概要
遺伝性脊髄小脳変性症とは、脊髄小脳変性症のうち遺伝が原因で発症するものを指します。脊髄小脳変性症は、平衡感覚や手足の筋肉の動き、運動機能などを調整する小脳に異常をきたし、ふらつき、めまい、排尿障害などの症状が出現する病気の総称です。
現在のところ、進行を防いだり治癒したりする治療法は確立されておらず、症状に対する対症療法が中心に行われます。
原因
遺伝性脊髄小脳変性症は、主に常染色体*の異常が原因で発症し、その多くが常染色体顕性(優性)遺伝**であるといわれています。
常染色体優性遺伝性の遺伝性脊髄小脳変性症は、これまでに32型が報告されています。このうち、もっとも発症頻度の高いものは14番染色体の異常によって発症するSCA-3(マシャド・ジョセフ病)で、そのほか6番染色体の異常によって発症するSCA-1、19番染色体の異常によって発症するSCA-6などがあります。そのほか、まれに性染色体の異常によって発症するケースもあります。
*常染色体:ヒトの持つ46本の染色体のうち、性別を決定する役割を持つ2本の性染色体を除いたもの。
**常染色体顕性(優性)遺伝:両親から引き継いだペアの遺伝子のいずれか一方に異常がある場合遺伝する形式。対して、両親の双方に同じ遺伝子異常がある場合に、はじめて子どもに病気が遺伝する常染色体潜性(劣性)遺伝がある。
症状
遺伝性脊髄小脳変性症では、以下のような症状が現れることがあります。
- 歩行時のふらつきや転倒
- ろれつが回らない
- 手を動かそうとすると震える
- 自律神経症状:立ちくらみ、排尿障害、下痢、便秘など
- 末梢神経症状:感覚の鈍さ、しびれなど
このほか、手の震えに加え、筋肉のこわばりや動作が鈍くなるなどのパーキンソン様症状を合併することもあります。若年で発症した場合には、てんかんや知的障害、意思とは無関係に体が動く不随意運動を合併するケースもあります。
症状の経過には個人差があるものの、一般的にはゆっくりと進行するといわれています。
検査・診断
血液検査や脳波を測定する検査(神経生理検査)、MRI検査などが行われます。
また、家族内に脊髄小脳変性症の発症を認める場合には遺伝性脊髄小脳変性症を疑い、遺伝カウンセリング*および遺伝子検査**が考慮されるケースもあります。
*遺伝カウンセリング:遺伝子検査を受けるにあたり、遺伝の専門医(臨床遺伝専門医)や遺伝カウンセラーと直接相談ができる場のこと。遺伝に関するさまざまな医学的情報の提供、心理面や社会面などに関する支援を受けることができる。
**遺伝子検査:採血を行い、血液中の染色体異常の有無を調べる検査のこと。
治療
遺伝性脊髄小脳変性症の進行を抑えたり治癒させたりする治療法は確立されておらず、症状に対する対症療法を中心に行います。
具体的には、運動失調症状に対して甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)誘導体であるタルチレリン水和物などを用いた薬物療法やリハビリテーションが行われます。2023年10月から、遺伝性痙性対麻痺*に対する歩行リハビリテーションとしてロボットスーツによる歩行運動処置が保険適用として承認されています1)。このほかにも、有効な治療法の開発に向け、さまざまな研究が行われています。
*遺伝性痙性対麻痺:脊髄小脳変性症の病型の1つで、歩行障害や足のつっぱりなどを主症状とする遺伝性の病気のこと。
参考文献
- 難病情報センター. ” 脊髄小脳変性症(多系統萎縮症を除く)(指定難病18)”. 厚生労働省. 2021. https://www.nanbyou.or.jp/entry/4880. (参照 2024-03-25)
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