国内では50の施設にガンマナイフが設置されていますが、大学病院は3施設のみです(2023年10月時点)。そのうちの1つである獨協医科大学病院では、国内初とされるガンマナイフ“Elekta Esprit(エレクタエスプリ)”を導入し、頭部に病気を抱える患者さんの診療に尽力しています。今回は、米国ピッツバーグ大学で長年にわたりガンマナイフの治療および臨床研究に従事され、現在は獨協医科大学病院 脳神経外科において教授を務められる叶 秀幸先生に同院でのガンマナイフ治療の流れや診療の特徴、今後の展望についてお話を伺いました。
一般的なガンマナイフ治療のスケジュールと同様、当科でも基本的に2泊3日での治療となります。フレーム固定の場合は局所麻酔下で固定を行ったのち、照射を行います。照射時間は病変の種類や大きさ、個数によって異なりますが、おおむね30分~数時間程度です。照射中、痛みや音は発生しません。治療後に気を付けていただくことも特になく、当日もしくは翌日には通常どおりの生活をしていただけます。
Elekta Espritという機器に更新をしたことで、対応できる患者さんの幅が広がりました。以前までは照射位置を手動で計測・設定しなければいけない場面もあったため、あまりに数が多い腫瘍の場合などは対応ができないケースもありました。新しい機器では照射位置の設定が全て自動で行えるようになり、たとえば腫瘍が10個以上あるようなケースでも治療が可能です。
また、Elekta Espritには“Lightning(ライトニング)”という治療計画ソフトウェアが搭載されています。ライトニングでは医師が腫瘍の位置を決定し、必要な線量を入力するだけで治療計画が自動で作成されます。より精度の高い照射が叶えられるだけでなく、治療計画を作成する時間を短縮でき、ひいては患者さんをお待たせする時間の短縮にもつながっています。
大学病院ならではの集学的治療を提供できる点が当科の強みの1つです。集学的治療とは、さまざまな治療法を組み合わせて行う治療のことを指します。たとえば、大きな腫瘍がある場合は基本的に手術の対象となりますが、当科では場合によってはガンマナイフ治療も組み合わせて実施しています。術前にガンマナイフ治療を行うことで腫瘍が縮小すれば、手術をせずに済む可能性もありますし、術後に照射することで再発防止にも役立ちます。もちろん、照射後も腫瘍が成長し続ける場合や一刻も早く手術が必要と判断される場合は手術を行いますが、当科にはさまざまな領域の専門医が在籍していますので、治療が難しいといわれる症例に対しても脳神経外科のスタッフ全員で柔軟にフォローできる体制があります。
現在当科でのガンマナイフ治療は2泊3日となっていますが、いずれは日帰り治療が叶えられる環境を目指したいと考えています。実際、私が研究をしていた米国ピッツバーグ大学では、全員日帰りでの治療でした。日帰りでの治療を叶えるためには、専属のスタッフを多数配置しなければ難しく、当院ではまだ実現できていないのが現状です。いずれ大学病院内にガンマナイフセンターを設置することで日帰り治療が実現できれば、“時間が確保できない”という患者さんや遠方からいらっしゃる患者さんにも迅速に治療を提供でき、よりよい予後にも貢献できると考えています。
放射線治療は重要な治療法の1つですが、諸外国に比べて日本では実施割合が低いといわれています。その理由としては、被ばくや後遺症などに対する不安を抱く患者さんが多かったり、治療計画を担える医療者が不足していたりすることが理由だと考えられます。また、治療を行える施設が点在していることで症例数が集まりにくいというのも理由として考えられるかもしれません。こちらのページでも述べたとおり、放射線治療は研究のうえで確立された治療法であり、治療に用いられる放射線量は適切に管理されています。放射線治療という治療を患者さんに正しく理解していただける診療を続けるのはもちろんのこと、ガンマナイフが行える数少ない大学病院として多彩な症例データを蓄積・研究することで、いずれガンマナイフ治療において世界の中心として位置付けられるような病院を目指したいと考えています。
ガンマナイフ治療をはじめとする放射線治療は日々進歩をしており、その方法もさまざまです。どの治療法、どの装置が一番ということはなく、大切なのは個々の病状や体調に合った治療を行うことです。放射線という言葉の印象のみで敬遠しすぎず、まず治療の選択肢の1つとして放射線治療について聞いていただき、よりよい治療選択のきっかけになればと考えています。当科においてはスタッフ一同、それぞれのチームが専門性を生かしながら丁寧な治療に努めていますので、安心して受診をしていただければと思います。
獨協医科大学病院 総合がん診療センター/脳神経外科 教授
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