若年性特発性関節炎の治療は、生物学的製剤の登場によって近年大きく進歩しています。小児膠原病のエキスパートであり、東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 生涯免疫難病学講座で教授を務める森雅亮先生に、若年性特発性関節炎とマクロファージ活性化症候群(MAS)の最新治療についてお話をうかがいました。
若年性特発性関節炎(JIA)に有効な生物学的製剤は2015年現在で3種類あります。
いずれも炎症性サイトカイン(炎症物質)を阻害することで、関節での炎症反応を鎮める働きをします。
しかしその一方で、これらの生物学的製剤は私たちの身体の正常な生理学的反応も同時に抑制してしまいます。このため、使用にあたっては十分な専門的知識と経験をもつリウマチ専門医(小児科)、または若年性特発性関節炎(JIA)研修会の受講が義務づけられています。
本来、抗リウマチ薬はリウマチ専門医のみが扱うべきであると規定されていますが、小児科領域のリウマチ専門医が少ない現状を踏まえてPMDA(医薬品医療機器総合機構)と議論を重ねた末、研修会を受講した医師もリウマチ専門医に準じた形で携わることができるようになったものです。
成人の関節リウマチですでに使用実績のある薬剤で、免疫をつかさどるT細胞とB細胞の相互作用をブロックする働きがあります。生物学的製剤でサイトカインを抑えてしまうと、生体に本来備わっている正常な免疫反応にも影響があるため、感染症にかかりやすくなるというリスクがありますが、このアバタセプトでは感染症の合併が少ないとされています。関節型JIAを適応として臨床試験が進んでおり、いずれ認可される見通しとなっています。
全身型JIAに対して有効な生物学的製剤は現在のところIL-6をブロックするトシリズマブだけですが、欧米ではIL-1βというサイトカインをブロックすると改善がみられる場合があると報告されています。カナキヌバブはクリオピリン関連周期熱症候群(CAPS)の治療薬として認可されている薬で、IL-1βをブロックする働きがあります。
全身型若年性特発性関節炎のもっとも重い合併症であるマクロファージ活性化症候群(MAS)は、血球貪食症候群のひとつです。高サイトカイン血症により短時間で多臓器不全に至り、しかるべき治療を行なわなければ命に関わります。この病態が疑われた場合は早急に小児リウマチ専門施設に連絡をとり治療を開始する必要があります。
しかし、マクロファージ活性化症候群(MAS)には2つの大きな問題があります。まず全身型若年性特発性関節炎のうち7〜10%がMASに移行し、何の兆候もなく、あるとき突然に発症してしまうという危険性です。このことは全身型JIAの治療の中でも大きなウエイトを占めています。
その一方で、生物学的製剤のトシリズマブを使っていると熱も出ませんし、炎症反応を示す血中のCRP値の上昇もなく、症状も緩和されます。しかし、だからといってMASの発症を防ぐことはできないのです。この場合、最終的な診断の決め手となる骨髄穿刺(こつずいせんし)を行なっていては間に合わず、病態の見極めが非常に難しくなります。
そこで横浜市立大学大学院名誉教授の横田俊平先生と私がMASを発症した患者さんの経過を調べて、ベッドサイドで分かる血液データから指標となる7つの項目をまとめました。これらはかなり普遍的なもので、症状の経過とリンクしているため、MASが重症化しないうちに治療を始めることができるようになりました。マーカー(指標)はベッドサイドで分かるものでなければなりませんし、時間との勝負ですので、例えば朝に体調が悪ければ翌日でなくその日の夕方には血液検査をするようにしなければ、亡くなってしまうこともありえます。
現在はMASの治療にシクロスポリンという免疫抑制作用を持つ薬剤が使われるようになりました。シクロスポリンはカルシニューリンという細胞内の情報伝達を阻害する物質から作られ、ミトコンドリアの膜を安定化させる働きがあります。このシクロスポリンとステロイドを併用することで、いったんMASに陥っても早い時期であれば元に戻すことができます。だからこそMASの発症を早期に見つけて治療を始めたいところなのですが、トシリズマブを使うと通常の病態変化を示さなくなるというジレンマがあるのです。
もっとも重要なことは、患者さんの動きをベッドサイドできちんと診ることであり、診察の中で細かなことも見逃さないということがすべての基本であると考えます。血液のデータはあくまでも二次的なものでしかありません。親が子どものようすをみて敏感に感じ取る変化や、看護師がわずかな異変に気づいて報告したひと言が患者さんを救ったことが幾度もあるのです。
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