若年性特発性関節炎は、16歳未満の子どもに発症する、原因不明の慢性関節炎の総称です。若年性特発性関節炎には多くのタイプがあり、タイプによって症状や治療法が異なります。大人の関節リウマチに似たタイプもあります。若年性特発性関節炎の原因や症状、治療について、東京女子医科大学 講師の宮前 多佳子先生にうかがいました。
若年性特発性関節炎(JIA)とは、16歳未満で発症し、6週間以上の原因不明の関節炎*が続く慢性の病気です。
過去、「若年性慢性関節炎(JCA)」「若年性関節リウマチ(JRA)」と呼ばれていたものは、2018年2月現在、この若年性特発性関節炎に統一されています。
関節炎…関節を包む関節包の一部である滑膜(かつまく)と呼ばれる部分が炎症を起こし、滑膜が異常増殖することで関節の痛みが起きること。通常の発熱などに伴う関節痛とは、痛みが発症するメカニズムが異なる。
2018年2月現在、若年性特発性関節炎は大きくわけて「全身型」と「関節型」「症候性」の3種類にわかれ、そこから7つのタイプに分類されます。
1. 全身型若年性特発性関節炎
2. 少関節炎(持続型、進展型)
3. リウマトイド因子陰性多関節炎
4. リウマトイド因子陽性多関節炎
5. 乾癬性関節炎
6. 付着部炎関連関節炎
7. 未分類関節炎
全身型は、関節炎のほかに発熱、皮膚の発疹、リンパ節の腫れ、肝臓・脾臓(ひぞうなど、全身に症状が現れるタイプです。一方、関節型は関節炎を中心とした局所的な症状にとどまります。
乾癬や潰瘍性大腸炎などとあわせて二次的に起きる若年性特発性関節炎は、症候性の若年性特発性関節炎と呼ばれます。
タイプ別では、全身型と関節型の3種で90%以上を占めています(全身型41.7%、少関節炎20.2%、多関節炎(リウマトイド因子陽性・陰性あわせて)31.9%)。そのため、今回は全身型と関節型に絞って症状や治療などを説明します。
ペイレス:ストレスを感じるアジア人の子ども
2018年2月現在、どのタイプの若年性特発性関節炎も、詳細な原因は不明です。発症の要因として考えられているものとして、ストレス、免疫反応、遺伝的要因、感染症などがあります。
全身型若年性特発性関節炎は、アジア人に多いとの報告もあります。
若年性特発性関節炎の発症には、遺伝的要因が関わっている可能性があると考えられています。しかしながら、2018年2月時点で若年性特発性関節炎の発症に関わる遺伝子が特定されていないことから、詳細はわかっていません。
このような点から、若年性特発性関節炎は必ず遺伝する疾患ではないとの見方がなされています。
全身型若年性特発性関節炎には、三大症状ともいえる3つの主症状があります。
弛張熱とは、1日のうちで体温が1度以上変動し、体温が低い場合でも平熱より高い発熱のあるタイプです。39度を超える熱が出ることもしばしばあります。しかし、すべての方に弛張熱が起きるわけではありません。
リウマトイド疹は、通常はかゆみを伴わない不定形の紅斑(赤いまだらの発疹)です。大きさや形はさまざまで、リウマトイド疹の生じやすい部位も特に定まっていません。
高熱の際や、発熱の前にリウマトイド疹が生じることがあり、発熱と連動して出やすいと考えられています。
関節の滑膜が炎症を起こし、関節に痛みや腫れなどが生じます。関節の痛みが生じる部位は、膝、股関節、足、肩、ひじ、手などの関節です。関節炎を治療せずにいると関節の破壊が生じることがあります。
しかし、全身型では発熱やリウマトイド疹などの全身症状が強く現れ、関節炎の症状が出にくいことがあります。また、発熱のみがみられる場合は原因不明の発熱とされて、すぐに全身型若年性特発性関節炎と診断がつかないこともあります。
全身型若年性特発性関節炎のそのほかの症状として、リンパ節の腫れ、肝臓や脾臓(ひぞう)の腫れ、心膜炎*などが現れることがあります。
心膜炎…心臓を包む膜(心膜)に炎症が起きる病気。胸痛や、心膜液の増加により心機能に障害を起こす。
全身型若年性特発性関節炎では、約8%にマクロファージ活性化症候群を合併することがあります。
マクロファージ活性化症候群とは、血液中の免疫細胞の一種であるマクロファージとT細胞が異常に増殖・活性化する状態で、命にかかわることもあります。
関節型の主な症状は、関節炎です。関節の痛みや腫れ、関節を動かしにくいなどの症状が現れます。
全身型と比べて症状が局所的であることから、関節の痛みを訴えられない小さな子どもの場合は、すぐに保護者の方が異変に気がつくことができないことがあります。今まで歩いていた子どもがハイハイに戻る、スプーンや箸が使えなくなるなどといった状況から、保護者の方が異変に気づいたケースもみられます。
若年性特発性関節炎では、ぶどう膜炎を合併することがあります。特に、少関節型若年性関節炎においては、約20%にぶどう膜炎を合併すると報告されています。
ぶどう膜炎とは、眼のなかの虹彩・毛様体・脈絡膜の3つからなる「ぶどう膜」に炎症が起きた状態を指します。ぶどう膜炎は視力障害が残ることがあるため、注意が必要です。
若年性特発性関節炎の治療は、全身型・関節型ともに薬物療法を中心に行います。どちらも使用する薬剤は基本的に同じですが、一部投与の方法が異なったり、一方のタイプにのみ使われたりする薬剤があります。
全身型若年性特発性関節炎の治療は、以下の主に3つの薬剤を使用します。
1. まずは、関節炎を抑えるために子どもの関節炎に適応のある非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を用いる
2. NSAIDsで効果がみられない場合には、若年性特発性関節炎に適応のある経口ステロイド薬を使用。重症の場合はステロイドパルス療法*を実施。
3. ステロイド薬を用いても効果が不十分、またはステロイド薬の減量が難しい場合には、若年性特発性関節炎に適応のある生物学的製剤 を使用。
ステロイドパルス療法…ステロイドを3日連続で点滴=1クール として、多量のステロイドを投与する治療法。ステロイドパルス療法終了後は、内服でステロイドを投与し、徐々にステロイドを減らしていく。ステロイドパルス療法では入院が必要。
関節型若年性特発性関節炎では、全身型と異なり、入院せずに治療が可能なことがあります。使われる薬剤は以下のとおりです。
1. まずは、関節炎を抑えるために、子どもの関節炎に適応のある非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を用いる。
2. NSAIDsで効果がみられない場合には、若年性特発性関節炎に適応のある抗リウマチ薬を用いる。しかし、この抗リウマチ薬だけでは効果が現れるまで時間を要するため、少〜中用量の、若年性特発性関節炎に適応のある経口ステロイド薬を併用することもある。
3. 抗リウマチ薬を用いても効果が十分出ない場合は、若年性特発性関節炎に適応のある生物学的製剤のヒト化抗ヒトIL-6レセプターモノクローナル抗体や、同じく若年性特発性関節炎に適応のある生物学的製剤であるTNF阻害薬を使用。
※2018年2月にはT細胞活性化阻害薬が承認された。
全身型若年性特発性関節炎の重症例で使われるステロイドパルス療法は、感染症や血圧の変動に注意する必要があります。また、長期に高用量のステロイド薬を用いる場合は、これらに加え、糖尿病や高血糖、骨粗しょう症などの副作用にも注意が必要です。身長が伸びないなどの成長障害が起こる可能性があることもあります。
若年性特発性関節炎の治療期間は、病気の重症度や治療反応性(病気に対してどれだけ治療が効くか)によって異なります。1年から数年のうちに症状が落ち着き、治療が中止できることがあります。
若年性特発性関節炎は、治療を行って1年〜数年で、薬が不要になる程度まで症状が落ち着いた状態(寛解)にできる可能性があります。しかし、一度寛解してもストレスなどによって落ち着いていた症状が再び現れることがあるため、なるべく心身の負荷がかからないような生活を送る心がけが必要です。
若年性特発性関節炎は、そのタイプにより治療経過が異なります。しかし、早期に診断・治療することによって重症化や関節の破壊を避けることはできます。また、若年性特発性関節炎に使用できる生物学的製剤が登場したことから、適切なタイミングで免疫抑制剤や生物学的製剤を使用すればステロイド依存を少なくし、症状を抑えることが期待されています。
若年性特発性関節炎の治療は変わりつつありますから、ぜひ諦めずに、主治医と相談しながら治療を受けてくださればと思います。
※記事内では、薬剤名を特定しない形で記載しております。
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