといった症状があらわれます。やがて認知症やミオクローヌスと呼ばれるけいれんをおこすようになり、1年前後で意識がなく寝たきりの状態になります。この病気は発症後2年以内に全身衰弱・肺炎などで亡くなることが多いです。
国家公務員共済組合連合会 九段坂病院 院長
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